反撃の狼煙
高次元探査波の画面に浮かび上がった無数の赤い輝点は、成増神社から基地へと続く一キロ回廊の路地や建物の陰にひしめいていた。
静止する中枢母機【零二】の操縦席で、上宮多朗は主座の操作盤を叩き、全兵装のエネルギー充填を確認する。
副座の相羽みなみは幾何学配列の表示盤に両手を滑らせ、空間座標をミリ単位で固定した。
「全方位の同期完了。一キロ回廊の影、すべて捕捉しました」
みなみの声に合わせ、主操縦桿を握る剛田猛が唸り声を上げる。
両腕の骨折固定金具の痛みを押し隠し、猛は重心を沈めて機体を前傾させた。
背後では陣内竜太郎が冷徹な電磁防壁を展開し、敵の逆流を完全に封じ込めている。
「逃がすな。一網打尽にする」
一キロ離れた旭町の成増神社境内では、ザルクスが重粒子銃の赤熱した銃身を構えて低く吼えていた。
緑の鱗の亀裂から微弱な光が漏れる中、ザルクスは隣で巨大な霊筆を振るう葛飾応為へと声を飛ばす。
応為は血まみれの袖で汗を拭い、霊筆を石畳に突き立てて黄金の結界を外側へと押し広げた。
社務所裏では、マナが球体通信機を抱きしめて周囲を警戒している。
一方、成増基地の防空壕前。
地上防衛線を固める九条は、手に持った銃を下ろし、ふと基地周辺の路地裏へと目を向けた。
「あそこの路地の影、いやらしいのがうじゃうじゃ隠れてるよ」
九条の透き通る声を聞き逃さず、後藤和明が野太い号令を放った。
「野郎ども、一斉射撃開始だ。一歩も通すな」
後藤、石田潔、稲葉元秀、山口晃の四人が呼吸を合わせて対位相火器を連射し、瓦礫の山から弾幕の壁を築き上げる。
さらに榊、鳴海、四條蓮が若さあふれる突撃で敵の退路を断った。
空と地上と神社の三方から挟撃された残存霊体は、逃場を失い、高密度の光条に飲み込まれて次々と蒸発していく。
わずか数分の交戦で、一キロ回廊の影は完全に一掃された。
静寂が戻った成増の上空で、【零二】の機首がゆっくりと新宿方面の地下深くへと向けられる。
多朗は基地地下の稲葉へと通信回線を直結させた。
表示盤に稲葉の引き締まった顔が浮かび上がる。
「多朗、地下回線の奥から妙な反応がある。五族協和軍の連中が、こちらの動きに怯えて防護扉の出力を上げやがっているぞ」
「わかりました、稲葉教官。その回線を奴らの統合司令部に直結してください。月読炉心の出力で、強制割り込みをかけます」
「任せろ。今、最大帯域で貫通ルートを開く」
成増全域の安全が完全に確保されたその瞬間、多朗は深く息を吸い込み、マイクのスイッチを入れた。
月読炉心の通信波が、深海と地底の奥深くへ向けて一気に放たれる。
『五族協和軍の司令部へ伝えます。聞こえていますか』
十六歳の多朗は、礼節を失わず、静かに、しかし確固たる想いを乗せて語りかけた。
『同じ人間の過ちを深くお詫びします。どうか人間不信に陥られたあなた方も、いつの日か共に手を取り合える日が来ることを信じて、今は私たちの戦いを見守り、いつの日か力を貸していただけないでしょうか』
地下深くの中枢で、その真摯で飾らない言葉に五族の者たちが静かな動揺を見せる。
操縦席の四人の表情にも、未来を見据える深い決意の色が浮かんだ。
『私たちは決して諦めません。これより東京上空の完全奪還作戦を開始します』
通信の完了と同時に、【零二】は眩い光の尾を引きながら、新宿上空へ向けて急上昇を開始した。
地球の空を取り戻すための、本当の戦いが今、幕を開けた。




