#001C 傭兵セルン: 前半 / Cernn the Merc: Upper Half
短めで、考察と分析パートが大半ですね。
まあどんな動作をするか (予想は付くけど)わからない遺物を
いきなり実戦でというわけにはいかないので。
仕事を請けた僕は、軽く装備を確認してロカウルの町を出る。
今回の目標は町の南南東で、距離はなんと49,000メルハだ。
……これは放置されるのも納得の依頼だね。
さて、移動時間を使って詳しい依頼内容――期日や交戦規定、
報告時に提出する証拠品の規定やらを見てみようか。
えぇと、まず期日は今から3日後。距離があるし、
移動手段の確保や物資の用意を考えたらそんなものかな。
それで交戦規定に関しては特にこれといった指定はないね?
つまり傭兵ギルドの標準交戦規定の通りであれば問題ないということ。
証拠品はまあさっき渡された撮像機で写真を撮ってくればいい、と。
――この感じだと、敵の戦力が一切不明という以外は
ごく普通の依頼と見てよさそう。
でも、偵察中に偶然見つけたなんて面白い話だよね。
付属の資料には偵察機の乗員が望遠鏡を向けた先に偶然
偽装された坑道の入り口に入っていく不審な武装集団が
映りこんだとあるんだけど――彼らも運が悪いよ。
最終的には、この時偵察機が記録した写真を近頃の目撃情報や
被害者の証言と照らし合わせて正体の特定に至ったんだとか。
……崖の壁面に開けられた坑道に隠れて、
王国側から来る旅行者や小規模な隊商を襲い、持ち物を奪う。
そんな感じの強盗団ということだね。
まあ依頼の背景事情は僕にはそれほど重要じゃない。
今考えるべきなのはこの仕事をどうこなすかだ。
よし、じゃあ考えてみようか。
まず、坑道の入り口はほぼ垂直な崖の下にあって、
壁面に向かって真っすぐに穴を空けた構造になっているみたいだ。
地図の等高線を見る限りだと、入り口の向きは東南東で、
崖の上の方はいたって平坦な地形をしている。
僕は空を飛べるから、崖の上に降りて今回の標的が
出入りするところを狙うのが一番安全で確実だろうね。
Ls.122でも鉄の光でも、どちらかを使って狙撃するか
もしくはいっそのこと飛び降りて格闘戦でもいいかもしれない。
……待って、そうだ。物流ステーション イプシロンで回収した遺物、
まだ実際に試していなかったね?
いい機会だしここで試してみようかな。
特にこの磁気ぷらずまカッターとかいう遺物は近接武器として
使えそうだし、本当にそうなのか、使い勝手はどんなものかは
今後のためにも見ておいた方がいいと思うんだ。
一度どこかに着陸して、先に遺物が予想通りの動作をするかだけ見ておこう。
流石に実戦で使い方を間違えて……なんていうのは考えたくない。
――降りるならあのあたりがいいかな、よし、試してみよう。
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街道からも遠く離れた何もない荒野に降り立ち、
回収した二つの遺物の動作試験をする。
何もない場所だから誰かを巻き込む心配はおそらくない。
起動した瞬間町一つが吹き飛ぶような遺物ならそうはいかないだろうけどね。
そうならないことを祈る限りだよ。
……誰に祈るのかは知らない。
そもそも、祈るって何だろう? 言葉としては広く使われているのに、
実際のところみんな本来の意味は知らない。
まあいいや、まずは磁気ぷらずま――プラズマカッターから。
回転式の武器ラックからそれを呼び出し、金属製の右手で
グリップらしき部分をしっかりと握る。
……おそらく持ち方はこれであっていると思う。
なにせ、こちら側を向いている開口部、噴射口の類は無いから。
はぁ……緊張するよ。見た目や構造からある程度の機能は
予想できるわけだけど、もしそれが外れていたら
ほぼ間違いなく死ぬか、大怪我をすることになる。
探検家や考古学者というのは、多分運もないとやっていられない仕事なんだと思うよ。
どの向きで遺物を持つかという二択を外せば死ぬだなんて、あんまりだ。
もしこの腕が本物だったなら、今頃震えているだろうとそう実感する。
……よし、構造をしっかり観察してから実際に試してみようか。
まず、グリップ部分は黒い塗装がされていて、それ以外の大部分は黄色。
連合製の動力付き工具と似ているし、
名前からしてもまあ工具で間違いないと思う。
何かが発射されたり噴き出したりしそうな開口部の上下には逆V字型に
広がるカバーのようなものがついているから、
これは多分発射、噴射される何かの熱や飛沫?
