#0018 事後処理と任務再開 / Aftermath and Continuation
短いなぁ。
「彼がこの件の実行犯の一人。
しっかり縛ってあるから連れて行くといいよ」
工作員たちの野営地だった場所に到着して、
僕はさっきの生き残りを指差し連合の兵士たちに伝える。
もう疲れたのか、彼は動こうともしない。
「うわぁ、なかなかの荒れようだな。地面が溶けてるじゃないか」
「遺物由来の武器って本当にすごい威力なんですね……」
後についてきていた連合兵たちも、この惨状には引き気味だね。
まあ、あそこで砲台に試しで撃ちこんだ時にわかってはいたけど、
さすがに生身の生き物に向けて撃つような威力じゃないよ。
改めてこの場を見てみると、大きく抉れた地面は熱で溶けてから固まり
ガラス質の表面ができているし、周囲のまばらな草や茂みも焼け焦げている。
彼がほとんど無傷で済んだのは……はっきり言って相当に運がよかったと思う。
僕にとっては都合はいいけどなんで生きていたのか不思議だよ。
「うん。自分でこうしておいてなんだけど、すこし気が引けたね」
もう少し穏便に済ませる方法があったというのは間違いないんだから。
邪魔をされて少しいら立ってしまったのもあるんだろう。
少し悪いことをした。
「……まあまあ、とにかくこの件はこちらで引き受けるので、
セルン、君はまた旅を続けてくれて構わない。協力に感謝するよ」
そんな少し冷え込んでしまっていたこの場の空気だけど、
即応部隊の指揮官が少し強引に話を切ってなだめてくれた。
そうだね、悪い雰囲気は無理やりにでも断ち切る方がいい。
僕がここですべきことはもうないんだし、
彼の言う通りみんなに任せて当初の目的に戻ろうか。
「はぁ……僕の方も、役に立てたのなら幸いだよ。じゃあ、後はよろしく」
自分の本来の役目と関係ない物事に必要以上に
首を突っ込むのは実際ろくなことがないんだ。早くここから離れよう。
右翼を少し広げて即応部隊のみんなに挨拶をし、
僕はその場から逃げ出すようにして飛び去る。
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当初の目的、つまりは時間調整を兼ねた朝食探しだったけど……
予想外のことで時間がつぶれてしまった。
まあそれでも実際のところ30分もたっていないから、
これくらいなら簡単に取り戻せるかな。
現場から飛び立った後、僕は本来目指していた場所への進路に戻る。
この道を抜けた先にちょうど王国側の小さな集落があるんだ。
人が住むための場所というよりは街道上の休憩所みたいなものだけどね。
波立つ水面のようにして小さな起伏が立ち並ぶ小さな山地を抜けて、
僕はその休憩所にたどり着いた。
この道は今では交通量もかなり少なくなってしまったけど、
ここは今でも現役だ。
緩やかに降下して、街道を挟むように配置された建物のうちの一つ、
小さな雑貨店の前に降りる。
こうやっていくつかの商店に自走機械を停める駐車場とかが
あるのはまあ王国領の方とあまり変わらないんだけど、
連合領は厳しい砂漠と荒野が大半。
どこに行っても給水所が用意されているのが
やっぱり一番大きな違いだと思う。
周囲を少し眺めつつ、店の中へ。
砂塵を通さないための金属製の二重扉を抜けると、
そこにあるのはとても落ち着いた雰囲気の空間だった。
丈夫な石材と金属でできた外観からは
想像できないくらいに洒落た作りだね。
どことなく懐かしさのある木造の内装に、
まだ魔術照明が導入されるより前の時代の街灯に似た色合いの明かり。
王国領の田舎町にありそうな空間だ。
砂漠をずっと自走機械で走ってきた後に物資を買い足すなら、
とても安らげる場所だと思う。
──本題に戻って、僕がここで探しているのは旅行者向けの保存食。
基本的に品ぞろえは人型種族用でも、
肉食が多い飛行種族向けのものだっていくつかは置いてある。
道を挟んだ向かい側にある料理店まで行けば普通の飛行種族向けの
食事も出してもらえるんだけど、少し気が変わってね。
ここはあえて保存食を選ぶことにしたよ。
店内の、熱の刻印で冷やされた食品棚に並べられているものの内、
金属製の容器に入れられたものがそれだね。
缶詰というものらしい。蓋を開けない限りは数年は保存できるんだって。
連合だとありふれたものだと聞いているけど、
最近は王国領でも流通し始めたんだったかな?
