#001E 出撃不能期間: その3 / Away from Sortie: Part 3
仕事を終えて、僕は夜の空を飛びロカウルへ戻る。
本当に、いくら国境地帯が何もない場所とはいえ
あそこまで堂々と略奪行為を働く輩がいるとはね。
……まあ別に僕は彼らの犯行現場を見たわけじゃないけど。
傭兵の仕事なんてそういうものだよ。
僕たちは金で雇われた兵隊で、
その仕事の正当性までは判断しない。
あからさまに非合法な仕事でもない限り
いちいち文句を言うことは無いから。
というか、そんな仕事は普通ギルド側が拒否するし
あまり現実的じゃない想定だね。
ふう。町に帰ったらとりあえずは報告と
行きたいけど――時間的にギリギリかもしれない。
まあこれは夜襲というのをやってみたかった
というだけでわざわざ夜まで待った僕が悪いよ。
――軽くため息をついて、僕はロカウルへと
真っすぐ針路をとった。
傭兵ギルドの営業時間に間に合わせるため、
いつもより大きくスロットルを開いてね。
====
およそ10分ほど飛んでロカウルへ戻ってきた。
いつも通り西側の発着場から入ればいいかな?
……この時間だし税関職員は寝てそうだ。
緩やかに滑空しつつ高度を落として正面に
着陸誘導灯を見たらそのまま滑り込むように着地。
「こんな時間に誰かと思えば。ようこそ」
相変わらず暇そうにしている衛兵が迎えてくれた。
「もう少し早く帰ることもできたんだけどね。
仕事中に試したいことがあったから夜まで待っていたんだ」
「それで、今帰ってきたと」
「そういうこと」
彼に挨拶をしたら、相変わらず重たい装甲扉を抜けて中へ。
予想通り税関の職員は眠気で机に突っ伏している。
「やあ、君たちは寝ててもいいのかい?」
声をかけると、みんな眠そうにゆっくりと起き上がる。
「ああ……すいません。検査……するんで、おまちを」
……さすがにこれはどうかと思うよ、本当に。
それだけ出入りの少ない場所なんだろうけど。
まあ、その後は特に問題なく検査を受けて街に入ることができたよ。
外は夜だというのに、ロカウルの町は常に薄暗い青空の下だ。
これ……外の時間帯に合わせて照明の色や
明るさを変えたりはしないものなのかな?
さすがに規模が大きすぎて難しいのか、どうなんだろう。
――おっと、時間が押しているんだった。
報告に帰らないとね。
眼下に広がる大都市の空に飛び込んで、
傭兵ギルドの支部を目指す。
少し高めのスロットルで1分ほど飛べばもう到着だ。
急いでいるせいで少し荒い着地になったけど許容範囲内。
何度こう言ったかもわからない重い扉を乱暴に開いて
傭兵ギルドの建物に飛び込み、僕はそのまま窓口へ直行した。
「これ、3812番の書類と証拠品の撮像機。
僕はもう宿に戻るからあとはよろしく」
……職員に必要なものを全て渡したら、
邪魔にならないように僕はすぐに建物を出た。
急ぎすぎて随分と早口になってしまったよ、笑えるね。
品物を押し付けられた職員も引き気味だったし
少し申し訳ない気持ちになる。
別に明日に回してもよかっただろうに
何を馬鹿なことをしているのやら……。
まあ、でも今日中に提出しておけば明日の昼には
報酬を受け取れるだろうし、悪いことではないか。
……よし、今日はもう休もう。
その後僕は真っすぐ宿へと戻って、預けていた鍵を受け取り
自室でゆっくり休むことにした。
明日は何をするかな? そろそろ調査報告書の評価も
終わっているころかもしれないし、
科学議会から呼ばれるか――もしくはもしくはカリアたちが
報酬についての交渉を済ませてくれているかもしれない。
急ぐことはないとはいえ楽しみなことは多いんだ。
ケーリムとも話したいことが沢山あるし……なんだかんだで退屈しないな。
====
ABSOLUTE TIME: +74996 192 07:50:00.000
……朝だ。
……時計は7時50分を表しているからおそらくそうだと思う。
ロカウルに住んでいる者たちは普段どうやって昼夜の感覚を
掴んでいるんだろうと本当に不思議に思うよ。
いや、でもあらゆる場所に時計が置かれているくらいだから
もう時間は見て確認するものというのがここでは当たり前なのかもしれない。
ああ、確か特定の時間になると音を出して
知らせてくれる時計があるんだっけ?
