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パイロット版(後)

「皆、ご苦労だった。今回の目標である十傑集の撃破と封印の解除は成功だ!一度街へ戻って休息し、次の戦いに備えようじゃないか。僕達の旅はまだ始まったところだからね」

「ええ、勇者様のおっしゃる通りですわ。皆様、異議はありませんわね?」


 何とかという黒いヤツを倒したことでリックはこのダンジョンを踏破したと宣言した。

 そしてマリアーベルはリックの言葉を承認している。


 だが。


「異議あり!」


 俺は右手を高く上げて、彼らの間違いを指摘する。


「まだダンジョンのマップが埋まっていないじゃないか!そこの扉の先は未踏破だろう!?」

「いや、ちょっと待て、ショーヘイ。俺達は既に十傑集を倒しているんだぞ?どうしてわざわざ未踏の場所を探索しようとする?」

「ブラックの言うとおりだぞ、ショーヘイ。一体何を言ってるんだ」


 どうやらブラックとランドルフも俺の言葉の意味を理解していないらしい。

 肩をすくめ、俺は彼らにダンジョン攻略の心得を語る。


「この手のイベントダンジョンはボスを倒したら再入場出来ないことが多い。もしあの扉の先に重要なアイテムが眠っていたら、どうするんだ?この世界の創造主(女神)は俺達が思っている以上に狡猾だぞ」

「ショーヘイ様、女神様を狡猾だなどと……」

「ベル、それ以前に私、ショーヘイが言ってることが理解できないよ……」


 ロゼリアはマリアーベルに抱きつき、まるで俺が十傑集(敵)であるかのように怯えた表情を見せる。

 ……どうしてこうなった。


 だが俺の言葉を聞いたリックはしばらく瞑目すると、宣言した。


「確かにショーヘイの言う事にも一理ある。ここまでの戦闘で……まぁショーヘイは別として、俺達は消耗している。危険があればすぐに退くという条件で、あの扉の先を探索しよう」

「さすが勇者、話が早くて助かるぜ」


 サムズアップしてリックの判断を褒め称えた俺だが、リックは少し嫌そうな顔をした。

 なぜこうなった。



 扉の先はどうやら、なんとかという中ボスの生活スペースになっていたらしく、妙に生活感のある小部屋がいくつか続いていた。

 そして最奥には、見るからに何かが保管されていそうな大仰な扉。


「……宝物庫の類いだろうか?」

「そのようだな。どうする、リック」

「他の十傑集や魔王を打倒できる手がかりがあるかもしれない。ブラック、罠がないか確認してみてくれ」

「ああ、判った」


 リックの指示でブラックが扉を慎重に探っている。

 俺はあくまでもパーティメンバーの一人、単なるアタッカーだ。

 意見を求められない限り、こういった場面ではリーダーであるリックに判断を一任すべきだと考えている。


 もっともそれは俺だけではなく、元々リックに仕えているランドルフや聖女であるマリアーベル、そして魔力が切れかけているのか若干顔色の悪いロゼリアも同様だ。


「……ロゼリア、具合が悪いのか?」

「う、うん……さっき、ショーヘイが宝珠を壊してくれて良かったよ……。もし私が解呪してたら、魔力切れで倒れてたかも」

「歩くのが辛いなら背負ってやろうか?」

「ひゃ!? い、いや……それは、その……遠慮しておこう、かな……」


 年若い女性としては、知り合って半月ほどの男に背負われるのは我慢ならないということか。

 うん、それは仕方の無い事だ。


 俺達がそんな事を言っている間にブラックは扉の調査を終え、罠がないと宣言した。

 その言葉に頷いたリックが、扉を開け放つ。


 部屋の中には……松明の明かりを浴びて輝く彫像が一つ。


「……なんだ、これ」

「障壁のアルバート、ですね」

「あの十傑集、自分を象った像を造ってやがったのか……」


 皆が呆れたような口調でそういうのも仕方ないだろう。

 なぜならそこに鎮座していたのは……ミスリルらしきもので作られた、中ボスの像だったのだから。


「とんだナルシストですわね」

「まったくだよ……。でも、なんでこんな像を?」

「理由はわからないが、これだけのミスリルがあれば皆の装備も強化できそうじゃないか。ショーヘイの言葉に従って正解だった」


 リックが笑顔でそんなことを言ってくる。

 だがマリアーベルは何かが気に入らないのか、像に歩み寄ると手で触れようとしている。


 ……と。


 突然像の右手が動き、不用意に近づいたマリアーベルを殴り飛ばした!?