そういうものから使用者を保護するための機構の可能性があるね。
ほかにはカバーを開くと中に動力装置が入った部分があるから、
ここに刺さっているものと同じタイプの動力装置を持っていれば
エネルギーが切れても補充できるはず。
他に見るべきところは……ああ、これかな。
傾けて側面を見てみると、グリップの近くにLs.122や鉄の光の
動作選択用ダイヤルと似たようなものを見つけた。
えぇと、二つあるダイヤルの内一つ目は"Short" "Medium" "Long" に、赤字で "SAFE"
二つ目は "Narrow" "Wide" とあるね。
うん、範囲は狭い方が事故が起こりにくいだろうしここはShortとNarrowを選んでおこうか。
じゃあ、覚悟を決めて……。
僕は遮光バイザーを下ろし、この遺物――プラズマカッターのグリップを
感覚の通っていない冷たい手でしっかりと握って前方に構え、軽く引き金を引く。
そうすると、ある程度予想していた通りに噴射口から
青紫の炎が噴き出した。――でも、それは決して一つの筋は描かなかった。
炎は真っすぐと伸びるのではなく先端、つまり上側が長く伸びたような
8の字に似た形状を作り出し、そしてループするように噴射口へと戻ってくる。
剣を振るうのと同じように動かしてみても、
その先のとがったループする炎はしっかりと形を保って
装置の動きに追従し、崩れることが無い。
……8の字を描いて循環する青い炎か……。
とても奇妙だけど、同時になぜわざわざこんな動作をするのか
という設計意図が伝わってくるものでもあった。
よく見てみると炎の輪は二重構造になっていて、
下側から噴射されて上側に戻るものと
その反対のものがあり、この二つはループの方向も逆だ。
8の字の輪を描いて廻る炎の先端部、カッターの切先とでも
言えばいいかもしれないその部分を見てみると、揺らぎのない
安定した流れが形成されていることが分かる。
つまり、二つのループする炎の流れを使って鋭い切断面を
出せるようにする工夫ということなんだね。
はぁ……。その設計思想には驚かされるけど、
機能そのものは予想通りで助かったかな。
……もう片方も試そうか。
引き金から指を離してカッターを停止させ、ダイヤルを"SAFE"に
合わせてから一度武器ラックにしまう。
代わりに取り出したのは小型の盾のような形をした遺物の、
目録にあった名前でそのまま呼ぶところの
"Sl.924 Directed Defensive Screen Projector"
こっちの方は気が楽だね。名前も見た目も防御用の遺物のはずだから、
さすがにこれで怪我をすることはたぶん無い。
あくまで多分だけど、カッターと比べれば
はるかに安全なのは変わらないと思うよ。
じゃあ試そうか。
近接武器を使わない僕は盾なんて使ったことが無いけど、
とりあえず腕を通して構えてみる。
ふむ、これもグリップ部分に引き金があるね。
なら、これを引けば防壁が展開されるということかな。
さっきよりも落ち着いた気持ちでその引き金を引くと、すぐに僕は納得した。
目の前に現れたのは前方のほぼ半球状の範囲を守る光の壁。
見た目はシャッターシールドの防壁表面とよく似ている。
ということはおそらく似た系統の技術を使っているんだと思う。
技術というよりは原理という方が正しいのかな?
