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存続限界点: 朽ち行く世界と翼ある探検家 / Hard Limit: Decaying Reality and the Winged Explorer  作者: 核分裂断片
000 鉄と砂漠と: 砂に埋もれた記憶たち / Sand and Steel: Buried Memories of the Badlands
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#0022 遠隔誘導 ≠ 自律制御 / Remote Guided ≠ Autonomous

もうそろそろお話が次の段階に進むんじゃないですかね。

外に出ると、彼らはこの鋼烏を

発射台のようなものに据え付けて準備を始めた。


その発射台には2本のレール状の構造があるから

流光のカタパルトと似たようなものかな?。


鋼烏の外観を改めてみてみると分かるのは

まず揚力を得るための主翼と体当たりするための衝突部分は

完全に別の構造に分かれているということ。


主翼には制御翼面は無くて、代わりに

4枚ある尾翼で姿勢制御をする形かな。


胴体の中央部分が魔工エンジンで、それを挟み込むように

閃電放射器、動力、制御部が取り付けられていることも分かる。


コンパクトだけど設計はかなり複雑だね。

そしてもう一つ言えるのはこれが王国製の装備ということ。


どこから仕入れた――押し付けられたか気になるところだ。


わかる範囲で考えながら発射? 準備の様子をしばらく見ていると、

二個体とも作業の手を止めた。


「よし、準備完了です。ハイン、説明書を」


「ああ、えっと、これっす」


グリフォンの店主が多分助手か何かであろう僕の同胞に指示すると、

呼ばれた彼――ハインは僕に説明書を手渡す。


さて、内容の方は?


「ふむ、なるほど……。思念入力なんていうのがあるんだね。

僕の腕は仮想肢インターフェースか何かだったはずだからまた別の系統か」


説明書にあったのはこの鋼烏の制御に使用されている

"思念入力"の概要と、そのインターフェースに接続するための魔術命令文。

そしてものすごく……ふんわりとした操作説明だった。


うん、ケーリムにこの腕の操作方法を説明されたときのことを思い出したよ。


でも、重要な点は簡潔なようでね。基本的には姿勢制御は

鋼烏に向かってほしい場所を思い浮かべるだけ。


そして武装の操作は通常の魔術指令入力で行うみたいだ。


さらに言うと魔工エンジンのスロットルは向かってほしい場所と

鋼烏の位置関係から勝手に調整されるみたいで随分と先進的。

ただ一応は手動スロットル操作もできるとも書かれている。


あとは……ん?

ああ、これ、本来は受像装置でこれが見ている映像を

表示しながら操作するんだ。


……困ったな。僕のヘルメットには受像装置が付いていない。


まあ、物は試しかな。


ひとまずは説明書を凝視する僕の姿を見守っていた彼らに、

受像装置について尋ねてみようか。


「ふーむ、まあ一通り読んだよ、ありがとう。

ただ一つ気になる点があってね? 僕のヘルメット、受像装置がないんだ」


するとグリフォンの彼はすぐに何かを閃いたようですぐに口を開く。


「ああ、それならうちに置いてるんで、貸しましょうか?

商品じゃなくて試験用の備品だし気にせず使ってもらって大丈夫なんで」


「じゃあ頼もうかな」


店主が目をやる間もなくそれを聞いたハインは走って店に戻ると、

数秒で見覚えのある設計のヘルメットを持って戻ってきてくれた。


……見覚えがあるというのまはあ、

王国空軍で使われているモデルだからだね。


映像表示技術を使って視界に高度や速度みたいな

情報を表示できる機能が付いていたはずだ。


さて、自前のヘルメットを一度外してハインが持ってきたヘルメットに

交換して、これで試験準備は完了かな?


「えー、一応なんですけど、それかなり速度が出るので

あまり勢いよく飛ばさないようにだけお願いしますね。それではどうぞ」


「いや、セルンさんどんな操縦するんすかね?

ちょっと楽しみだな」


忠告してくれる彼と勝手に興奮しているハイン……。

何か無駄に緊張するなぁ。まあ、やってみようか。


まずは離陸、もしくは発射。

説明書によると非使用時の格納装置を兼ねる

レールランチャーは簡単な魔術命令文 "Disengage Restraint"