「ゴーレムなのか!?」

「ベル、ベル!」

「ランドルフ、ブラック!マリアーベルのカバーを!ショーヘイとロゼリアは僕と一緒にゴーレムを!」

「あの、リック様!私、もう魔力が……」

「くっ……。ならロゼリアは周囲を警戒してくれ!ショーヘイ!」

「……ああ」


 リックの指示に魔力の切れかけたロゼリアは下がる。

 だが、これは少々厄介な状況だ。


 ミスリルゴーレムは通常の物理攻撃を無効化する。

 それは「障壁」や宝珠のように、構造の弱点を突いて無効化を打破することが出来ない、単純な物質の強度に起因する事象だ。


 リックが持っているのは聖剣だ。

 あれは魔族のような闇属性にこそ特効効果を持つが、光属性のミスリルゴーレムとは相性が悪い。


 一方俺が使っているのは魔力の込められていない、店売りの鉄の剣だ。


 もちろん、俺達が旅立った王都にも魔剣の類いは売られていた。

 だが、どれもこれも、素人がエンチャントしたかのような凡庸な品ばかりで、前世で付与魔術も極めた俺の目からすれば玩具にしか見えなかった。


 剣に付与された術式は見るに堪えない構成で、店売り魔剣の出来映えに苛ついた俺は結局何のエンチャントも施されていないただの鉄の剣を選んだ訳だが……。


「ショーヘイ!君の剣ならあのゴーレムでも斬れるだろう!?」

「いや、無理だ」

「……え?」

「考えてもみろ。相手はミスリルだぞ?確かに何千何万と剣を打ち付ければ、傷を付けることもへこませることも出来るかもしれないが」

「なら、そうすれば……」

「その前に、俺の剣が折れるぞ。なにせ一本15ゴールドの安物だからな」


 事実を告げた俺に、リックの手が止まる。


 先ほど戦った本人よりも機敏な動きで迫る「障壁」の像が、茫然と俺を見つめるリックに蹴りを放つ。

 ……が、すんでの所で俺が割り込み、パリィで凌ぐ。


「じゃ、じゃあこの状況、どうすれば……」

「そうだな。ロゼリアに魔力が残っていれば何とかなったが、見ての通り彼女はもう魔力切れ寸前だ。と、なれば取れる手段は一つ」

「……それは?」

「逃げるんだよ。マリアーベルを抱えて、な」


 ミスリルゴーレムの攻撃を凌ぎながら俺が告げた結論。


「無理だ!このゴーレムは機動性が高い。追いつかれて背後から攻撃を受けるぞ!」

「そうだろうな。だからここは俺が引き受ける」

「ショーヘイ!?」

「未踏エリアの探索を提案したのは俺だ。なら、俺が責任を取るのが筋ってものだろ?」


 ミスリルゴーレムの攻撃をパリィしたショートソードが悲鳴でも上げるかのような音とともに軋んだのが判った。

 そう何度も攻撃は防げないだろう。


「リック、お前は勇者だ。勇者と聖女が生き残ることが最優先。違うか?」

「だが……!」

「なに、足手まといがいなくなればなんとでもなる。俺の剣が折れる前に、さっさと行け!」


 俺の言葉に、ぐったりとしたマリアーベルを抱え上げていたランドルフは頷くと、宝物庫を出た。

 さすが騎士だけあって、戦場で情に流されない良い判断をする。


 次いでブラックがなにかを言いたげな表情で俺を一瞥するが、結局何も言わずに踵を返した。


 その様子を見ていたリックも、唇をかみしめると……扉へと駆けだした。


 これで、あとは俺が時間を稼げば……。

 そう思った瞬間、ゴーレムの手刀を弾いたショートソードの刀身が、砕けた。


 右手のロングソードの方も既に刀身がボロボロになっていて、もう1、2撃で砕けそうだ。

 まぁ、やるだけのことをやるさ。


 ……それにもしここで死ねば、案外女神の元へ戻ってクレームを入れられるかもしれないからな。

 俺がそんな事を考え、覚悟を決めた時だった。


「ショーヘイさん!私の全部、受け取って!」


 声が……ロゼリアの声が聞こえた。

 そう言えば彼女が宝物庫から出て行ったところを確認していなかった。

 ゴーレムの蹴りを身をよじって無理矢理躱し、視線を後方へと向ける。


 そこには顔を真っ青にしたロゼリアが、手にしたロッドの先に小さなスパークを宿しているのが見えた。


 ……そういうことか!


「ロゼリア、やれ!」

「はい!……ライトニング!」


 ロゼリアの放った小さな雷光は到底ミスリルゴーレムをどうこう出来る威力ではない。

 だが、ロゼリアの雷光が撃ったのは、ゴーレムではなく――


「これなら、どうだ……!」


 雷を纏ったロングソードの一撃は、奇しくも本物の「障壁」を切り捨てた時と同じ軌跡でゴーレムの胴を薙ぐ。


 その箇所には、俺の剣だけでは切ることが出来なかったゴーレムのコアがあり……。


 コアを破壊されたゴーレムは形状を維持出来なくなったのか、無数の歪なミスリル塊となって宝物庫へと散乱した。


 そう。ライトニングの威力は問題じゃない。

 剣に雷の属性さえ乗れば、それで事足りたんだ。


 咄嗟に残り僅かな魔力で擬似的なエンチャントを成し遂げたロゼリアは、やはりセンスがある。


「ロゼリア!」

「……もう……だめ……力が……」

「大丈夫だ、魔力が尽きても人間は死なない。それどころか魔力欠乏症を克服さえすれば魔力の最大値が上がるぞ。ロゼリア、次もこの調子で全力で魔力を消費しような!」

「……いや……ぜったい、いや」


 ぐったりとしたロゼリアは心底嫌そうな表情をしながら、気を失った。


「……俺が魔法を使えていれば、こんな事にはならなかったのに……」


 大魔法使いの名をほしいままにした前世の俺なら、ミスリルゴーレムごときを倒すのは朝飯前だった。

 だというのに、今回はロゼリアの手を借りなければ対処出来なかったという、この体たらく。

 ダンジョンソロ攻略など夢のまた夢だ。


「……やはり1日も早く女神に会って、謝罪と補償を要求しなければ」


 ロゼリアを抱き抱えた俺は、女神へのクレームをつけることを固く誓った――



第一話、了


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※この物語は「パイロット版」です

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