重力子を断ち切る命懸けの浮上
「このままでは圧壊するぞ。出力をさらに一段引き上げろ!」
剛田猛が巨体を激しく揺らしながら補助入力を荒々しく叩き込む。
「機関出力は限界値を超えています。だが、ここで踏み止まれば二度と浮上できません。押し切ります!」
相羽みなみが鼻血をわずかに滲ませながらも高次元計算の同調を死守する。
「ここで海底の藻屑などになってたまるか!」
上宮多朗が両手で操縦桿を引き絞り、零二の推力を限界突破の領域へ叩き込む。
背後で膨大な高圧水流が爆発的に弾け飛び、機体は海底の底から天へ突き上げるロケットのように凄まじい水圧勾配を駆け上がっていった。
網膜の神経網に直結した六基の自律小型無人機が崩れかけた推力ベクトルを瞬時に再構築し、圧倒的な水圧の壁を切り裂くためのカウンターフィールドを展開し続ける。
「上宮くん、前方一千メートルに敵の迎撃網の残骸です。そのままでは激突します!」
「一号から六号まで、迎撃ビームの連射で障害物を蒸発させろ!」
多朗の思考に直結している無人機たちが一斉に光の筋を放ち、迫り来る黒鉄の瓦礫を粉砕する。
機体のすぐ脇をかすめる生体ミサイルの爆風が零二の巨体を激しく揺ぶった。
外殻の耐圧フィールドが白い泡と青白いチェレンコフ光をまき散らしながら、凄まじい速度で水面を目指す。
「物量が違いすぎる。エネルギーの備蓄が枯渇するぞ!」
「耐えるんだ、陣内。ここで沈んだらおしまいだ!」
陣内蓮が灼熱に軋むメインエンジンの計器盤を見据えながら、冷却水のバルブを全開まで押し込む。
焼き付く寸前の機関を限界ギリギリの状態で稼働させ、機体を少しでも上層へと押し上げようと必死にレバーを固定し続けた。
「機関温度、警告音の鳴動が止まりません!」
「構うな、そのまま突っ切れ!」
多朗が歯を食いしばりながら機体の姿勢を命がけで制御する。
水深の数字がみるみる小さくなり、周囲を取り巻く水圧の壁が徐々にその拘束を弱めていく。
「推力、最大値を維持。もう少しで海面を突破します!」
「よく耐えた。一気に抜けるぞ!」
多朗の怒号と同時に零二の頭上の水圧が急激に抜け落ち、機体は凄まじい水柱を伴って暗黒の世界を突き破り、一気に太平洋の海面へと飛び出した。
激しい水飛沫が舞い散る中、外の光景を捉えたセンサーの映像を見てコクピットの空気が一瞬で凍りつく。
「なんだ、これは!」
剛田が絶句し、巨体を揺らす。
かつて青く広がっていたはずの太平洋の上空は、巨大な多面体構造物と無数のヒューマノイド型霊体の影によって完全に埋め尽くされていた。
「上空からの重力波反応、全域で拡大しています」
みなみの冷徹な声が響く中、地表の隅々へと無慈悲な侵略の光芒が降り注ぐ。
海面から這い出た零二を待ち受けていたのは、安息の地などではなく、地球全体の空が血と鉄に染まる絶望的な蹂躙の現実そのものだった。
深海の底から命からがら逃げ帰った先で、人類の故郷はすでに悪夢のような侵略の炎に包まれていた。




