第7話 『呼吸と鼓動』
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(どうしよう……)
夏の暑さと、誠也の体温、そして、それに包み込まれている状況に、菫の体温と心拍は、危険なほどに上がりっぱなしだ。
(とりあえず、落ち着こう)
そう自分に言い聞かせて、深呼吸を繰り返す。
陽だまりのような、頼もしい誠也の気配を、胸いっぱいに吸い込む。
(安心するなぁ……)
ほっと息を吐く。
すると、もたれている誠也の胸も、深く、大きな呼吸を繰り返している。
菫は、なんとはなしに誠也の呼吸に、自分のそれを合わせようと試みた。
すー……。ふぅ。
だんだんとリズムを合わせる。
すると、どちらのものともつかない、大きくて速い心音に気づく。
瞬間、菫は無意識に身動ぎした。
まるで子猫が甘えるように、誠也の肩に顔を擦り付ける格好だ。
すると――
聞こえていた鼓動が、一段と強く、速くなる。
(ああ、先輩が私にドキドキしてくれている)
言いしれない嬉しさが、込み上げてくる。
その時、菫の頭上から、ふーーーーっと長く吐く息が聞こえた。
「これ、駒野さんの手作りか?浴衣」
「え……?あ、うん。凜が、今日のためにとびきり可愛くしようって、二人分。凜だって受験生なのに……」
「うん。すげぇ似合ってる。可愛い」
「あ、ありがとう、ございます……!」
「小物類は全部菫だろ?前よりさらに、繊細で綺麗になってる」
「……っ!」
(作品!綺麗、なのは、作品!)
そこで誠也はふと、良く熟れた果実のように染まる菫の耳にとまった、アメジストの輝きに、そっと手を伸ばす。
「これ、シールか?これも菫のレジンだよな」
「……っ、そう!そうなの!穴開けるのは、青葉じゃ無理だから、高校卒業するまで、我慢」
「そう、だな……。高校卒業までは、我慢しないとな」
そう呟いて、離れていく誠也の指が、菫の耳たぶにかすかに触れる。
(ーーーーっ!!!!)
菫の頭が色々と限界に達した、その時――
ぐぅー……。
「……」
「……すまん」
二人は同時に、ふっと噴き出す。
そして、どちらからともなく、少しだけ離れる。
「何か、食べに行きましょうか」
「だな。駒野さんおすすめのコロッケでも買うか」
自然と腕を組んで、二人は祭りを楽しむ浴衣の群れのなかに、溶け込んでいった。
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