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都立 成増航空高等学校  作者: 秋津ネオ


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15/16

保健室のベッドは天国だし、先生の呟きはやっぱり少しおかしい


「おい剛田、しっかりしろ。おい、死ぬな剛田」


 多朗が仰向けに倒れた剛田の肩を揺さぶるが、剛田は白目を剥いたまま、ぴくりとも動かない。ただ太ももの筋肉だけが、見たこともないような形でピクピクと痙攣していた。


「完全に足が攣ってるわね。無理もないわ、あの筋肉痛でさらに走らされたんだから」


 相羽が腰に手を当てて見下ろす。隣では琴音が心配そうにオロオロとしていた。


「おい、上宮。剛田を保健室まで運べ。マナ、お前も手伝え」


 朝礼台の上から、後藤教官が面倒くさそうに声をかけてくる。多朗が「え、俺一人でこいつを担ぐんですか」と言いかけるより早く、マナが、はい、と小走りで近づいてきた。


「私、足の方を持ちますね」


 マナはそう言うと、剛田の太い両足をひょいと持ち上げた。まるで軽い荷物でも扱うかのような軽やかさだった。多朗は慌てて剛田の脇の下に腕を通し、上半身を引き上げる。


「うわ、剛田のやつ、見た目通り重っ。マナ、大丈夫か」


「はい、全然重くないですよ。お米の袋みたいです」


 大柄な剛田を前後から抱え、多朗とマナはグラウンドを横切って校舎へと向かう。後ろから琴音と相羽が、剛田の脱げかけた靴を持ってついてきた。


 保健室の引き戸を開けると、中から薬品の匂いと一緒に、先ほど朝礼台の横にいた白衣の先生が出迎えた。


「あらあら、さっそく一人脱落ね。そこに寝かせて」


 先生の指示に従い、剛田をベッドに横たえる。シーツに背中がついた瞬間、剛田が、はうっ、と大きく息を吹き返した。


「ここは、天国か。俺はついに、カツサンドの国へ逝ったのか」


「バカ言え、保健室だよ。生きててよかったな」


 多朗が汗を拭いながらパイプ椅子に座り込む。先生は手際よく剛田のジャージの裾をめくり、冷たい湿布とアイスパックを巻きつけていった。


「ひゃんっ、冷たい。先生、優しくして」


「うるさいわね、自業自得よ。しばらくそこでじっとしてなさい」


 先生は剛田の頭を軽く叩くと、今度は多朗の横に立っていたマナの方をじっと見つめた。その目が、普通の生徒を見るものとは明らかに違っていて、多朗は少し身構える。


「あなた、転校生のマナさんよね」


「はい、そうです」


「ちょっと腕を出して。心拍数を測らせてね」


 先生はマナの手首を掴み、腕時計の秒針に目を落とした。数十秒の沈黙が流れる。多朗や琴音たちは、まだゼーゼーと荒い息を吐き出しているというのに、マナの胸元は静かに上下しているだけだった。


「やっぱりね。あなた、本当にあの距離を走ってきたの。脈拍が普通の人間の平熱時と変わらないわよ」


「はい。後藤先生の笛に合わせて、ちゃんと走りました」


 マナが不思議そうに首を傾げる。先生はマナの手首を離すと、カルテに何かを書き込みながら、ボソッと呟いた。


「適合率が高すぎるのも、それはそれで不気味ね。一体どこでそんな風に調整されたのかしら」


「先生、それどういう意味ですか」


 多朗が思わず聞き返すと、先生はハッとしたようにカルテを閉じ、いつものすました笑顔に戻った。


「何でもないわよ。それより上宮くん、あなたたちも授業に戻りなさい。剛田くんは次の授業が終わるまでここで強制休業だから」


 ベッドの中から、剛田が、よっしゃあ、と小さくガッツポーズを作るのが見えた。多朗はマナの顔を見たが、彼女は相変わらず、何も考えてなさそうな穏やかな笑みを浮かべているだけだった。

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