この遺物に関してはとても分かりやすいものだった。
そしてもう一つ分かったことがあって、
それはあまり長時間は防壁を維持できないということ。
でも、瞬く壁のように使い捨てではないみたいで、
盾状の構造の裏側を見てみると残り作動時間を表す表示装置を見つけた。
何度か試して作動時間や動作用エネルギーの補充時間を
確認してみたところ、最大時間は8秒、補充も同じく8秒みたいだ。
……まあ、どれくらいの攻撃まで防げるかは
ここでは試しようがないけど、使い方は理解できた。
よし、動作試験はこの辺でいいかな、仕事を始めよう。
出入りの瞬間を狙うというのを最初は考えていたけど、
新しい装備――プラズマカッターと防御スクリーンの
実戦運用もかねてこちらから乗り込む方針でね。
[遺物: Sl.924 Directed Defensive Screen Projector]
光の壁らしきものを前方半球範囲に展開することができる遺物。
形状から考えても非実体型の盾として使用されていた可能性が高い。
展開される防壁は非常に強力であり、連合の砲兵陣地に配備されている
大型の多段磁気加速砲の砲弾をも阻止可能であることが後の実験で判明。
また、発見者であるセルンが命名権を放棄したため、抽選により命名権を得た
王国の遺物研究者により"半月の覆" / "Moon Covert"と名付けられた。
コメント:
前方180度の範囲を防御する高出力シールド装置です。
瞬く壁のような圧倒的な防御力というわけではないですが、
それゆえに再利用可能なのが特徴。
[遺物: Pl.14 Industrial Magnetoplasma Cutter]
セルンが物流ステーションイプシロンと呼ばれる
第二の文明の地下施設から回収した切断用工具らしき遺物。
引き金を引くことで起動し、上部が鋭く引き延ばされた
8の字を描く二重のループ構造を持つ炎を噴射する。
青紫の炎であることから非常に高温であると考えらているものの、
どのような測定機材をもってしてもその正確な温度の特定はできていない。
この二重ループ状の炎は磁場を利用して形状の維持が行われているようであり、
武器として素早く振るってもこれに完璧に追従することも判明している。
切断工具としての性能はもちろんのこと、片手用の剣として利用しても
絶大な威力を発揮するため、損壊が少なく稼働中の防衛機構と遭遇する可能性が高い
遺構を探索する探検家向けの近接武器としての提供、支給が検討されている。
Sl.924 Directed Defensive Screen Projectorと同様に発見者のセルンが命名権を放棄したため、
同様に抽選で選ばれた遺物研究者が後に命名。
"渦巻く裂火" / "Tearing Flame" に決定される。
なお、この命名に対しセルンは 「洒落た名前を付けるのはいいけど正式名称は忘れないでね?」
とコメントしている。
コメント:
Dusty Plasma Radiatorというものをみてひらめいたループするプラズマを
切断用の刃として使う特殊なプラズマカッターです。直線状に噴射するのに比べ
温度にムラが無いためきれいに切断できるんだとか。
"Tear" という言葉には涙以外にも引き裂くというような意味もあります。
そのほか:
遺物の命名は昔から割と大仰な名前が付けられがちで、
もはや伝統になっているレベルなのですが、セルンはこういったものを好まないので
正式名称が分かっているならそっちで呼びます。
なので"灼陽"の正式名称が "Pl.73 プラズマ手榴弾" と分かった以上
今後はこっちに呼び方を変えていくと思われます。まあすぐには変わらないと思いますがね。
ずっと灼陽と呼んできましたから。グレネードなどの消耗品は
外装部分に名前が書いてあったりするのですが、意外とそれに気づかない例もあるようです。
なお別に隠すことでもないので言っておくと鉄の光は"Ls.94M 重レーザーピストル" で、
本来は高級士官の護身用や特殊部隊向けに設計された高出力レーザーピストルですね。
前にどこかで書いた記憶があるんですが、
パートごとにかなりリアル時間が空く関係で忘れがちです。
ところで
Magnetoplasma という単語、どうやらスペルチェッカーくんはご存じないらしいですな。
普通に "Variable Specific Impulse Magnetoplasma Rocket" とかあるんですが。




