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#0016 共和国の影 / Xenophobic Shadows

時間があったのでもう少し続きを書きました。

Perspective: Side - Republic Operative / Observer


「最悪だ……まさかあんな速度を出せるとは」


件の襲撃現場から北へ数分といった地点に偽装用のネットを

張り身を潜める、この地では珍しい服装をした男がそうつぶやく。


「もし通報でもされれば今後の活動に支障が出るぞ。

やってくれたな」


呆れた様子でそれを咎めるのは指揮官らしきもう一人の男だ。


「ここであのトカゲを落とせればかなりの打撃に

なるはずだったんだ! 多少無理をしてでも──」


「黙れ。事実としてお前は許可なく行動し、失敗したんだ。

こうなれば我々は速やかに撤収しなければならない。

ここを片付けるぞ。証拠が残るとまずい」


功を急いでか、彼の言うトカゲ、つまりはセルンへ独断で攻撃を

仕掛けたらしい部下は言い訳をするが、

指揮官はそれを冷たく払いのけ、残りの部下に撤収の指示を出す。


「クソッ……なんでトカゲなんかがあんな速度を

出せるっていうんだ……。うう……」


上官に冷たく投げ出された彼は拳を握り締め、

地面を睨み付けながら自分の早まった行動と

失敗を悔いるが、もはや事が覆ることはない。




……そう、思われていた。


「……まて、あれは?」


しかし、辛辣な空気に包まれたこの場に

遠い空から近寄るものがひとつ。


「お、おい! 奴が戻ってきたぞ! こっちへ向かってる!」


「冗談だろ!? あの爬虫類が! 今度こそやってやる!」


それにいち早く気付いたのは、

双眼鏡を構え周囲を監視していた工作員の一人。


ほどほどに大きな声を張り上げ仲間へ敵の接近を知らせる

彼を見て、先ほど大きな過ちを犯した工作員の男は

後ろを振り返り、見張りが指さす空を見上げた。


そして上空からこちらを探すセルンの姿を見るや否や、

懐から何十枚もの呪符──持ち歩いていたすべてとも

いえる量を取り出し、一斉に空へと放つ。


仲間の制止も虚しく、再び独断専行は始まったのだった


施された(まじな)いに従い数十枚の呪符は散開して

上空のセルンを追うが、呪符の速度の限界という

弱みを知った彼の元へは届く様子がない。


「っっこの大馬鹿が!! ……こうなればもはややるしかないのか!」


そんな姿を見た指揮官は怒りをあらわにして彼の元に詰め寄り、

その顔面へ拳を叩きこんだ。


そしてすぐに倒れた彼を強引に引き起こし、

テントから持ち出してきた残りの呪符を部下へ押し付けると、

自身もまた戦闘態勢を取ったのだった。


「サン、この周囲に電鎖(でんさ)を張れ!

奴が降りてくるかはわからんが備えるぞ」


「了解」


先ほど空へ放たれた呪符はどれも試作段階の

魔工噴進機関を身につけたセルンに追いつくことはできておらず、

このままでは全くの有効打を与えられずに終わるだろう。


もちろん呪符を周囲に設置し、罠として使うという選択肢もあるが、

セルンの扱う武器はどれも射程が長いため役に立つかは怪しい。


だがそれでも、指揮官はサンと呼ばれた部下に指示を出す。


サンはすぐにその命令に答え、小さな野営地の各所に

青い呪符を飛ばし、岩や地面に貼り付ける。


セルンがここへ降りてきた場合、設置された呪符が爆発し、

一斉に電撃を放つことになるだろう。




一方でそのセルンはどうしているだろうか?