まあ今はいいや。昼頃まで時間を潰して、その後は傭兵ギルドに寄ってみようかな。
宿を出て、僕は町に乗り出す。
今日も外の様子は穏やかで、いつもと特に変わったところはない。
行き交う町の居住者と車両。
そうだね――今の内に細かい消耗品を補充しておこうかな?
ロープや杭は余っているけどカラータグと
永久照明はそれなりに使っていたはず。
あとは念のため筆記用具も。
今後また報告で大量の文章と図を書くことが無いとは思えないしね。
地味だけど僕たち探検家にとっては大事な道具だ。
それと携行食もあったほうが……ああ、これは前に買った缶詰がまだ残っているからいいか。
よし、まずはこの辺りを探そう。
周囲の安全を確認して空へ上がり、町の東門前の大通りへ。
例の地面の穴――物流ステーション イプシロンへ潜る前の
補給で寄ったのと同じ店でいいね。
見覚えのある看板を探して、店の中へ。
時間帯が早いおかげであまり他の客はいないみたい。
で、まず永久照明は……これだ。
小物と言えるサイズの道具類がまとめて並べられた陳列棚の中にそれはあった。
王国で流通しているものと違って
こっちのはコイン型じゃなくて六角形のパネル型なんだね。
あまり気にしていなかったけどこんなところでも違いがあるらしい。
続いて山岳用の装備の棚からは経路を示したり
危険なものを強調するためのカラータグ。
ただ鮮やかな色がついているだけじゃなくてかなり強く光を反射するんだよね。
おかげで暗いところでもライトさえつけていればすぐに気づくことができる。
なんなら発光するタイプもあったかな?
とにかくこういう道具一つをとってもいろいろな設計があるんだ。
おもしろいねぇ。ケーリムが装備の開発に熱心になるのも分かる気がするよ。
あとは売り場の端にひっそりと置かれている交換用インクを
かごに入れたら、支払いを済ませて買い物は終わり。
消耗品ばかりだからそこまでの金額にはならなかった。
昨日の仕事の報酬を受け取れば全く気にならないほどの出費だよ。
さて、次は朝食でも食べようかな……?
そう思って店を出て、僕は一度空へと上がった。
朝食と言っても何がいいだろう?
店に食べに行くのもいいけど、
少し気分を変えてみたいという気持ちもある。
見晴らしのいいところで余っている缶詰を食べるのもよさそうだよね。
そうやっていくつかの案を検討しながら、しばらくの間街の上空を飛ぶ。
最終的には、町の外周、防壁の上から町を眺めつつ缶詰を食べることになったよ。
====
――町に入るときに何度も見ている景色だけど、
相変わらずアーコロジーの街並みは科学技術というものの
可能性を感じさせてくれる。
もちろん王国にもルミナス・ランス発射施設みたいな
巨大構造物はあるよ? でも連合では基本的にこういう、
高くそびえたつ建物というのが当たり前なんだ。
高層建築が珍しいものではない町と言うのは
おそらく向こうでは王都エトゥスだけ。
建物以外を含めるならエーティルもかな?
あそこの軍港はいつも海軍の超大型艦が出入りしているから。
……そんな風にまた考え事をしながら食べていたらもう缶詰も空っぽだ。
うん、一旦下に降りようか。
そう思っていたんだけど、中心街の方向からこちらへ飛んでくるものが見えた。
見覚えのある白と黒の毛並みを持ったグリフォン。
アシャーだね。何の用だろう? 僕の出した報告の件で進展があったのかな?
よく見ると首に鞄を下げているし、まあそんな類だろうとは思う。
「ここにいたか。探したぞ?」
「おや、報酬の支払いが決まったのかな? それとも議会が呼んでる?」
僕のすぐ隣に着地したアシャーにそう尋ねてみると、
彼は前脚で首に下げた鞄から書類を取り出し、僕に渡した。
「読んでみればわかる、その両方だ。
さて、こちらも仕事があるんでアークタワーで待っているぞ。では」
そして用が済むや否やアシャーはすぐに後ろを振り返って飛び立っていく。
……忙しいのは変わらないみたいだね、彼は。
なら余計な手間を掛けさせないためにもすぐ後についていこうか。
彼もタワーに戻るなら道中でいろいろ話を聞けるかもしれないしね。




