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都立 成増航空高等学校  作者: 秋津ネオ


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山王の穿孔

 


 日枝神社の折れた大鳥居の地下深く、東京の地下鉄連絡網を噛み砕いた大穴の底で、紫黒の肉塊が脈動していた。


 第三種空間侵食体の中枢核。


 周囲の石段や崩落した地下駅の残骸を呑み込みながら、幾本もの太い触手が蠢き、神域の清浄な大気を汚泥のような重力波で汚染している。


『ご先祖様、地上部隊の後退経路、確保完了でござる』


 ロク番の鋭い電子音が多朗の受感器へ飛び込んできた。


 多朗が操る数千機の無人迎撃網が、天蓋から青い光芒の網を幾重にも張り巡らせ、敵の重力触手から地上部隊を遮断する光の傘を形成していた。


 瓦礫の谷間から、負傷した防衛大の学生兵たちが肩を貸し合いながら必死に後退していく。


 その頭上を、淡い桃色の光を放つサン番が甲斐甲斐しく旋回していた。


『海斗さん、足元が崩れやすいですから気をつけてくださいね。左肩を強く打っている生徒さんは右腕を首に回させて。ヨン番が後方の障害物を爆破排除しましたから、そのまま直進してください』


 サン番のお母さん属性全開の小言混じりの誘導が、海斗たちの通信機へ休むことなく注ぎ込まれる。


『恩に着るぞ、小さな看護婦さん』


 海斗は血の滲む額を腕で拭い、部下たちの背中を押しながら安全圏の地下道へ退避させた。


 『一馬兄貴、敵核の深度と水脈の配置を送ってくれ』


 多朗が操縦席で叫ぶと同時に、市ヶ谷の陸上自衛隊情報本部から一馬の研ぎ澄まされた通信が割り込んできた。


『送った。日枝の地下深く、江戸城外堀の水脈と旧防空壕が交差する結界の要石に、敵の本体が根を張っている。周囲の地盤は崩壊寸前だ。直撃で仕留め損なえば、永田町から丸の内まで地盤ごと陥没する』


 一馬から送信された極秘の立体地図が、多朗の操縦盤へ鮮明に投影された。


 さらに間髪を入れず、本郷の東京大学大学院から悠人の高速暗号が雪崩れ込んできた。


『多朗、計算が終わった』


 悠人の早口な数理解説が多朗の右脳へ直接響く。


『敵の次元防壁は完全無欠じゃない。地下水脈の重力反発に合わせて、三十二秒周期で一秒間だけ防壁の極性が完全に反転する零点位相が存在する。悠人兄貴の数式を貴様の生体端子へ転送した。反転の瞬間に全神経を同期させろ』


 長男の一馬が拓いた地図。


 次男の悠人が導いた数理の鍵。


 三男の海斗が命を賭して炙り出した敵の急所。


 そして末弟の多朗が握る生体の操縦桿。


 上宮家の四兄弟の命脈が、帝都崩壊の淵で一つに結実した。


 『前衛、道をこじ開けるぞ』


 榊の獰猛な咆哮とともに、漆黒の初号機NX零一が垂直急降下を敢行した。


 榊の神業じみた操舵により、前進翼が敵の触手群を切り裂きながら螺旋を描いて地下空洞へ突入する。


『鳴海、信管を寄越せ』


『へいよ、特製の大玉だ』


 後席の鳴海が闇市場の結晶火薬を連続投下した。


 青黒い爆炎が神域の地下を満たし、敵核を保護していた外殻が激痛に震えて剥がれ落ちる。


『ご先祖様、突破口が開きましたぞ』


 ロク番が武士の気迫で敵の死角へ突っ込み、ヨン番がプロペラを唸らせて叫ぶ。


『ボクの追加火薬を喰らえ。木端微塵に消し飛べ』


 ヨン番が残存弾頭を全弾撃ち尽くして敵の外壁を粉砕する。


『僕の推進翼、もう限界かも。どうせスクラップだし、目眩ましぐらいやってやるさ』


 ゴ番が自虐の電子音を叫びながら、眩惑光を放って敵の照準を狂わせる。


『多朗、敵核の反転周期を計測した。悠人兄貴の計算と完全に一致している』


 知性派のニ番が冷静に報告を上げ、イチ番がお調子者らしく旋回しながら友軍無人機群の突撃路を切り開いていく。


『多朗、照準同調完了』


 相羽が冷徹に告げ、剛田が歯を食いしばって質量固定盤の固定桿を限界まで引き倒した。


『ぶち抜け、多朗』


 剛田の咆哮が操縦席を満たす。


 『反転まで、三、二、一、今だ』


 悠人の数式が告げた零点位相。


 敵の紫黒の防壁が青白く反転し、無防備な核が剥き出しになった。


『行けえっ』


 多朗の右手が激しく発光し、古代の血潮が青黒い燐光となって操縦桿から機体の外殻全体へ駆け巡った。


 NX零二の舳先から、巨大な青白い生体光杭が槍のように突き出された。


 音速を超えた急降下。


 神域の空気を焼き焦がしながら、NX零二の放った光杭が、日枝神社の地下に鎮座する異界の中枢核の眉間を深々と貫通した。


 時空が軋み、激しい白色閃光が地下空洞から地上へと噴き上がった。


 断末魔の叫びとともに巨大な肉塊が内側から自壊し、黒煙の粒子となって消滅していく。


 吹き荒れる突風の中、消えゆく光の残滓の彼方から、超知性オテントサマの無機質な計算残響が多朗の耳朶を微かに揺らした。


 地上。煙の立ち込める赤坂の街で、海斗が足を止め、夜明けの空を見上げた。


 雲間から差し込む朝の光の中を、二機の漆黒の前進翼機が旋回していく。


 海斗は額の包帯を赤く染めながら、誇らしげに唇を結び、弟たちの機体へ向けて力強い挙手注視の礼を送った。


 そして、成増の地下司令卓では、銀の髪を揺らしたマナが静かに佇んでいた。


 その金色の瞳は、悠久の時を越えて運命を繋ぎ止めた多朗の姿を、ただ深く見つめていた。


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