ただただ単純な機動を取り、速度だけで呪符を振り切った彼は、

その飛来した方向を頼りに周囲を探して旋回を続けていた。


「呪符を視認できたのは街道の直上を通った辺りだね。

そして北側から飛んできた。つまり

街道に沿って進んだ先のどこかにいるはずだけど……」


自分に言い聞かせるかのように小さく言葉を漏らすその様子からは、

まだ敵の位置を特定できずにいるようだ。


だが、彼が共和国の工作員たちを見つけるのも時間の問題である。


ワイバーンの視力であれば時間はかかれど多少の艤装の上からでも

身を隠している人間を見つけることは可能であるし、

彼にとっては都合のいいことにすでに呪符の第二波が近づいていたからだ。


「また来た! この飛行経路なら…………ふふふ。見つけたよ」


セルンはヘルメットの向こうでどこか邪悪な笑みを浮かべ、

まったく距離を縮めることのできない呪符の群れには目もくれずに

撤退の選択肢を奪われた工作員たちの元へと飛び込む。




「まずい! 気づかれたぞ、

こうなればどうしようもない、迎え撃て!」


「効かない! 防壁がまだ残っているんだ!」


空軍の飛行兵でもあり得ない速度でこちらへ突き進むセルンの姿に、

工作員たちは押されながらも次々と呪符を放つ。


しかしそれらはどれも輝く光の破片によって引き裂かれ、

彼の元へは届かない。


「くっ……ダメか」


……攻撃が通用せず、逃げることもできない──

そんな彼らを前にセルンは空を覆い隠すかのようにして

翼を広げ減速すると、手に入れたばかりの新装備、

Ls.122を構え、引き金を引いた。


"鉄の光" をはるかに上回る青白い光条が

激流のように指揮官らしき男とサンと呼ばれた工作員を

この場所から洗い流し、地面を抉る爆発と

空気を焦がす熱が辺りを薙ぎ払う。


「……こんなけだものに……」


少し離れた地点で呪符を放っていた男。

最初にセルンに攻撃を仕掛けた彼は爆風になぎ倒され、

悔恨の言葉と共に意識を失った。


「はは、引っかかりやがったな……」


──サンが仕掛けた呪符の電撃を受けるセルンの姿を見届けて。


====


「僕の防具、電気は通さないんだよね。電流は外を流れるだけだよ」


クレーターと化した工作員の野営地に降り立ったセルンは、

まだ息がある工作員の男に言い聞かせるように厭味ったらしくそうつぶやく。



人間ではないセルンにとって、

異種族を極度に嫌う共和国には一言あるのだろうか。


ヘルメットに下に隠された表情は

普段の彼らしくないとても薄暗いものだった。


「さて、起きたらいろいろと "質問" させてもらおうかな。

でもまずは彼を拘束して、通報しておいた方がいいね。

これはかなり重大な問題だから」


セルンは気を失った工作員の手足を本来は探索用のロープで縛り、

口に布を噛ませた。……これも元は危険な場所や安全な経路を

知らせるために打ち込む杭に付けるものである。




その後セルンはこの小さな野営地の中で何か有益な情報が無いか

探し始め、しばらくの時間が経過する。


========


Perspective: Cernn


ABSOLUTE TIME: +74996 188 13:10:00.000


よし、これでいいね。

緊急通報用の信号弾を上げておいたから、

多分すぐに連合防衛軍が様子を見に来るはず。


はぁ……それにしてもすごい数の呪符を飛ばしてきたものだよ。


当たっても防具だけで耐えられたとは思うけど、

そんなことになればどちらかというと

身に着けているほかの装備が壊れてしまう。


電撃呪符の方はまあ想定内。

人間や……ごく普通の他の種族と戦うのって

ここまで気が楽なものなんだね。


厄介ではあったけど、命の危険を感じることはなかったよ。


それで、野営地を探してみたけど特に収穫は無し。

さすがに計画や指示書の類は処分してあるみたいだね。

状況を見るに、もう今すぐにでも

撤収しようとしていたところだったのかな。


爆風でいろいろ吹き飛んだり焼けてしまっているのはそう。

でも本来なら資料が置かれているであろう

地図の広げられた折り畳み式の机や、簡易な寝床。

それに記録を付けるときに使う椅子と机かな?