で発射可能な状態にできるみたいだね。


"PictureReceiver.SetTargetIdentity"の引数に鋼烏本体に書かれた

個体番号を指定すればヘルメットの受像装置にこの鳥の見る景色が映し出され――


そうしたらあとは通常通り魔工エンジンを始動して、"Launch" でカタパルトを作動。


指令を送るとすぐに鋼烏は打ち出され、魔工エンジンの排気で

発着場にわずかに積もった埃を巻き上げながら空へ舞い上がった。


レールを離れ、機体が完全に空中に投げ出されると

同時に後ろ向きに折りたたまれていた金属製の翼が広げられ、

うっすらとしたアーコロジーの空からの光を跳ね返して小さくきらめく。

綺麗だね。


さあ、発射という動作状態はここまで。後は僕が操らないと。


意識を半透明な像として映し出される鋼烏の視界に

集中させながらまずは簡単な空中機動を試してみる。


視界の中心に映る何もない空中。機体の前方へ向かうことを

意識すればこの烏はそこを目指して針路を取り、

視界の左右を意識すればその場所を正面に捉えるようにして旋回する。


……思ったよりは素直だね。ただ、操作に集中する分にはよくても

戦闘中に自分自身で戦いながらこれを操縦できるかと言われれば怪しい。


実際、今も意識のほとんどは受像装置に映し出される

鋼烏の視界に注がれている状況で、はっきり言って周囲の状況――

例えば僕のすぐそばにいる二個体の様子にすら意識を向けるのは難しいんだ。


映像を見ながら飛ばす関係で、自分が今ここにいないように

感じてしまうからかもしれない。


ワイバーンの嗅覚と聴覚が優れていて助かったよ。


操作感自体はなかなか悪くないから……なんとかモノにしたいところだ。


一通りの基本的な運動は試したし、あとは着陸かな。


後で僕の操縦を見ているハインの様子が気になるけど、

とにかく何とかしてこの烏を降ろそう。


着陸の方法は三つあるみたいで、一つ目は水平着陸。

これはまあ腹側のそりで滑走着陸するもの。


二つ目は垂直着陸。精密な操作がいるけど機体を

真上に向けてゆっくりと降ろす方法。


そして三つめは空中回収。これは操作している僕が空を飛んでいる

状態じゃないとできないけど、レールランチャーに直接帰還させる方法だね。

……なかなか難しそうだ。


とりあえずこの場所は広くないから選ぶなら垂直着陸かな?


旋回して受像装置に映る僕や店の二個体の姿を見つけたら、

垂直着陸に向けたアプローチに入る。


僕の経験上こういうのは通常の着陸とは違って、

高度を上げて減速しながら降りたい場所の手前付近で

一気に機首を上に向け、そのまま魔工エンジンの推力で

機体を支えて安定させて、最後は徐々にスロットルを下げればいいはず。


ほんとに、自由に動かせない翼というのは不便だね。

同時に、そんな自由のない金属が空を飛べるのは驚異的ともいえる。


今説明した通りにこの烏が進むべき場所を意識してやれば……よし!

無事着陸成功だね。


「おお、初めてなのにほんとうまいっすねセルンさん。

着陸は結構失敗する人多いんですけど」


「見事でしたよ本当に。なかなかいいもの見せてもらいましたわ」


受像装置付きのヘルメットを外して後ろを振り向くと、

観客は随分と盛り上がっていることで。


まあ、本番は僕自身が飛びながら鋼烏を独立して行動させるときだから

この程度で慢心してはダメだね。


「実戦でもちゃんと扱えればいいんだけどねぇ。

要練習かな。とにかくこれは可能性を感じるし……

今ここで買わせてもらおうかな」


「ありがとうございますー、正直買ってくれそうな方がいなくて

困ってたんですよね……」


「はは、場所空いてよかったっすねカーダさん」


……客の前でそれ言うのはどうかと思うよ。まあ、決まりだね。


とにかく、安堵する二個体と一緒に店内に戻って支払いを済ませ

……えー、サイズ的にすぐには持ち出せないのでしばらくは

店で預かっておいてもらうことにした。


そもそも、今の僕のヘルメットには受像装置がないし、

実際に運用するなら装備の更新をしてからだよ。


さらに言うとレールランチャーは背中に背負う形になるだろうから

装備する位置がレーザーライフルと競合するし。


ライフル、いっそのことケーリムにあげようかな?

彼は傭兵もやってるし、確か前に自分で使う分の両手用呪文投射器が

欲しいとか言っていた覚えがあるんだ。


彼の腕なら自分で呪文投射器を組むなんて簡単だと思うんだけど

どうも自分自身より研究開発優先になりがちらしくて。


……確か傭兵仕事の取り分もほとんど開発に回して自由に使えないとも言ってたかな。


それにしてもなかなか面白いものを見られたよ。

飛行種族専用の装備販売だなんて、

そんなものが連合領にあるなんて思わなかった。


これもロカウル特有なのかもね。




代金の後に追加で保管手数料を支払って、僕はまたこの町の空へ戻る。

装備品や消耗品は一通り見て回ったし、そろそろ昼食にしようかな?

ああいや朝食か。時計を見るとまだ10時ごろで、

改めてこの町で時間の感覚を維持することの難しさを実感させられた。


はぁ、ケーリムと連絡が取れるのはいつになるやら。

そして合流場所も。ちょっとした旅になりそうな予感がするよ。


====


店を出てから、僕は一度傭兵ギルドの様子を見に行くことにした。


現地の様子はと言うと上からでもはっきり見えるほどの

行列は相変わらずだけど……どうも建物の外に仮設の受け付けが

用意されたみたいで通りにいくつかのテントが並んでいるのが見える。


おかげで建物の中へと続いている列は少し落ち着いてきているし、

今なら用件を言えば通してもらえるかな?

