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都立 成増航空高等学校  作者: 秋津ネオ


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閉ざされた扉と少女の誓い

 後藤大隊長と山口が地下の特務指揮所から地上へと戻ったとき、成増基地の防衛線はさらなる苦境に立たされていた。


 世界各国の防空網が完全に沈黙したことで、大陸方面に展開していた無数の小型多面体と人型霊体が、まだ強い生体反応と霊力を放ち続けている東京の成増地区へと一斉に押し寄せてきていたのだ。赤黒い空は敵の群れで埋め尽くされ、地上には息をつく隙間もないほどの光弾が降り注いでいた。


「くそっ、さっきまでとは数が違いすぎるぞ。まるで世界中の敵がここ一箇所に集まってきてるみたいだ」


 四條蓮が崩れた防壁の陰で観測器を叩きながら叫んだ。その横では、榊が加熱した銃身に冷却水を浴びせながら、荒い息を吐いている。


「通信が途絶えたってことは、他の拠点はもう落ちたのか。鳴海、残りの荷電粒子弾はあとどれくらいある」


「私の手元にはあと二弾倉しかありません。ですが、一発ずつ確実に核を撃ち抜けばまだ戦えます」


 鳴海は冷静な声で答えながらも、額から流れる汗を拭う余裕すらなく次々と迫る小型機を狙撃していた。しかし、その少し後ろの瓦礫の陰で、女子生徒の九条は対位相照射器を抱えたまま、小刻みに肩を震わせて立ち尽くしていた。


 世界中が沈黙し、すべての逃げ道が閉ざされたという事実が、彼女の脳裏に焼き付いて離れない「過去の記憶」を激しく呼び覚ましていたのだ。


「同じだわ。あたしがいた元の世界と、何もかも同じよ」


 九条の乾いた唇から、震える声が漏れた。彼女がかつて暮らしていた平行世界の地球もまた、最初は各国が連携して多面体に立ち向かっていた。だが一人、また一人と裏切り者が現れ、最後には誰もかもが疑心暗鬼に陥って孤立し、空を埋め尽くす黒鉄の群れに呑み込まれて消滅したのだ。


「あの時も、こうやって空が真っ黒に染まって、通信が全部消えて、そしてみんな死んでいった。あたしがどれだけ足掻いても、結局この世界も同じ結末を辿るんだわ」


 恐怖と絶望に視界が滲み、九条の指から照射器が滑り落ちそうになったその時、小さな手が彼女の冷たい手をぎゅっと握りしめた。


「九条さん、これ飲んでください。まだ温かい麦茶です」


 見上げると、防空壕から駆け上がってきた炊事班の琴音が、煤だらけの顔で一生懸命に微笑んでいた。琴音は自分の身を呈して九条の前にしゃがみ込み、水筒の蓋を開けて差し出した。


「琴音ちゃん、どうしてこんな前線に出てきたの。早く地下に隠れないと死んじゃうわよ」


「私も怖いです。足がすくんで、涙が止まりません。でも、九条さんや榊先輩たちがここで戦ってくれているから、防空壕のみんなは今日まで生きていられました。だから、この世界は絶対に終わりなんかじゃありません」


 琴音の真っ直ぐな言葉に、九条は息を呑んだ。そこへ、階段を登りきった後藤大隊長が歩み寄り、九条の隣の防壁に背を預けて自動小銃を構えた。


「九条、お前は前の世界からただ逃げてきたわけじゃないぞ」


 後藤は迫り来る人型霊体の頭部を正確な三点射で吹き飛ばしながら、静かな声で語りかけた。


「お前があの地獄を生き延びてこの成増へ辿り着いたのは、同じ破滅をもう一度見物するためか。違うだろう。お前が持ってきた知識があったからこそ、俺たちは対位相火器を作ることができ、上宮たちを月へ送り出すことができた。お前がいたから、この世界にはまだ逆転の目が残っているんだ」


「後藤教官」


「前の世界には、月の裏側へ辿り着いた上宮たちはいなかったはずだ。そして今、お前の隣には俺たちがいる。過去と同じ結末になどさせてたまるかよ」


 後藤の言葉が、九条の胸の奥で凍りついていた何かを熱く溶かしていった。見回せば、傷だらけの榊も、弾数を数えながら銃を構える鳴海も、必死に座標を叫ぶ四條も、そして小さな背中で弾薬箱を運ぶ琴音も、誰一人として生きることを諦めてはいなかった。


 九条は袖で目元の涙を強く拭い去り、滑り落ちかけた対位相照射器を両手でしっかりと握り直した。


「そうね、後藤教官の言う通りだわ。ここには上宮くんたちがいるし、みんながいる。あたし、もう絶対に逃げない。この世界を、あたしたちの手で守り抜くわ」


 九条が立ち上がり、瓦礫の銃座に照射器を据えて照準を合わせた。彼女の瞳からは迷いが消え、群がる多面体の中心核を正確に捉える。


「四條くん、正面の密集地帯の位相の隙間を教えて。あたしが一気に撃ち抜くから」


「よし、来たぞ九条。正面角度三十、高度百二十の個体が周囲の障壁を束ねている。そこを撃て」


 四條の声と同時に、九条が引き金を絞った。照射器から放たれた眩い白光の束が黒煙を切り裂き、中核個体の障壁を貫いて大爆発を引き起こす。連鎖反応によって周囲の小型機が一斉に墜落し、成増の地上防衛線に歓声が上がった。閉ざされた地球の片隅で、少女の新たな誓いが戦況を押し返していた。 

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