金属製の外装部分には中身が分かるように
塗装や印字がされていて、本当に種類が多い。
野菜に果物、魚もあれば肉もある。
……まあこの辺りだとさすがに魚系はあまり種類がないけど。
海が遠いし、連合は持っている港も少ないから仕方ないね。
僕はワイバーンだから肉しか食べられない。
だからそういう缶詰をいくつか手に取って、支払いを済ませたら店を出る。
さて、必要な分だけ食べて残りは本来の用途通りとっておこうかな。
邪魔にならない場所へ避けていくつか缶詰を開け、
食事を終えたら僕は再びロカウルへと飛び立った。
……缶詰、味はなかなか良かったね。種族によっては調味料すら
毒になるからかなり薄めの調整なんだけど、
それでも飽きがこないくらいには印象に残る感じ。
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事件の後、食事を済ませた僕はロカウルへ戻ってきた。
今の時刻は11時半だから、研究者たちもそろそろ休憩時間に入るはずだ。
いつものように誰も使っていない疑惑のある発着場から街に入り、
中心街を超えてさらに奥、中央省庁複合施設を取り囲む
建物の一つであるアークタワーへと飛ぶ。
上層階の壁面から突き出すように取り付けられた飛行種族向けの
発着場から中に入ったら、階段を下りて社員 (?) 食堂……とでも言えばいいのかな。
まあそう言った類の部屋で、僕は遠征調査班──カリアたちを待つことにした。
厳密にはまだ休憩時間じゃないから部屋はとても静かだ。
今なら窓際まで行って景色を眺めても誰の邪魔にもならないね。
相変わらず明るいのに薄暗い不思議な空の下の景色に浸りながら
しばらく待っていると、仕事に区切りをつけた研究者たちが
まばらにこの階まで上がってき始めた。
さっきまで静かだった部屋は少しずつ活気に満たされていき、
数分もすればもう昨日僕がここに来た時と変わらないくらいの賑やかさだ。
こうやって大勢で集まって、何気ない話で盛り上がるのも楽しそうだね。
……残念なことに、僕はそういう機会とはあまり縁がない。
単独の方が気にすることが少なくて楽だからなのかな?
考えてみると、こんな危険な仕事をしているのに
なんで僕はずっとこうなんだろう?
仲間がいたほうがはるかに安全だし、できることも増える。
一度客観的に考えてみると、なんだかとても奇妙だった。
うーん……まあ今考えるべきことじゃないし、このくらいにしておこう。
「あ、セルンじゃない。帰ってたのね?」
「帰ってきたということは、
何か収穫があったと見てもいいんだよね?」
やかましいほどに賑やかになり、いろいろな料理のにおいも漂って
くるようになったこの部屋の壁際に立っていると、
階段側から聞き覚えのある声が響いた。
カリアたちだね。
「もちろん。最高にいい知らせを持って帰ってきたよ」
耳を多少大げさに広げて、得意げな声でみんなに言葉を返した。
ヘルメットをかぶったままだからね、
これくらいしないとこの興奮はなかなか伝わらないと思って。
「それほんと!? あなたがそういうんだったらそれはもう
すごい話なんだろうけど……まあ後で私たちの宿舎で
詳しいことを聞かせて? 期待してるから」
「いやー、これはなかなかに楽しみだねぇ。
ふふふ、まだ聞いてもいないのに笑えてきたじゃないか。
ま、カリアの言う通りあとで聞くから、ごめんだけど待っててくれるかな?」
あからさまな話し方をする僕に、カリアとクウェイスもにやけ顔だ。
クウェイスに至ってはなんだか悪だくみでもしているような顔にすら見えた。
もちろん僕も同じ気持ちだけど、本当に今後の発掘調査が楽しみだね。
あれだけの、しかもほぼ無傷の遺物を回収して、
しかも第二の文明の記録にアクセスできる機械まで
機能する状態で利用できるんだ。
これは間違いなく大きな動きになる。
こんなの浮かれずにはいられないよ。
「うん。昨日と同じように僕は待っているから、
君たちはゆっくり昼食をどうぞ」
「ええ、じゃあ後で楽しみにしてるから」
「いやちょっと緊張してきたなぁ」
期待を膨らませながら少し急ぎ足で料理を受け取り、
食堂の席に着くカリアたちを見送って、僕はまたしばらくここで待つ。
みんなに話すのが僕も楽しみで仕方ないよ。
あそこを出て一度街に戻ってからはだいぶ高ぶる気持ちも
落ち着いていたのに、また込み上げてきたんだ。
すこし深呼吸をして、気持ちを落ち着けよう。
コメント:
熱軸の内冷極に寄せれば物を冷やすことができるので、
冷蔵庫は割と普及しています。
缶詰とかは機械技術が進んでいる連合の方が流通量が多く、高級品になると加熱用の刻印まで仕込んであっていつでもどこでも暖かい飯が食べられるなんていうのも。ヒーター付きポークビーンズ缶とかそんなのです。
ほか、セルンが事件現場からすぐ立ち去っても許されるのは彼の実績ゆえなので、普通はもっと面倒なことになります。なお、連合と共和国は建前上は中立でも実質は敵対しており、単に距離が遠いから大規模な衝突が起きていないだけな面が強いです。大陸の北端と南端ですからね、それぞれの領土。
あ、この世界は南半球の方が寒いです。




