第二種核の咆哮と次元斥力の激突
異形の群れを突破した成増特命即応隊の六名は、第三主機室の中央、すり鉢状に抉られた空間の底へと雪崩れ込んだ。
頭上に浮かぶのは、直径十メートルを超える第二種侵食核。
間近で見るその漆黒の多面体は、もはや無機質な結晶ではなかった。結晶の内部で、無数の光る糸が神経網のように蠢き、外殻の隙間からは三次元の物質を消滅させる黒紫の電弧が狂乱して迸っている。
空間そのものが、多朗たちの存在を拒絶していた。
ドォォォン、という鼓膜を破壊するような重低音とともに、核から全方位へ向けて不可視の力場が炸裂した。
『うぐっ!』
多朗の足が止まった。見えない巨大な壁に正面から激突したかのような衝撃。全身の関節が逆方向に押し曲げられそうになり、肺の中の空気が強制的に吐き出される。
『斥力場です!』
後方で端末を抱え込んだ陣内が、血を吐くような悲鳴をあげた。
『核が自己防衛のため、周囲の重力定数と空間曲率を反転させています! 近づくだけで肉体が押し潰されます! 僕たちの解析速度じゃ、逆位相の計算が追いつかない!』
『押し戻されるな! 踏み止まれ!』
剛田が叫び、強化された鋼鉄腕の爪を足元のコンクリート床へと深々と突き刺した。床が激しく砕け散りながらも、剛田は多朗の腰帯を左手で掴み、その場に縫い止める。腕の油圧筒が甲高い悲鳴をあげ、青白い触媒液が継ぎ目から噴き出した。
『相羽! 防壁を前に出せ!』
多朗が喉を裂いて叫ぶ。
『展開! 多重幾何学構造、最大出力!』
相羽が両手を胸の前で交差させた。眼鏡の奥の瞳が蒼褪め、鼻孔から鮮血が一条、顎へと伝い落ちる。
瞬間、多朗たちの前方に、透明な正二十面体の力場防壁が三重に展開された。
ギギギギ、とガラスを鉄の爪で引っ掻くような凄まじい摩擦音が空間を満たす。
第二種核から放たれる次元の津波が、相羽の防壁に激突したのだ。外側の第一防壁が瞬く間にひび割れ、粉々に砕け散る。第二防壁も軋み声をあげ、歪んでいく。
『も、もたない! 力の桁が違いすぎる!』
相羽の膝が震え、がくりと折れかけた。だが、その背中を後藤教官が力強く支えた。
『意識を落とすな、相羽! てめえが壁を引いたら、後ろの全員がミンチになるぞ!』
『わかって、います!』
相羽が奥歯を砕けんばかりに噛み締め、両腕から青白い火花を散らしながら第二防壁を意地で繋ぎ止めた。
『多朗さん、今です!』
マナが多朗の肩を掴んだ。その瞳には、かつてない緊迫感が宿っていた。
『第二種の核は、脈動の周期ごとに一度だけ、三次元の座標を検知するための隙間を開きます。呼吸と同じです。吐き出した直後の、吸い込む瞬間。そこにしか、ザルクス叔父さんの金属は届きません!』
『吸い込む瞬間!』
多朗は対位相照準眼鏡の縁を押し下げた。
視界に展開される立体座標の網目。だが、あまりの次元圧に計算機が狂い、画面の半分は赤い欠損表示で埋め尽くされている。
頭痛が頭蓋の内側を激しく打ち据えた。
視神経が焼き切れるような熱気。多朗は自らの生体アンカーとしての感覚を極限まで研ぎ澄ました。機械の数値ではない。かつて成増の空を見上げ、川越街道の夕暮れを歩き、この街の空気を感じ取ってきた、自らの生身の感覚。
見えた。
黒い多面体の底面。紫の電弧が内側へと収縮し、漆黒の亀裂がわずかに口を開ける特異点。
『剛田、オレを投げろ!』
『おうよ! くたばるんじゃねえぞ!』
剛田が咆哮し、床から引き抜いた鋼鉄腕で多朗の身体を宙へと打ち上げた。
重力に逆らい、斥力の嵐を突き破って、多朗の身体が核の直下へと跳躍する。
手にした生体波長パルス銃。その機関部には、ザルクスから託された六角柱の結晶が青く輝いていた。銃身が熱で真っ赤に発熱し、手袋の布地が焦げつく。
(届け! この街を、終わらせてたまるか!)
多朗は空中でパルス銃の引き金を絞り込んだ。




