神経網の焼灼と極限連動
多朗が空中で引き金を絞り込んだ瞬間、銃身の奥に仕込まれたザルクスの結晶が、太陽のような青白い閃光を放った。
放たれた生体パルスは、目に見える光弾ではなかった。それは三次元の空間そのものを無理やり縫い合わせる、猛烈な周波数の針だった。空気を引き裂く甲高い絶叫のような衝撃音が主機室を満たし、黒い多面体の核の亀裂へと真っ直ぐに突き刺さる。
だが、第二種侵食核は死に体の獲物ではなかった。
ドォォォンという空間の軋みとともに、核が狂乱したように膨張した。突き刺さった光の針を押し返そうと、内側から桁違いの反発斥力が噴き出す。空中で足場のない多朗の身体が、巨大な鉄槌で殴られたように後方へと弾き飛ばされそうになった。
『多朗を落とすな! 空間を固定しろ!』
地上から後藤教官の怒号が響く。
『陣内、位相のブレを補正しろ! 多朗の身体が空中で四次元に引きずり込まれるぞ!』
『やってます! 脳が焼き切れそうだ!』
陣内が端末のキーボードに両手を叩きつけた。端末の液晶画面が過電流でバチバチと火花を散らし、黒い煙が立ち上る。陣内の鼻と耳の穴から、細い血の筋が滲み出していた。六名の生体波長を中継する陣内の神経網は、すでに許容量の限界を遥かに超えていた。
『座標補正、マイナス二点四! 琴音、多朗の周囲の大気熱を奪え! 空間の摩擦で多朗の身体が発火する!』
『うううっ、あああああッ!』
琴音が喉を裂いて叫んだ。両手を天に向けて突き出す琴音の指先から、毛細血管が破裂して赤い霧が吹き飛ぶ。
だが琴音は腕を下ろさなかった。幼馴染の身体が空中で消滅する光景など、絶対に認めるわけにはいかなかった。
キィィィン、と空間が凍結する音が響く。
多朗の周囲の大気が急速に超低温へと落ち込み、断熱の氷塊となって多朗の身体を包み込んだ。摩擦熱が遮断され、身体の皮膚が焼け爛れるのを間一髪で食い止める。
しかし、空中の多朗には重力に抗う足場がなかった。このまま落下すれば、核の直下で渦巻く次元の裂け目へと真っ逆さまに呑み込まれる。
『相羽!』
多朗が凍りつく大気の中で叫んだ。
『足場をくれ!』
『…構築!』
相羽の研ぎ澄まされた声が、死線の中で響いた。
相羽の眼鏡のレンズが、内側からの眼圧によってピシピシと音を立てて砕け散った。目から血の涙を流しながら、相羽は最後の精神力を絞り出し、多朗の足元の虚空へ、極薄の正二十面体防壁を滑り込ませた。
空中に現れた、一枚の青白い硝子の板。
多朗の軍靴の靴底が、その防壁を強く踏み締めた。
足裏から相羽の激痛と神経の軋みが直接伝わってくるようだった。相羽が命を削って作ってくれた、空中の一瞬の足場。
『多朗さん、あと一度です!』
マナの声が、多朗の頭蓋の内側に直接響いた。
マナは地上で両手を胸元で固く祈るように組み、自らの存在周波数を多朗の生体アンカーへと完全に同期させていた。マナの瞳の奥で、未来の超知性が紡ぎ出す冷徹な計算式が奔流となって多朗の視神経へ流れ込む。
『核の中心核が、最大の拒絶反応を起こします。そこが、この空間の真の結節点です!』
見えた。
黒い結晶の奥深く、すべての光と物質を呑み込みながら脈打つ、針の先ほどの小さな穴。
多朗は相羽の防壁を蹴り、第二種核の直上へと肉薄した。




