パイロット版(前)
「小賢しいマネを……。だが良く来たな、勇者とその一行よ!我は魔王十傑集、障壁のアルバート!魔王様に挑みたければ我を倒し――」
奇襲の一撃だったはずの火球が撒き散らした爆炎が晴れた後には、輝く防壁に包まれた黒いローブ姿の男が一人。
「そういうの、間に合ってんだよ!」
十欠だかなんだか知らないが、立ちふさがった標的にむかって俺は問答無用で斬りかかる。
奴の前にはハニカム構造の障壁らしいものが展開されていて、仲間の魔法使いが開幕の一撃として放った渾身の火球はあっさりと防がれてしまっている。
さすが障壁の二つ名を名乗るだけのことはあるが、所詮は魔力結界の類いだ。
「障壁」は俺が左手で振り抜いたショートソードの一撃を防ぐことは叶わず、まるで往年のロボットアニメに登場するなんとかバリアーのように砕け散った。
「なっ!?我が障壁を、物理攻撃で……!?」
衝撃だか障壁だかの十欠とやらが、あり得ないものを見たといいたげな表情を浮かべるが、すでに手遅れだ。
続けて俺が右手のロングソードで斬りつけた一撃が、奴の体を上下に両断していたからだ。
「……ふぅ」
担当する標的を一撃で仕留めた俺は軽く息を吐き、背後で戦っている仲間達に目をやる。
君主、戦士、盗賊、僧侶、魔法使い。
そしてもう1人の戦士である俺を加えた6名が魔王を倒す使命を帯びた勇者パーティのメンバーということになるのだ。
勇者である君主、リック達は十穴だか十欠だかの取り巻きである魔物3体を相手に接戦を演じている。
一旦納刀した剣の柄に手を掛け、助太刀が必要かどうか彼我の戦力差を見極める。
この世界にはゲームのように自他のステータスを見る魔法は存在しないが、それでも俺の経験と勘はリック達はレベル15前後、取り巻き達はレベル20だと告げている。
ちなみに先ほど俺が切り捨てたなんとかという相手のレベルは、おそらく30前後。
まぁ、ちょうど手頃な序盤の中ボスというところだろう。
少々適正レベルを若干超えてはいるが、連携の取れたパーティなら何とかなる、ちょうど良い感じのバランスの取れた攻略難易度だ。
……これが現実ではなく、ゲームならば、そう評していたところだ。
だが俺が見守っている間に、見立て通り勇者リックと仲間達は手傷を負いながら取り巻きを倒した。
「……ショーヘイ、手伝ってくれてもいいんじゃないか?」
「手伝う?俺は担当分の仕事を済ませたぞ。それに俺が参加したらお前達の鍛錬にならないじゃないか」
添えていた手を柄から外しながら告げた俺の正論に、リーダーであるリックは苦笑いを浮かべる。
正直、勇者パーティといっても彼らはまだ未熟だ。
そしてそんな彼らに俺が同行している理由は一つしかない。
魔王を倒すための道を開く資格を持つのは勇者だけ。
俺がいくら最強戦士であったとしても、「鍵」がなければ扉が開かないからだ。
そして俺が目指すのは魔王討伐ではなく、その先だ。
魔王を倒した者に対して祝福を与えるという女神の前へと赴き――クレームを入れる。
それこそが俺の、二度の人生を掛けた目的なのだ。
「それにしてもショーヘイの二刀流はすごいよね。十傑集の障壁をあんなに簡単に打ち破るなんて。私、魔法には自信あったんだけど……」
パーティの女魔法使い、ロゼリアがそんな事をこぼす。
ロゼリアは勇者パーティのメンバーに選ばれる程度には優秀だが、俺の目からみればまだまだひよっこだ。
ただ行使する魔法のセンスと詠唱速度はなかなかに良く、いずれは優秀な魔法使い……いや大魔法使いに成長することだろう。
……そう、前世の俺のように。
だが今、俺はそんなロゼリアに大事なことを教える必要があった。
彼女の過ちは見過ごすことは出来ない。
この場で修正しておかねば。
強い使命感に駆られた俺は、ロゼリアの方を両手で掴み、彼女の蒼い瞳を覗き込む。
心持ち、ロゼリアの頬が赤い気がするが、戦闘後の高揚だろう。
