メガドンキのジャンクコーナーで、怪しい先輩に捕まった件
放課後。
俺は入学初日の約束通り、琴音を連れて成増のメガドンキへと足を運んでいた。川越街道沿いにそびえ立つその建物は、相変わらず怪しい熱気に満ちている。
「ちょっと多朗。何で剛田くんまで当然みたいな顔してついてきてるのよ」
琴音が不満そうに、俺の隣を歩く巨体をジロリと睨みつけた。
「いいじゃんかよ御統。俺もドンキでプロテイン買いたかったんだって。成増航空のあの徒歩二十五分ロードのせいで、毎日勝手に足腰が鍛えられちゃってさあ。プロテインで栄養補給しないと筋肉が溶ける」
剛田は大きな荷物を抱えながら、ガハハと笑った。
「それは分かる。あの距離は本当に毎日が修行だわ」
「あんたたち、男のくせに軟弱ねえ。私は全然平気だけど?」
「琴音は歩くの早いからな。それより剛田、俺が探してるのはこれだよ」
店内の奥深く、家電コーナーの隅っこにひっそりと置かれたジャンクカゴを指差した。埃をかぶったコード類や、何に使うのか分からない怪しい機械の残骸が山積みになっている。
「うわ、何だこれ。ただのゴミの山じゃん。上宮、お前こんなの漁って何すんだよ」
剛田が物珍しそうにカゴを覗き込む。
「いや、こういうゴミの山から、まだ息をしてる電子基板とか古いモーターを掘り出すのが宝探しみたいで面白いんだよ。これなんか、自作の模型を動かすのに最高な……」
俺がカゴの奥底に手を突っ込み、お目当ての怪しい基板を引っ張り出そうとした、まさにその時だった。
スッと、横から白くて細い手が伸びてきて、その基板の端をガシッと掴んだ。
「あ、すいません。それ、私が先に目を付けてたんですけど」
俺が手を引こうとすると、驚くほどの力でギチギチと引っ張られる。指先が完全にロックされていてビクともしない。
「悪いけど、このジャイロセンサー付きの基板は譲れない。私の研究に絶対必要なの」
声の主を見上げると、そこにいたのは、うちの学校の制服を着た見知らぬ女子生徒だった。
ただし、胸元の校章のラインの色が違う。二年生か、三年生の先輩だ。
長い黒髪を少し乱しながら、彼女は鋭い目で俺をじっと凝視した。整った顔立ちでめちゃくちゃ美人なのに、目が一切笑っていない。それどころか、ぐいぐいと顔を近づけてくる。近い。お互いの吐息がかかりそうなくらい距離が近くて、心臓に悪い。
「ちょっと先輩。うちの多朗に何ガツガツ迫ってんですか。離れてください」
琴音が慌てて俺と先輩の間に割って入り、俺の手首を引っ張った。
「……チッ。外野がうるさいわね。ねえ君、名前は?」
先輩は琴音の抗議を完全に無視して、俺の胸のネームプレートをじっくりと覗き込んできた。
「上宮、多朗ですけど……」
「そう、多朗くんね。覚えたわ。その基板は今回は譲ってあげる。新入生への歓迎プレゼント」
先輩は基板を俺の胸元にぽんと押し付けると、フッと不敵に笑った。
「その代わり、明日、放課後に技術室に来なさい。拒否権は無いから」
言うだけ言うと、先輩はあっという間にドンキの雑多な人混みの奥へと消えていった。
「な、何あいつ。めちゃくちゃ美人だけど、目が完全にヤバい世界の住人だったぞ」
剛田が引きつった顔で自分の腕をさすっている。
「なによあのアマ。初対面で多朗多朗って連呼しちゃってさあ。絶対に関わっちゃダメだからね、多朗。明日の放課後は絶対に直帰するわよ」
琴音が顔を真っ赤にしてフンスと鼻を鳴らした。
俺は手渡された奇妙な電子基板を見つめながら、早くも明日からの学校生活に、とんでもない不穏な予感を抱くのだった。




