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文化祭の君  作者: 獅堂最
after story 『浴衣の君』
57/58

第7話 『呼吸と鼓動』

 *****


(どうしよう……)


 夏の暑さと、誠也の体温、そして、それに包み込まれている状況に、菫の体温と心拍は、危険なほどに上がりっぱなしだ。


(とりあえず、落ち着こう)


 そう自分に言い聞かせて、深呼吸を繰り返す。

 陽だまりのような、頼もしい誠也の気配を、胸いっぱいに吸い込む。


(安心するなぁ……)


 ほっと息を吐く。

 すると、もたれている誠也の胸も、深く、大きな呼吸を繰り返している。


 菫は、なんとはなしに誠也の呼吸に、自分のそれを合わせようと試みた。


 すー……。ふぅ。


 だんだんとリズムを合わせる。

 すると、どちらのものともつかない、大きくて速い心音に気づく。


 瞬間、菫は無意識に身動みじろぎした。

 まるで子猫が甘えるように、誠也の肩に顔を擦り付ける格好だ。


 すると――

 聞こえていた鼓動が、一段と強く、速くなる。


(ああ、先輩が私にドキドキしてくれている)


 言いしれない嬉しさが、込み上げてくる。


 その時、菫の頭上から、ふーーーーっと長く吐く息が聞こえた。


「これ、駒野さんの手作りか?浴衣」

「え……?あ、うん。凜が、今日のためにとびきり可愛くしようって、二人分。凜だって受験生なのに……」

「うん。すげぇ似合ってる。可愛い」

「あ、ありがとう、ございます……!」

「小物類は全部菫だろ?前よりさらに、繊細で綺麗になってる」

「……っ!」


(作品!綺麗、なのは、作品!)


 そこで誠也はふと、良く熟れた果実のように染まる菫の耳にとまった、アメジストの輝きに、そっと手を伸ばす。


「これ、シールか?これも菫のレジンだよな」

「……っ、そう!そうなの!穴開けるのは、青葉じゃ無理だから、高校卒業するまで、我慢」

「そう、だな……。高校卒業までは、我慢しないとな」


 そう呟いて、離れていく誠也の指が、菫の耳たぶにかすかに触れる。


(ーーーーっ!!!!)


 菫の頭が色々と限界に達した、その時――


 ぐぅー……。


「……」

「……すまん」


 二人は同時に、ふっと噴き出す。

 そして、どちらからともなく、少しだけ離れる。


「何か、食べに行きましょうか」

「だな。駒野さんおすすめのコロッケでも買うか」


 自然と腕を組んで、二人は祭りを楽しむ浴衣の群れのなかに、溶け込んでいった。


 *****

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