そういった場所にも何もなかった。

やっぱり、処分したか他のチームに引き渡したのかもしれないね。


いくら共和国の呪符でいろいろなことができるとはいえ

この人数で積まれていた鉱物を全て動かせるとは思えない。


だから、彼らは決して主要な部隊ではなくて、

役割を与えられた小さな部隊に過ぎないはず。


それにしてもまさか連合領にまで工作員が浸透しているなんて……。

共和国、引きこもっているように見えて

やっぱり裏ではいろいろと動いているんだ。


どんなことを聞けるか楽しみだよ。


[道具: 呪符]


呪符とは、共和国の持つ独自体系の魔法技術の "呪術" を用いて動作するカード状の自律型兵器や装置の総称である。呪符にはあらかじめ基本的な動作を定義する一連のまじないが施されており、これは王国や連合における刻印魔法と基本的な機能は共通である。異なる点は、高度な自律性を付与可能なところにあり、通常の刻印ベースの魔術機械類は論理に基づいてある程度の自動動作は可能であっても基本的に操者からの入力を必要とするのに対し、呪符はより自然言語に近い形の指令として呪いを読み取り、それに従い動作する。そのため"ふわりとした" または大雑把、ファジーとも言われる形での命令により行動することが可能となっており、例えば"敵を追いかけ、自身を対象とした火球の魔法で自爆する"といった命令を与えれば、呪符自体が自律的に目標まで飛行し、自爆攻撃を仕掛けるのである。


しかし、この制御に用いられている呪いはおそらくマナとは異なるエネルギーを利用したものと考えられており、単純に呪符に描かれている呪いの文様や文字列を模倣しただけではその機能を再現することはできないことも解析、研究によって明らかになっている。


これらの理由から、この共和国独自の不可解な技術を読み解き、適切な対策を考案することは、現実的な可能性として存在する共和国との戦争で被害を抑え、優位に立つうえで非常に重要となるだろう。


コメント:


呪符を自律誘導兵器の類にするというのは、刻印魔法に基本原理が似ている呪術に独自性を持たせるにはどうすればいいかと考えていつの間にか採用していた設定です。


まあ、現代風に言えば歩兵がアサルトライフルや対戦車ミサイルではなくマイクロミサイルや攻撃ドローンだけを装備して戦っているようなものですね。射程は呪符の大きさに依存し、大きいものほど遠くまで飛びます。ほとんどは紙で出来ているので燃えやすく、空気制御系の呪文で吹き飛ばすこともできますが、勢いがついていると逸らしきれない場合もあり、吹き飛ばしただけでは根本的な解決にはならないので燃やすのが最善。もちろんそれは共和国側も知っているので耐火仕様の呪符もあります。でもお高い。


実のところ、巨大な空中母艦など機動拠点級兵器を運用できる王国側が持った方が強い技術だったり。


あと、生物の脳みそに突き刺した杭に呪符を繋ぐとその生物を簡易的に操れるようになるという派生技術もあります。前回言及された共和国の生体兵器というのはこれです。


工作員3人の名前:


独断でセルンを攻撃したやつ: ゼド / Zed

見張り: サン / San

指揮官: デトス / Dethos


なお、共和国人は遺伝子レベルで異種族嫌いなため人によっては耐えきれずに手を出して潜入を台無しにすることが多く、現在上手く潜伏できているのはほとんどが超エリートですね。


ただ、今回の3人 (それと他の工作部隊も)は潜入ではなく工作担当の半ば使い捨てみたいな役回りだったので、連合領への進入経路も王国領経由ではなく西の海から潜水艇で上陸しています。


普段は荒野の目立たない場所で野営しつつ指示を待つ感じ。


そのほか:


見た目が見た目なためワイバーンを爬虫類と考える人は多いですが、全体的に鳥類の方が近いです。

まあ、共和国人なら知っててもあえてそう言うでしょうが。


嘴が顎に置き換わり、尻尾が生えて翼の構造が変わった鳥だと思えばOK。

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