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都立 成増航空高等学校  作者: 秋津ネオ


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三日目の起床ラッパと白金校長の影

 

 0530時。


 要塞地下第2層のコンクリート壁を震わせ、耳を劈くような甲高い非常起床ブザーが鳴り響いた。


 ガバッと跳ね起きた陣内が、手探りでベッド脇の眼鏡を掴み、素早く鼻梁へ押し込んだ。初日の朝に見せた混乱や狼狽はもうない。隣のベッドでは剛田が唸り声を上げながら太い丸太のような両足を床に叩きつけ、すでに上半身を作業服に滑り込ませていた。


 多朗も同時にベッドから飛び降り、足首の編上靴の紐を素早く二重に締め上げた。


(隔離3日目。筋肉の張りはあるが、関節の動きは悪くない)


 作業机の充電ドックから、緑のランプを点滅させた6基の超小型ドローンが一斉にホバリングして飛び上がった。


 『おっはよー、マスター。朝一番のプロペラ全開、今日も元気に撃墜されようぜ』


 イチ番が甲高い電子音を立てて多朗の頭上を旋回した。


 『寝ぼけるなイチ番。目標は撃墜されることではなく完全生還だ』


 ニ番が冷静なツッコミを入れ、機体のジャイロセンサをキャリブレーションした。


 『多朗くん、右の後頭部に寝癖がついてるわよ。顔を洗って襟元を正しなさい』


 サン番がお母さんのように多朗の頬すれすれを飛び回り、小言を鳴らす。


 『今日の演習こそオレの推進剤にニトロを混ぜてくれよ。標的をまとめて木っ端微塵にしてやるぜ』


 ヨン番が両脇のマニピュレータを激しくカチカチと打ち鳴らした。


 『どうせ今日も泥水に突っ込んで回路が焼き切れるんだ。僕なんてゴミ捨て場の肥やしがお似合いさ』


 ゴ番がベッドの支柱の影でローターの回転を落とし、いじけきった姿勢を取った。


 『警告でござる。居住区廊下の監視赤外線パターンが通常の訓練モードから迎撃監視モードへ切り替わっているでござるよ』


 ロク番がレンズを青から赤へ明滅させ、扉の隙間へカメラを向けた。


 『全員、準備完了だな。行くぞ』


 多朗が短く声をかけ、男子3人は扉を開けて冷え切った通路へ出た。


 0535時。


 通路の反対側の扉が開き、女子組の相羽、琴音、マナが寸分の狂いもなく整列した。相羽の髪はきっちりと後ろで束ねられ、琴音の瞳には鋭い集中が宿っていた。マナは無表情のまま、端末の通信ポートを右腕のジャックから引き抜いたところだった。


 『おはよう、多朗くん』


 相羽が引き締まった声で言った。


 『ああ。全員、体調に問題はないな』


 多朗が確認すると、琴音も短く頷いた。


『昨夜の気流データ、ドローンの姿勢制御プログラムに完全に反映させておいたわ。いつでもいける』


 通路の奥から、規則正しい硬質な軍靴の音が響いてきた。


 後藤教官と稲葉先生が、無駄のない歩調で6人の前に姿を現した。


 『整列』


 後藤教官の短い号令に、6人は一瞬で一直線に直立不動の姿勢を取った。


 教官の冷徹な眼光が、多朗たちの顔を一人ずつ射抜くように走る。


 『本日0800時より、第3層全域を封鎖し、総合実戦複合演習を実施する』


 後藤教官は抑揚のない声で言い放った。


『内容は、複合空間歪曲の突破、全帯域電磁遮断下における防衛通信網の構築、ならびに複数擬似標的の同時迎撃だ。座学と基礎訓練の全要素を同時に処理しろ』


 稲葉先生が手元のタブレットを掲げ、冷徹に補足した。


『制限時間は120分。一人でも脱落、あるいは通信同期の喪失が3秒以上継続した場合、部隊全員を初期の単独隔離室へ差し戻す。甘えは一切通用しないと思いなさい』


 『了解、教官』


 多朗を筆頭に、6人の揃った返答が冷たいコンクリートの通路に反響した。


 0630時。


 第2層の共同食堂で、6人は無言で支給された高カロリーの戦闘朝食を口に運んでいた。麦飯に高タンパクの大豆肉スープ、乾燥野菜の煮物。味を噛み締めるためではなく、0800時から始まる過酷な2時間を生き抜くための燃料補給だった。


 『陣内、演算の同期タイミングはオレのドローンの第3波に合わせろ』


 多朗が箸を動かしながら言った。


 『分かってる。昨日よりノイズの閾値を20パーセント低く見積もって、先回りして鍵を生成しておくよ』


 陣内がスープを飲み干しながら力強く頷いた。


 『壁の強度は私が保証する。何が来ても、絶対に抜かせない』


 相羽がスプーンを置き、多朗を真っ直ぐに見据えた。


 その頃。


 光が丘要塞の遥か地上、陽光が差し込む成増航空高校の校長室。


 白髪交じりの老校長・白金創は、窓辺の安楽椅子に深く腰掛け、湯呑みから立ち上る茶の湯気を静かに見つめていた。


 机の上に置かれた極秘端末のモニタには、地下第2層で食事を摂る多朗たち6人のリアルタイムな生体データ、脳波の同調グラフ、そして要塞周辺に発生している微小な空間歪曲の数値が淡々とスクロールしていた。


 白金校長は静かにお茶を一口啜り、誰に聞かせるでもなく呟いた。


 (人間と異質な才能、そして機械知性の融合。泥を啜り、暗闇を這うことでしか開かない回路がある)


 校長の瞳の奥に、人間のものではない冷徹な光が一瞬だけ宿った。


 (オテントサマのシミュレーションは予定通りだ。生き残って見せろ、上宮多朗)


 0750時。


 地下第3層、巨大な防爆扉の前。


 完全装備を身にまとった多朗たち6人は、赤く点滅する警告灯の下で、静かに扉が開く瞬間を待っていた。


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