タイムリミットの咆哮と最後の杭
0925時。
『残り時間はあと35分だ。足を止めるな、突っ込むぞ』
多朗の怒声が、湿った地下ドームに響き渡った。
泥の急斜面を登りきった6人の前に広がっていたのは、演習場最深部の鉄骨崩落エリアだった。折り重なった巨大なH形鋼と砕けたコンクリート片が乱立し、まるで怪獣の骨組みの中に入り込んだような無骨な迷路が続いている。
その迷路の頭上、天井の鉄製レールを軋ませながら、これまでの標的とは比べ物にならない巨大な黒塗りの大型重無人機が重低音を響かせて降下してきた。
ヴオオォンという不気味な駆動音とともに、左右のガトリング銃口が真っ赤に発光する。
『うわっ、あんなデカいのが隠れてやがったのかよ』
剛田が泥まみれの腕で最後の大型中継杭を抱え直し、目を剥いた。
『全員、鉄骨の影に隠れろ』
多朗が叫ぶのと同時に、ゴム弾の凄まじい嵐が鉄骨群を激しく叩きつけた。カンカンカンと鼓膜を劈くような金属音が連続し、火花が暗闇に散る。
『時間がねえ。ドローン全機、レールを狙え。突撃だ』
多朗の合図とともに、傷だらけの6基の超小型ドローンが鉄骨の隙間を縫って一斉に飛び立った。
『オイラの命をかけた超低空スピンを見やがれ』
イチ番が甲高い叫びを上げ、大型機のセンサーカメラの真ん前でコマのように回転した。
『右舷スラスタに限界警告、だが引くな、敵の視界を奪え』
ニ番が警告音をけたたましく鳴らしながら、強力なストロボ光を敵のレンズへ連続照射した。
『この鉄クズ野郎、オレの体当たりを喰らいやがれ』
ヨン番が猛スピードで突進し、敵のレール車輪の隙間にアームを突っ込んで激しく火花を散らした。
『壊れたら修理代が大変なのよ、無茶しないで戻りなさい』
サン番がお母さん全開の悲鳴を上げながら、ヨン番の尾翼を引っ張って引き戻す。
『どうせ僕たちの最後の花火さ、華々しく散ってやるんだ』
ゴ番が半泣きで敵の銃身へ特攻し、銃口の向きを無理やり上空へ跳ね上げた。
『敵の走行レール、左第3接合部に隙ありでござるよ』
ロク番が激しく赤色光を点滅させて叫んだ。
その瞬間、マナが音もなく鉄骨の上へ跳躍した。
足元の鉄パイプを豪快に蹴り飛ばすと、パイプは正確に敵の給電レールへ突き刺さり、バチバチと激しい青白いショート火花が弾け散った。
マナは軽やかに多朗と琴音の前に着地すると、濡れた白銀の髪を払いながら告げた。
『多朗さん、今です。左側の崩落ルートが開きました』
その呼び方に、隣にいた琴音が泥だらけの顔を一気に真っ赤にして噛みついた。
『な、なんでマナちゃんが多朗さんって呼ぶのよ。今は演習中よ、集中しなさいよね』
『琴音さん、感情の昂ぶりによる大気干渉で風速が上昇しています。その風をそのまま前方の煙幕へぶつけてください』
マナは無表情のまま、平然と指示を返した。
『もう、言われなくてもやってやるわよ。吹き飛びなさい』
琴音が両手を突き出すと、怒りと気合の混ざった凄まじい暴風が巻き起こり、立ち込めていた煙幕とゴム弾の残骸を正面へ吹き飛ばした。
0950時。
『相羽さん、防壁で剛田くんの射線を確保してください』
マナが叫ぶ。
『任せて。多面体防壁、最大展開』
相羽が歯を食いしばり、両腕を交差させた。
青白く輝く巨大な光の盾が空中に広がり、大型機が放った最後の弾幕をババババッと弾き返した。光の板が限界を迎えてピキピキと音を立てて砕け散る。
『陣内くん、給電停止を』
『うん。バイパス回路切断、システムダウン』
陣内が泥まみれの指で端末の最終エンターキーを叩き込んだ。
大型無人機のレール給電が完全に途絶え、巨大な機体が唸りを上げて停止した。
『剛田くん、行けます』
マナが剛田の背中を力強く押し出した。
0958時。
『うおおおおおっ、これで終わりだあああ』
剛田が泥水を跳ね上げ、最後の大型中継杭を担いで岩盤の窪みへ突進した。
多朗が地面へスライディングし、泥にまみれながら両手で接地ガイドの金具をガッシリと押さえ込んだ。
『剛田、叩き込め』
『おうよ、沈めええええっ』
剛田が両腕の筋肉を限界まで膨張させ、大型ハンマーを渾身の力で振り下ろした。
ドガァァァァンという凄まじい轟音が第3層ドーム全体に反響し、火花と泥水が天井まで吹き飛んだ。杭が岩盤の奥深くへと完全にめり込む。
多朗が震える指先でメインケーブルを差し込み、カチリとコネクタをロックした。
パッとまばゆい青い光が第3中継杭から放たれ、第1、第2のポイントと光のラインで結ばれた。ドーム全体が青い同期の輝きで満たされる。
1000時ちょうど。
長周期の演習終了ブザーが、ドーム全体に高らかに鳴り響いた。
天井のスピーカーから、後藤教官の低く硬質な声が響き渡った。
『全中継ポイントの同期完了を確認。経過時間、119分52秒。基準時間をクリアした。演習終了』
その声を合図に、剛田の手からハンマーが転がり落ち、その場に大の字に倒れ込んだ。相羽も光の盾を解いて泥の上にペタリと座り込み、琴音はその場に膝をついて荒い息を吐いた。陣内は端末を抱きしめたまま泥の中に突っ伏して泣き笑いの声を上げている。
マナだけがすっくと立ち、泥に汚れた作業服の裾を静かに払っていた。
頭上では、満身創痍の6基のドローンたちがフラフラになりながら多朗の肩や頭の周りに集まり、小さな電子音を嬉しそうに鳴らし合っていた。
多朗は泥だらけの大地に仰向けに倒れ込み、荒い呼吸を繰り返しながらコンクリートの天井を見上げた。
全身の筋肉が悲鳴を上げ、泥の冷たさと汗の熱さが混ざり合っていたが、胸の奥にはこれまでにない熱い達成感が満ちていた。
泥にまみれ、傷だらけになりながら、6人と6機は過酷な3日目の総合演習を確かに生き残ったのだった。




