魂の質量打撃と三次元の楔
主機室の全方位から、耳を聾する紫色の雷光が迸った。
第二種侵食核が、自らの崩壊を阻止しようと、周囲のあらゆる物理存在を消滅させる全方位放電を放ったのだ。
『ガキどもに触らせるかよ!』
その雷光の嵐の前に、傷だらけの肉体を投げ出したのは榊先輩だった。
神経加速器から火薬のような異臭を放ちながら、榊は残された短機関銃の弾丸を全弾、空間の裂け目へと撃ち込んだ。超重金属の弾幕が雷光と衝突し、激しい爆炎となって炸裂する。
『行け、多朗! 街を、家族を頼んだぞ!』
榊の絶叫とともに、その装甲服が焦げ、血煙が舞う。だが、その捨て身の露払いによって、多朗への射線は完全に維持された。
多朗は空中でパルスガンの銃身を核の亀裂へと突き刺した。
銃口の奥から、ザルクスの超重金属結晶が青い光を放射し、核の内部へと食い込んでいく。
キィィィィィンッ!
核の外殻に亀裂が走り、結晶の多面体が悲鳴のような電子ノイズをあげた。
だが、核はまだ砕けない。超次元の質量を持つ核は、刺さった結晶の杭を力づくで押し戻そうと、内側から膨大な重力波を噴き出し始めた。
『くそっ、杭が奥まで届かない! 弾き出される!』
多朗の両腕の筋肉が断裂し、皮膚から血が噴き出した。反作用でパルスガンごと身体が吹き飛ばされそうになる。あと数センチ。その数センチを押し込む質量が、どうしても足りない。
そのとき、背後から大地を揺るがす咆哮が轟いた。
『多朗ッ! どいてろオオオッ!』
剛田だった。
剛田は地底の超重金属とオテントサマの分子アセンブラによって修復された鋼鉄腕を構え、主機室の壁を蹴って弾丸のように飛び出してきた。
剛田の右肩は、先の戦闘で筋組織が限界を超え、皮膚の下で血管が破裂して紫色に腫れ上がっていた。一撃でも振るえば、二度と右腕が使えなくなるかもしれない。だが、剛田の目に宿っていたのは、一歩も退かない野生の闘志だけだった。
『オレたちの成増を、こんな暗闇で終わらせてたまるかあッ!』
剛田の渾身の突進が、多朗の横をすり抜けた。
青白く発光するダイヤモンドイドの巨大な拳が、多朗のパルスガンの尾部、そして核へと突き刺さった結晶の杭の頭へと、全重量を乗せて叩き込まれる。
魂の質量パルス打撃。
ズドォォォォォンッ!
主機室全体が浮き上がるような、凄まじい衝撃波が炸裂した。
剛田の外骨格アームから火花と触媒液が爆発四散し、剛田の右腕の骨がバキリと鈍い音を立てて軋む。だが、その圧倒的な運動エネルギーは、ザルクスの杭を第二種核の最深部へと完全に打ち込んだ。
カチリ、と世界の歯車が噛み合う音がした。
瞬間、黒紫色のノイズが急速に褪色していった。
光を吸い込んでいた漆黒の多面体結晶が、表面から白磁のような灰白色へと変色していく。脈動が止まり、空間を引き裂いていた重力波が霧散する。
『三次元座標、固定完了』
陣内の震える声が、静寂を取り戻し始めた通信機から漏れた。
『侵食核の位相反転を確認。空間のほつれが、完全に縫い止められました..僕たちの、勝ちです』
バキン、と乾いた音を立てて、巨大な結晶がただの脆い石塊となって砕け散り、床へと粉々に崩落していった。
静寂が訪れた。
空中に漂っていたオゾン臭が薄れ、冷え切った地下要塞の、湿ったコンクリートの匂いが戻ってくる。
多朗は床へと落ち、膝をついた。パルスガンを取り落とし、激しく震える自分の手のひらを見つめる。
剛田がその隣に仰向けに倒れ込み、破壊されたアームを抱えて荒い息を吐いていた。
向こうでは、相羽が壁に寄りかかって安堵の涙を流し、琴音が座り込んで多朗の無事を見つめていた。血まみれの榊先輩が、短機関銃を杖にして立ち上がり、多朗たちを見て口端をわずかに持ち上げた。
光が丘公園の地下深く、旧陸軍成増飛行場から続く巨大要塞の心臓部は、若き適性者たちの血と意地によって、辛うじて三次元の世界へと繋ぎ止められたのだった。