とりあえず下りてみようか。


出来るだけ群衆の密度の低いところを選んで着陸して、

歩いてギルドの支部へ向かう。


空からだと少しまばらになったように感じられたけど

地上から見るとそれほど変わらないね……。


「ちょっといいかな? 既に完了済みの仕事で報酬を

受け取りに来たんだけど、通してくれないかい?」


ひとまずは入り口付近で列の整理をしている職員に声を掛けてみる。


「ああ、報酬の受け取りだったら今建物の裏で

やってますんでそっちへどうぞ」


……なるほど。混みすぎてどうしようもないから

雑多な処理の受け付けは退避させたんだね。


「ありがとう、じゃあそっちに回るよ」


対応してくれた彼に礼を言って建物の裏へ。


ロカウルの建物の"裏口"というのは基本的に狭くて薄暗い場所だけど、

所によっては店や施設側の従業員の出入りや荷物のやり取りにも使うから、

傭兵ギルドの場合はそれなりの空間が確保されているんだって。


まあ決して広くはないけどね。でも混雑を避けて大規模な募集と

関係ない手続きを落ち着いて行えるようにするには十分か。


「やあ。表は本当に騒がしいね。参ってしまうよ。

さて、3812番の依頼について報酬を受け取りに来たんだけど、問題ないかな?」


運のいいことに他には誰もいなかったから、

受付の職員に用件を述べる。


「3812番……少々お待ちを。確認してきます」


まあ、待っていればいいね。

さすがに中は相当に忙しいみたいで10分ほどはかかったけど、

席を外した彼は特に問題なく戻ってきた。


「えぇ、3812番の報酬がこちらになります。

全目標完遂、交戦規定違反なし、提出物、証拠品の不備無しのため

満額支払いですね。お疲れ様でした」


「ありがとう。君たちも忙しいだろうけど頑張って。じゃあ」


簡素な仮説カウンターに差し出された報酬――クレジット札と

支払い明細を受け取ったら、僕は表へと戻り再び空へ上がった。


これでようやく溜まっていた予定は処理できたし、あとはもうのんびりしていよう。


休んでいていいのに働いていては身体が持たないよ。

街の外をうろついたり最近の新聞記事でも読んだり……

あとはアークタワーの資料室で役に立ちそうな情報を探すのもいいかな?


とにかく、再びやってきた自由なんだし大事にしたいね。


[装備品: 遠隔誘導飛翔体 鋼烏]


王国空軍で現在評価中の遠隔誘導兵器の一種。

形態としては極小サイズの飛行機械と呼べるもので、

魔工噴進機関と動力、制御部を中心に翼面、閃電放射器と

衝角を取り付けたものとなっている。


通常は専用のカタパルトから発射され、回収時は着陸させるか

このカタパルトへ再度ドッキングさせることで行う。

また、ドック状態であっても魔工エンジンの噴射が可能なため

射出しなくとも補助推進装置として使用することもできる。


ドック時主翼、および尾翼は折り畳み可能。

閃電放射器は光束砲への換装も可能だが液化マナ容量の関係上

発射回数は大幅に制限されることになる。


コメント:


名前は はがねがらす と読みます。

字が似てるのでわかりにくいですが とり ではないです。


本来は複座型の飛行機械の後席から操作するもので、

飛行兵が自分の身体で戦いながら同時に操るものではない。


あくまで遠隔操作式なのでいろいろと融通が利かないですが受像装置と

接続しての運用なので危険な場所の先行偵察などにも使えます。


つまり、今後セルンが潜る遺構の調査で出番があるということですな。


遠隔操作の最大範囲は1600m(=2000メルハ)ほど。


凄くメタな言い方をすると偵察ドローン枠の装備が欲しいよねという話。


そのほか:


人物名の綴りは


ハイン = Hayn

カーダ・ラター = Khada Latah


カーダの方はラターが苗字(家系名)になりますが、

ハインはワイバーンなので苗字はないです。


ついでにグリフォンたちの家系についても少し。


そもそもなぜ5つの家系に大きく分かれているかと言うと、グリフォンたちは遺伝子が薄くなり、血が混じっていくと突然変異などの異常個体が生まれやすくなる奇妙な性質を持っており本来はそれへの防衛策として血筋の大きく異なる個体との交配を禁止していたのが始まりです。時が流れるにつれこの制度は本来の意図が忘れられ階級制度のように変化していきますが、ストーリー本編の時代では再び正しい形へと戻っています。この性質から人間の都市で暮らすグリフォンたちもつがいを作るときは必ず同じ家系の出身者を選びます。逆に遺伝子が濃くなる分には問題がない体質。


それぞれの家系ごとに領地を持って別々の地域で暮らしているのもこの関係で、異なる家系の個体と必要以上に接触しないためですね。

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