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都立 成増航空高等学校  作者: 秋津ネオ


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十六歳の特異点と冷徹な防壁

 

 地下第一演習場の空気が、不気味な重力歪曲のアラートと共に激しく波打った。


 頭上から降り注ぐのは、要塞統括AIが制御する重機関砲の容赦ない掃射音だ。火薬の焼ける強烈な匂いと、弾丸がコンクリートを削り取る甲高い破壊音が四方に反響する。オレは空間把握の感覚を研ぎ澄まし、三次元の座標軸を脳裏に展開した。


 『イチ番、右翼の射角を潰せ。ニ番、弾道予測データを陣内に転送』


 オレが叫ぶと、頭上を旋回する小型ドローン小隊が甲高い電子音を響かせた。


 『あいよリーダー。派手にぶちかましてやるぜ』


 『転送完了。おいおい、この弾幕密度は計算上致死率八十パーセント超えてるぞ』


 イチ番のお調子者な声とニ番の冷静なツッコミが通信網を駆け抜ける。


 『弾幕が来るわよ。相羽、防壁を固めなさい』


 琴音が鋭く叫び、両手を薙ぎ払う。圧縮された大気が猛烈な旋風となって弾道を強引に捻じ曲げた。軌道を逸らされた無数の徹甲弾が、相羽の展開した幾何学的な光の多面体に激突し、甲高い火花を散らして弾け飛ぶ。


 『くっ、重い。でも一枚たりとも通さないよ』


 相羽の足が床を削り、その背後から剛田が地響きを立てて飛び出した。


 『オレの番だァッ』


 リミッターの外れた怪力が唸りを上げ、剛田の拳が迫り来る無人迎撃装甲の分厚い装甲板を粉々に粉砕した。


 その激闘を、演習場上部の防弾ガラス越しに見下ろす二つの影があった。腕を組む後藤と、端末を叩く稲葉だ。生徒たちの前で見せる教官としての冷徹な仮面を外し、同級生ならではの遠慮のない空気が漂っていた。


 『心拍数、全員百九十オーバーだ。カズ、お前ちょっと負荷上げすぎなんじゃないのか』


 ヤイジこと稲葉元秀が眼鏡のブリッジを指先で押し上げながら、モニターの数値を睨んで言った。


 『甘ぇこと言ってんじゃねえよ、ヤイジ。実戦の位相崩壊に放り込まれれば、こんなもんじゃ済まねえぞ。潔が作ったこの迎撃機材の数値を、あいつらはすでに力技でねじ伏せ始めてる』


 カズこと後藤和明が鼻を鳴らし、首筋の古傷を乱暴に掻いた。


 『まあな。大人の脳じゃこの多次元位相の負荷に三秒と耐えられない。神経可塑性が死んだ俺たち成人が接続したら、即座に脳の血管がブチ切れて終わりだ。シナプスが柔軟で、第二次性徴を経て古代のハプロ配列が完全に目を覚ます十五から十六歳の臨界点。この奇跡のタイミングにあるガキどもじゃなきゃ、地表の次元アンカーを固定することすらできん』


 『ああ。外宇宙も霊界も地底も、もう限界だ。ロシアやアメリカの背後にいる異星勢力も、それぞれの防衛線で防戦一方で悲鳴を上げてる。日本でもザルクスたちのレプティリアン超科学部隊や、応為さんの霊界部隊、それに月人勢力が多重パラレルの外殻を必死に支えてるが、地表の物質空間に直接打ち込まれたバグのくさびだけは、高次元兵器じゃ触れねえからな』


 ヤイジがキーを叩き、全地球規模の防衛マップを呼び出す。


 『山さんのやつも、裏で学校の物資と防衛予算のやりくりで胃に穴が空きそうだって嘆いてたぜ。俺たち同級生四人が揃って、とんでもない貧乏くじを引かされたもんだ』


 『へっ、泣き言はすべてが終わってから居酒屋で吐け。あいつらを死なせないために、俺たちが鬼になるしかねえんだよ』


 その時、演習場の床が凄まじい轟音と共に爆ぜた。


 陣内のハッキングが要塞統括AIの防衛網に致命的な遅延を発生させ、生じたわずかコンマ二秒の死角を、オレとドローン小隊が完全に捉えたのだ。


 『今だ、全員突撃』


 オレの号令と同時に、マナが重力を無視した超人的な跳躍で中央制御タワーの動力パイプを断ち切り、剛田の鉄拳が最後の防衛隔壁を叩き折った。


 演習場全体に、けたたましい作戦完了のアラートが鳴り響く。


 煙が立ち込める中、オレたちは肩で息をしながら、崩れ落ちた鉄屑の山の上に立っていた。全身の筋肉が痙攣し、視界がチカチカと明滅する。


 防弾扉が重い音を立てて開き、後藤教官がいつもの冷酷な表情に戻ってゆっくりと歩み寄ってきた。


 『教官、目標をすべて殲滅しました。オレたちはただのモルモットじゃない』


 オレが泥にまみれた顔を上げて言い放つと、後藤教官は眉ひとつ動かさず、冷たくオレたちを見下ろした。


 『いい面構えだ、上宮。だが勘違いするな。貴様らが実験体である事実に変わりはない』


 後藤教官は胸ポケットから一枚のデータ端末を取り出し、演習場の空間にホログラムを投影した。そこに映し出されたのは、オレたちが暮らす成増、光が丘、赤塚の街並みと、その上空及び地下深層で繰り広げられている目も眩むような超常戦争の生体ログだった。


 『なによ、これ』


 琴音が息を呑み、相羽が顔色を失う。


 『世界各地で多重パラレルワールドの境界が崩壊している。ロシアもアメリカも、背後の友好的な異星勢力と共に総力戦で防戦中だ。この日本でも、五族協和軍のレプティリアン超科学部隊や葛飾応為の霊界部隊、月人勢力が極限の防衛戦を展開している。だが、地表の物質空間を侵食するバグのくさびを破壊できるのは、高次元存在ではない。遺伝子に古代の配列を刻まれた、十六歳の貴様ら生体アンカーだけだ』


 後藤教官の鋭い声が、静まり返った地下空間に突き刺さる。


 『貴様らは、五族協和の全戦力を地上に繋ぎ止める最後の要だ。甘えを捨てろ。貴様らが倒れれば、この東京の物質空間ごと全てが多重次元の彼方へ消滅する。明日から、実戦位相への直接介入訓練を開始する。全員、泥水を飲んででも生き残れ』


 後藤教官は背を向け、冷徹に通路へと歩き去った。


 重い沈黙の中、オレたちは互いの顔を見合わせ、それから固く拳を握りしめた。世界の命運を託された過酷な宿命が、冷たい地下要塞の闇の中で、静かに牙を剥いていた。


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