#0026 革新的創造 / Innovative Creation
装備の説明は結構簡素ですが、全部詰め込んだら長すぎるしいつまでたっても話が進まないので今後も長話は省略されると思います。もしくは終わった後にセルンが要約するかですね。
新しい装備を試すためには当然今の装備を外さないといけない。
でも、貫雲は密閉型でそう簡単には外せない。
そういうわけでケーリムが作業場から持ってきたのが各種動力工具だ。
「よし、ボルト外すから動かないでよ? 外した後は新しい装備を付けて……
まあそこからは君次第かな? もちろん機能については説明するけどね」
工具を扱う彼の手つきはまさに熟練の技といったところだね。
喋りながらだというのに何一つ迷いがない。
それからほんの少しでケーリムはすべての固定用ボルトを
外し終えて、今度は新しい装備の骨格を持ってきた。
この感じ、多分誰かほかのワイバーンに装備させて
着脱手順は予習してあるんだろうね。用意周到で彼らしいよ。
新しい装備、波渡の構造に目を向けてみると、
正確には胴体部分だけはしっかりと胸当てがついていて、
これは外部装備との接続部の関係かな?
その胸当て部分もよく見ると空洞の腕を取り付けるための
くぼみが掘られているの分かった。
「それで、ケーリム? この装備は装甲の代わりを光盾の表面が
務めるって話だけど……もちろん信頼性の方は確保してあるんだよね?」
彼の腕を疑うわけではないけど、やっぱり命を預けるものなんだから
聞かずにはいられなかった。
でも、それに答えたケーリムの様子は自信たっぷりといったところだ。
「そりゃぁもう、防壁が破れるときはまず間違いなくフレームや
機関部も壊れるような状況だから、はっきり言って物理装甲よりも
信頼できるくらいには仕上げてあるよ。全部ナノラティス製に
すれば話は別かもしれないけどさすがにそこまでは無理無理。
コストがかかりすぎる」
ははっ、それはそうか。
帝国の場合は、あとは第一の文明も多分そうかな?
一部を除いてだけど物質的な装甲の強度には限界があるし、
それを克服するために魔法防壁主体にするのは飛行装具本体の
軽量化の観点からでも確かに合理的、か。
「よし、取り付けはこれで完了。
じゃあ今から言う魔術指令をそのまま入力してみて」
「了解」
そうこうしているうちに作業は終わったみたいだ。
装着だけでなく僕が普段使っている各種追加装備も万全だね。
で、えぇと魔術指令入力ね。
まあこれは今どきのならどの装備でも共通する部分かな。
「WaveRider.InitializeComponents("State_AutoDetect")」
さて、やってみようか。
ケーリムが口に出した魔術指令を僕は復唱する。
「おおぅ、なにこれ、視界が紫色に……ああ、戻った」
指令を入力した瞬間、僕の身体は周囲の空気から切り離され、
同時に貫雲のそれよりはるかに開放的なヘルメットの開口部分が
薄い紫色の透き通った光で閉ざされる。
でも、その光はすぐに色を失って、
フレームの隙間から吹き込む僅かな風も戻ってきた。
……とても不思議な感覚だ。
「驚いたでしょ? この防壁は通常時は動きやすさを最優先して動作するんだ。
だから風も感じられるし、ヘルメットをかぶったままでも楽に飲食できるよ?」
ケーリムの言う通り、部屋の隅に置かれた送風扇から来る
僅かな風は僕の表皮に間違いなく吹き付けているし、
飛行装具――もしくは鎧を身に着けているような感覚は一切しない。
本当にこれで攻撃を防げるのか不安になるほどに。
「まーた固まって……ほら、水でも飲みなよ」
正直まだ実感が湧かずおろおろしているところ、
ケーリムがよくわからない空き缶に水を入れて持ってきて――ちょっ、何?
そう思っていたらケーリムは突然僕に向かって水を掛けた。
「ちょっと、いきなり何なのケーリム……うん?」
「ふふふ、どうかした?」
……濡れてない。
思いっきり水を掛けられたのに、身体には一滴もその水は付いていなかった。
なるほどね。
「いや、大丈夫。何でもないよ、おかげさまで」
「それはどういたしましてだね。ま、冗談は置いておいて、
目に見えなくても、実感が無くても防壁はこうやって
動いてるってこと。なんか疑わしそうにしてたからついね」
ケーリムの意図が分かったとき、
ついニヤニヤしてしまったよ。お互いに顔を見合わせて。
本当に彼の技術はすごいものだ。
「うん、じゃあ外で試してくるよケーリム。ああそれと、
他に覚えておいた方がいい魔術指令はあるかな?」
防壁部分の起動方法は分かったけど、
これだけ複雑な装備なら他にもかなりたくさん機能がありそうだよね?
