駅前で別れた謎の美少女、どうやら家は和光市の手前にある名もなき古い社のようです
「あー食った食った! やっぱり、さわやのから揚げ特盛は最高だな!」
藍色の暖簾をくぐって川越街道に出た瞬間、剛田が満足げに自分の腹を叩いた。西の空はすっかりオレンジ色に染まり、家路を急ぐ自動車のヘッドライトが点々と輝き始めている。
「よくあのシャトルランと数学の後にそれだけ食えるわね。見てるだけで胃もたれするわ」
相羽が本気で嫌そうな顔をして、剛田から一歩距離を置く。
「お前らこそ、あんな地獄の授業の後に涼しい顔しやがって。多朗、お前もそう思うだろ?」
「いや、俺も足は限界。なぁマナ、お前は平気だったのか?」
多朗が少し後ろを歩くマナを振り返る。マナは通学カバンの紐を両手で大事そうに握ったまま、のんびりとした足取りでついてきていた。
「はい。私は全然、大丈夫です!」
「マナさん、本当にタフだよね」
琴音が感心したようにマナの顔を覗き込む。
「そういえばマナさんの家ってどのへんなの? 毎日成増駅から電車?」
「えっと、和光市と成増の間、くらいです。だから、駅の入り口までは一緒ですね」
「へえ、じゃあそこまでゾロゾロ行くか」
夕方の川越街道を、五人は並んで歩き出す。
剛田と相羽は相変わらず次のテストの愚痴を言い合い、琴音は多朗の隣で静かに歩幅を合わせていた。多朗はときおり、街道を走るトラックの音にいちいち耳を澄ませているマナの横顔を見ていたが、声をかけるタイミングは掴めない。
やがて、成増駅南口へと続く交差点が見えてくる。
「じゃあ俺たちはこっちだから。マナ、また明日な」
「うん、暗いし気をつけて帰りなよ」
多朗と琴音が足を止めると、マナは足を止めて嬉しそうに微笑んだ。
「はい、また明日。皆さん、お気をつけて」
マナは小さく手を振ると、成増駅の雑踏へは向かわず、一人でそのまま川越街道を西の旭町方面へと下っていった。
「じゃあなー!」
剛田の呑気な声が響く中、マナの制服の背中は、夕闇が濃くなり始めた歩道の向こうへ小さくなっていく。
成増の駅前を完全に通り過ぎ、旭町の静まり返った住宅街。
マナは迷いのない足取りで、街道から一本入った場所にある、古びた小さな敷地へと滑り込んだ。看板もなく、地元の人間にすら存在を忘れられたような、奇妙に静まり返った古い社だ。
石の門をくぐった瞬間、あれだけ騒がしかった街道の車の音が、嘘のように消え去る。
しんと静まり返った敷地の奥、古い建物の引き戸がガラガラと内側から開いた。
「おかえり、マナ。学校はどうだった?」
薄暗い室内から顔を出した隊員が、戻ってきた少女の姿を見て、ほっとしたように目を細める。
「ただいま帰りました」
マナは多朗たちの前で見せていた抜けた笑顔を少しだけ引っ込め、静かに微笑んだ。
「うん。やっぱり人間の暮らす街は、すごく温かいです」




