第6話 『薫る花』
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「詩郎くん、今度はあっち!射的やろう!」
「ちょ……凜!待って、落ち着いてっ」
「ええ?むりぃー」
きゃははは、と子どものように声を上げてはしゃぐ凜に、詩郎は振り回されっぱなしだ。
「ね、あの猫のキーホルダー欲しい!取って取って!」
「……あれ、黒猫じゃないけどいいの?」
「いいの!あのチャトラ、出会ったばっかりの頃の野良猫みたいな詩郎くんに似てて可愛いから、欲しい!」
「なにそれどういうこと?俺はそれ言われてどういう反応すればいいの?」
「いいから、いいから。おじさん、この人が一回やりまーす」
「あいよぉ、三百円ね」
「ちょっ、だから凜!待ってって!マジか……」
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(落ち着け、俺……)
誠也はちらりと目を下にやる。
腕のなかには、最愛の彼女。
スミレの花と、それに寄り添うクマバチのチャームが揺れる簪で、結い上げられたさらさらの髪。
白く覗く項の破壊力に、誠也は色々と屈しそうになる。
なんとか目線を項から引き剥がし、そのまま下へとたどる。
白い地に、可憐なスミレの花が咲き乱れる清楚な浴衣。
いつも姿勢が綺麗な菫の華奢な背を、すっきりと包みこんでおり、はっきり言って誠也の好みどストライクだ。
紺色の布が花びらのように折り重なった帯は繊細で、その下からそっとのぞくやわらかなライン――
(いやいやいやいや、それは駄目だろう。止まれ、俺)
慌てて自分を落ち着けようと深呼吸をするが、かえって菫が纏う花のような香りをたっぷりと吸い込んでしまい、誠也は悶絶した。
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