こういう部分は早めに聞いておこう。
「そうだねぇ、基本的なものとしては実は制御系統の初期化、
起動を行うためのさっき教えた指令とあとは防壁の有効無効の
切り替えくらいなんだよねー。細かい機能の変更用の指令はあるんだけど
今説明するようなものじゃないかぁ。なんで、好きなように
飛び回ってくるといいんじゃない? 一応防壁の停止は
"WaveRider.DeactivateBarrier()"でできるよ。
再展開したいときは"ActivateBarrier()"で」
ケーリムは退屈そうにしながら説明してくれた。
……意外だね。彼のことだしたくさん用意しているのかと
思ったけど基本機能はとても単純なんだ。
「なるほど……。まあ簡単に扱えるならそれはそれでいいことだし、
分かったよ。行ってくる」
「ふふっ、楽しんできてよー?」
手を振って見送ってくれるケーリムを背に小さく翼を広げ
挨拶をしたら僕は倉庫の外へ出る。
はぁ……少し歩いただけでも明らかに貫雲より軽くて
動きやすいことが分かるけど、でもただそれだけじゃない。
どうもこれは普通の鎧ではないみたいだね? 足や翼、
尻尾を動かすたびにわずかだけど波渡の骨格も
それに追従しているような感覚があるんだ。
もしかして、駆動装置付きなの? わずかな違和感の正体を
掴むためもう少し外を歩いてみる。
……うん、間違いない。これは動力甲冑の一種だね。
身体を動かしたときに感じる、自分の力で鎧を動かしているのではなく
鎧が僕を支えてくれているような感覚。
融合機関の出力を駆動装置にも利用しているんだ。
それに骨格の関節部をよく見てみると、小さな隙間から液化マナの
発する淡い光が漏れていることも分かる。
これは相当な代物だよ。
まあ、感心してばかりいても仕方ないし、さっそく飛んでみようか。
周囲をまばらに通り過ぎてゆく港湾労働者たちの
物珍しそうな視線のことは気にせず周囲の安全を確認した後、
僕は勢い良く羽ばたいて飛び上がる。
――この時点で性能の違いは明らかだった。
羽ばたくとき、つまり空気を押しのけるときに感じる抵抗はほとんどなく、
地面を蹴る脚はバネでも仕込まれているかのような
勢いで僕の身体を空へと打ち出した。
そして水平方向の速度を稼ぐための羽ばたきも
以前のような風の重みを感じさせない。
これなら、気流制御無しでずっと戦闘機動を維持できそうだと
思うくらいにはね。
さて、あとは波渡が一体どこまでできるか。
試してみようじゃないか。
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Perspective: Observer
連合領西部に位置する貿易港、テレイルから一つの影が空へと昇る。
そしてそれは体力の消耗を微塵も気に掛けないほどの勢いで激しく羽ばたき、
わずかな間で町の壁を飛び越え不毛の荒野へと乗り出した。
「ああ、風が気持ちいいね……。こうやって飛ぶのは何年ぶりなんだろう」
その影の正体、探検家のセルンはため息をつくようにして言葉をこぼす。
セルンと言えば常に全身を覆う飛行装具を身に着けていることで
知られているが、今この空を舞う彼の装いは広く知られた
その特徴とはかけ離れたものである。
"何年ぶり"という言葉が意味するものは、彼がついに
装備を新たにする時が来た、ということか。
そんな彼は、まるで今初めて空を飛んだとでも言わんばかりの
落ち着きのない様子ではるか遠方まで続く荒野へと針路をとるのだった。
数分後、彼がたどり着いたのはテレイルから
北北東に位置する海岸線沿いの岩場だ。
ガラスに走る亀裂のような裂け目が岬の奥へ向けて広がり、
その合間を強く不規則な風が吹き抜け、時折打ち寄せる波が大きな飛沫を上げ
視界を遮れば、うねる海面はこの亀裂の中を翔け抜けようとする者の前に屹立する。
セルンが新たな装備の使い心地を確かめようと考えているのなら、
ここは最適な場所だと言えるだろう。
天然の飛行訓練場を前にした彼は真剣な面持ちでそれを見据え、
深く息を吸い、そして吐き出す。
「さて、ここからが本番だね。魔工エンジンも気流制御も無し。
頼れるのは僕自身の翼だけだ。……よし、行こう」
セルンは自分に言い聞かせるようにしてそう呟くと、
翼を畳み眼下に広がる黒い海面へと飛び込んだ。
覚悟を決めた彼による性能試験――あるいは自分自身への試練か。
どちらにせよ、彼の目指すところは明らかである。
[装備品: 極超音速飛行装具 波渡]
なみわたり、またはウェーブライダーと呼ばれる飛行装具。
魔工技師のケーリムがセルンのために開発した特別な装備である。
構造は胸当てと兜部分を除けばすべてが骨格のみで構成されており、関節部には
力軸の刻印による駆動補助機構が搭載。魔法防壁技術の高度な応用により
光の壁が全身を覆う装甲の代わりとして機能するという
特異な設計が最大の特徴と言えるだろう。
駆動装置や防壁の維持のためには融合機関と呼ばれる帝国製の
強力な動力装置が使用され、常に防壁を展開し続けても
なお有り余る出力を実現している。
また、開発者であるケーリムはこの余剰出力に関して
将来の拡張余裕であると発言しており、この装備を使用する
セルンの意見や要望に合わせてさらなる改良を加えることが示されている。
コメント:
数百種類の点群情報を利用して動的に変形というのは、
まあイメージ的にはシェイプキー変形と、それらをブレンドした中間形状
を防壁の表面で行っている感じですかね。
シェイプキー変形とは何かといわれても困ります。
3Dモデルいじってる人なら知ってるんじゃないですかね。
ちなみに凸 (Convex)形状、凹 (Concave)形状どちらを使用するかも自動で決定されます。
ただしこれは魔術指令で設定の上書きが可能で、
他にもあるとケーリムが言っていた部分がこれらの高度な設定のことです。
この世界の機械の動作制御はアナログコンピューターに近い構造なので、
制御刻印盤やセンサー類はなかなかとんでもないことになってます。
そのほか:
ケーリムが特に躊躇もなくセルンに水を掛けたのは、
水に濡れたら困るようなものがそばに置かれていないことを
把握したうえでのことです。さすがにそうでない場所では別のやり方を使います。