「ロゼリア、何か勘違いしているようだが、俺のこれは二刀流ではないぞ」
「……え?両手に剣、持ってるよね?」
「おいおい、野球の二刀流はバットを二本持つってことじゃないだろうが!バッターとピッチャー、両方をこなすから二刀流って言うんだ!」
「……えっと、ショーヘイが何を言ってるのかさっぱり理解できないんだけど」
「なに?ならそんなロゼリアに二刀流とは何か、この俺が教えてやろう。まず前提となる野球についてだが――」
ロゼリアが二刀流の真理を理解しないのはある意味仕方がないのかもしれない。
俺は元日本人の、いわゆる異世界転生者。
そしてこの世界には野球は存在しない。
もちろん、俺と同じ名の有名メジャーリーガーも。
ただ、二刀流の本質とは剣を二本持つこととは違うということを、こんこんと説明する。
これはロゼリアのためにもなる話だからな。
「……ショーヘイ、そのあたりにしてやれ。ロゼが半泣きになってるぞ」
「なら、続きはお前が聞いてくれるのか、ランドルフ」
「いや、遠慮しておこう。それよりロゼ、あそこにある黒いのが例の結界を維持している宝珠じゃないのか?」
「え…あ、うん。そうだね。えっとショーヘイ?私、宝珠の解呪があるから、話はまた今度……ううん、参考になったから今度自分で考えておくよ」
第二王子であるリックの護衛騎士にしてパーティの盾役、ランドルフがロゼリアの学びを邪魔してきた。
ロゼリアもランドルフのチャチャ入れをさぞ迷惑がるだろうと思っていたのだが、彼女は何故かおびえた様子で宝珠とやらの元へ逃げるように去っていってしまった。
おそらくランドルフのひげ面が怖かったのだろう。
「ショーヘイ様?あまりロゼリアを虐めるのは感心しませんわ」
「虐めている?……俺が?どうしてそうなる?」
「そのように見えましたけど」
「誤解だぞ、マリアーベル。俺はただ、探究者であるロゼリアに真理を説いていただけだ」
「望まぬ真理の押しつけは女神様も望んでおられませんわ」
聖女と名高いマリアーベルがそんな事を言う。
心外だが、まぁ勇者パーティ内に不和をもたらすのは俺の望むところではない。
……が。
「ブラックさん、この宝珠……」
「ああ、罠はないが、相当にやっかいな構造だな。物理的な破壊は不可能、ロゼの魔術で解呪するしかないだろう」
「構成が複雑で…読み解くのにそれなりの時間が掛かりそうですね……」
盗賊のブラックとロゼリアが結界を維持する魔導具を相手に苦戦しているようだ。
本来ならロゼリア達のレベルアップのために解呪が終わるのを待つべきなのかもしれないが、俺は一刻も早く女神にクレームを入れたい。
なら、俺がするべきことは単純だ。
「ロゼリア、代わってくれ」
「え?でもこれ、さすがのショーヘイさんでも斬れない……」
「この手の魔導具は魔力の流れを見極めれば破砕点を見つけ出すことは容易い。この宝珠なら台座の左側、そこから三重の螺旋構造を描いているだろ?」
「……あ、確かに」
「そこにこうやって干渉すれば……物理的に破壊出来る」
ロゼリアに対するチュートリアル的な説明を行いながら、俺は黒色の魔力が渦巻く宝珠の一点をショートソードで突いた。
確かにこの手の魔導具は力任せに壊すことはできないかもしれないが、破砕点を的確に突けさえすれば簡単に砕くことが出来る。
そんなことは、魔法を極めた者にとっては常識なのだが。
「……なんで武器で壊せてるんだよ」
「ショーヘイさんだから、ですかね……」
「俺でなくてもできるぞ。ロゼリア、次は面倒な解呪ではなく今の方法を試すといい。いや、手先の器用さが必要だからブラックの方が適任か?」
「……ブラックさん?」
「無理に決まってるだろうが。仮に破砕点とやらが見えたとしてもだ、あれだけ不安定な魔力の流れを一発で突ける訳がない」
どうやら二人ともまだまだ修行が足りないようだ。




