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都立 成増航空高等学校  作者: 秋津ネオ


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6/15

天然系幼馴染マナの登場で女子の視線がバチバチなのに教師が昭和すぎて世界線が不穏な件

 

 技術室での騒動から一夜が明けた昼休み。

 俺と琴音は、購買で買った焼きそばパンを手に、特別棟へと続く連絡通路を歩いていた。新設校特有 の真新しいコンクリートの匂いに混じって、どこからか、今の時代には珍しいほど泥臭い、男たちのガサツな話し声が聞こえてくる。

 通路の先にある渡り廊下の踊り場で、数人の男教師たちがだらしなくたむろしていた。数学教師の後藤や、教頭の石田、英語教師の稲葉たちだ。彼らは同じ大学の仲間らしく、生徒たちの間でも学生時代のあだ名であるカズやキヨシ、ヤイジなどと呼ばれているが、新設されたこの綺麗な隔離校において、彼らの放つ空気だけがやけに古臭く、浮き上がって見えた。



その時、俺たちの横を、昨日技術室から一瞬で排除されたはずの茶髪の男、三島が猛烈な勢いで走り抜けていった。


「よおし、今日こそ技術室の美人の先輩を落とすぞ」


 性懲りもなくナンパ目的で突き進もうとする三島の前に、数学教師のカズこと後藤が、ぬっと大きな壁のように立ち塞がった。


「おい、そこ行く茶髪の一年。お前、第一ボタンはどうした。学生の本文を忘れて色気づいてんじゃねえぞ」


「げ、後藤先生」


「指導室だ。よし、キヨシ、ヤイジ、こいつをちょっと連れていくぞ」


 三島は弁解の余地すら与えられず、後藤たちに両脇を抱えられ、そのまま廊下の奥へと連行されていった。まさに昨日につづく二度目の瞬殺退場だった。


「あいつ、本当に懲りないわね」


 琴音があきれたようにため息をついた、その直後だった。


 「あの、すみません」


 背後から、ぽつりと、どこか独特のゆったりとしたイントネーションが混ざった、鈴を転がすような気の抜けた声がした。

 振り返ると、そこには制服のスカートを少し長めに穿いた、おっとりとした雰囲気の女子生徒が立っていた。ロシア人?と思えるほどに透明感のある綺麗な白い肌をした超美人なのだが、大きな瞳をパチパチとさせている様子は、どこか抜けていて絵に描いたような天然系のオーラを放っている。


「上宮くんの教室って、どこですか。歩いていたら、迷子になっちゃって。これ、間違えて持ってきちゃったんです」


 その超美少女は困ったように眉を下げて、抱えていた男子用のノートを差し出してきた。表紙には大きく上宮と書かれている。昨日、技術室で九条が予言のように呟いた、あの名前だ。


「一年生はここの一クラスしかないんだから、そこを真っ直ぐ行った教室だけど、あんた誰」


 琴音がすかさず一歩前に出て、値踏みするような鋭い視線をその女子生徒に向けた。


「あ、そうなんだ。不思議な学校。わたし、マナっていいます。今週から新しく入ったの」


 その言葉で腑に落ちた。そういえば、海外からの帰国手続きとかで入学が遅れている生徒が一人いるとクラスで噂になっていた。それがこの、誰もが見惚れるほどの容姿を持ちながら、いかにも守ってあげたくなるような世間知らずの少女だったわけだ。


「上宮くんとは、その、海外にいた頃からの幼馴染というか、いつも近くにいる感じで」


 マナは恥ずかしそうに頬を染めながら、上宮のノートをぎゅっと胸元に抱きしめた。

 マナ。九条の言っていた、真っ赤に燃え上がるタイムラインの中で、上宮とともに生き残るという、もう一人の特異点。


 「あら、楽しそうなことをしているわね」


 いつの間にか、連絡通路の影から白衣を羽織った鳴海先輩が姿を現していた。その背後には、丸椅子こそ持っていないものの、幽霊のように静かに佇む九条もいる。


「鳴海先輩。それに九条さんも」


 俺が声をかけると、マナは不思議そうに先輩たちを見つめた。


「上宮くんの周りには、いつも素敵な女の人がたくさん集まるって聞いていたけれど、本当なんですね」


 マナのその悪気のない天然な一言が、現場の空気を一瞬で凍りつかせた。


「へえ、上宮くんね。あのやたらと女子を引き寄せる、質の悪い磁石みたいな男のことかしら」


 鳴海先輩が目を細め、冷徹な笑みを浮かべる。


「ちょっと、わたしは多朗の監視役で一緒にいるだけだから、その男のハーレムと一緒にしないでくれる」


 琴音が顔を真っ赤にしてマナに反論する。


「うん、マナ。あなたはいつも上宮の隣にいる。でも、その隣はとても熱くて、もうすぐ世界と一緒に真っ赤に燃えちゃうの」


 九条がマナの顔をじっと見つめながら、感情のない声で不穏な言葉を告げた。


「え、燃えちゃうんですか。大変。火の用心ですね」


 マナは九条の恐ろしい警告を、ただの比喩か何かと勘違いしたのか、のんきに首を傾げている。

 上宮という男を中心に回り始める、ラブコメの定石のような歪んだ女子たちの人間関係。だが、その裏では、ガサツな昭和の空気を纏う教師陣も、この遅れてやってきたロシア人?と思えるような天然超美人マナも、すべてが破滅へと向かうタイムラインの駒として配置されている。

 俺は焼きそばパンを握りしめたまま、この学園に満ち始めた、強烈な違和感と女子たちのバチバチとした視線の応酬に、ただ冷や汗を流すしかなかった。

 


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