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都立 成増航空高等学校  作者: 秋津ネオ


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4/15

呼び出された技術室に、すでに手遅れっぽい電波少女がいた件

 約束の放課後。


 特別棟の最上階にある技術室の前で、俺は何度もため息をついていた。


「ちょっと多朗、ため息つくと幸せが逃げるって知らないの」


「いや、誰のせいでため息ついてると思ってるんだよ。なんで琴音までついてきてるんだよ」


「勘違いしないでよね。私はあんたが変な女に騙されないように、親切心から監視役としてついてきてあげただけなんだから」


「頼んでないって。昨日、絶対に行っちゃダメって声高々に怒ってたの誰だよ」


「それとこれとは話が別。あんな目が笑ってない美人、絶対に裏があるに決まってるわ。ほら、さっさとドア開けなさいよ。それとも怖気づいた」


「分かったよ、開ければいいんだろ、開ければ」


 琴音に背中をグイグイ小突かれ、俺は観念して、年季の入った技術室の引き戸をガラガラと開けた。


 放課後の技術室は、油とハンダ付けの匂いが微かに漂う、独特の薄暗さだった。


 だが、俺たちの目を最初に引いたのは、昨日ドンキで出会ったあの黒髪の先輩ではなかった。


 部屋の片隅、工具棚の隙間に置かれた丸椅子の上。


 一人の小柄な女子生徒が、体育座りをしたまま、じっと天井の一点を見つめていた。


「うん。今日の空気、ちょっとピリピリする」


「えっ!」


 俺と琴音がフリーズするのも気にせず、その子はボソボソと呟き続ける。


「成増の南口から、なんか変な風が流れてきてる。お天道さまが、急いでる。タイムラインが、ちょっと、歪んでる気がする」


「ひっ!」


 琴音が小さな悲鳴を上げて、俺の制服の袖をぎゅっと掴んだ。


「な、なあ、琴音。あの子、今なんて言った」


「知らないわよ。っていうか、完全にスピリチュアルというか、アブナイ側の人じゃない。やっぱり帰ろう多朗。ここ、呪われてるわ」


「待て待て、落ち着けって。おーい、もしもし」


 俺が恐る恐る声をかけると、その子はゆっくりと首をこちらへ向けた。


 ボサボサのショートヘアに、少し大きめの制服。焦点の合わない不思議な目が、まっすぐに俺を捉える。


「あ、あなた、昨日、風が変なの感じたでしょ」


「え、なんでそれを?」


「なんだか、懐かしい匂いがする。未来の、パパの匂い」


「はあ。ちょっと、誰がパパよ。出会い頭に変なこと言わないで」


 俺が固まっていると、すかさず琴音が前に飛び出して大声を上げた。


「多朗に変な電波を飛ばさないでくれる。この人、ただのジャンクオタクなんだから」


「ツンツンしてる。ノイズが大きい」


「な、何よノイズって。私の地声よ」


 「ふふ、昨日からちっとも退屈させないわね、あなたたち」


 部屋の奥のパーテーションの向こうから、聞き覚えのある涼しい声が響いた。


 現れたのは、白衣を気だるげに羽織ったあの黒髪の先輩、鳴海先輩だった。手には、昨日俺と奪い合った例の電子基板を弄んでいる。


「先輩。約束通り来ました。それで、俺に一体何の用なんですか」


「あら、そっちのツンデレな彼女もセットだとは思わなかったわ。まあ、歓迎するわよ。私は二年の鳴海。この技術室を根城にしている、ジャンククラフト部の部長」


「ジャンククラフト部。そんな部活、パンフレットに載ってましたっけ」


「新設校だし、私が勝手に作ったからね。で、そこの隅っこで宇宙と交信してるのが、今年入ってきた新入生の九条。一応、うちの唯一の部員よ」


 鳴海先輩が言うと、九条はコクンと小さく頷いた。


「九条です。お天道さまの、お導きで、ここに来ました」


「ねえ多朗、やっぱりこの部活おかしいわよ。部長はヤンデレっぽいし、部員は電波だし、完全に隔離病棟じゃない。早く逃げましょ」


 琴音が俺の耳元でヒソヒソと囁く。


「でもさ、琴音。この部屋、見たことないジャンクパーツが山ほどあるんだよ。ちょっとワクワクしないか」


「あんたはこれだからダメなのよ。男ってどうしてゴミの山を見ると目が輝くのかしら」


 鳴海先輩はそんな俺たちの小競り合いを面白そうに眺めながら、手元にあった電子基板を、俺の胸元にぽんと放り投げてきた。


「おっと、危ない」


「多朗くん。昨日、あなたその基板がどうしても欲しいって言ったわよね。だったら、さっそく何か面白いもの、ここで作ってみせなさいよ」


「えっ、今からですか」


「そう。拒否権は無いって、昨日も言ったはずよ」


 鳴海先輩は楽しそうに目を細めて、俺をじっと見つめた。


「もし面白いものが作れたら、その基板は正式にあなたにあげる。作れなかったら、そうね。私の個人的なお手伝いロボットにでもなってもらおうかしら」


「ちょっと。それ、ただのパシリでしょ。多朗、絶対に負けちゃダメだからね」


「いや、負けるとかそういう勝負なのかこれ」


 俺は手の中の基板と、三人の女子たちの視線を見比べながら、激しく頭を抱えるのだった。


 


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