第8話 『夜空に咲く大輪』
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どんっ
夜空に上がった花火が、重たい音を響かせて咲き誇る。
煌めく火の粉が、水面に映り込んで幻想的な情景を形作る。
河口に浮かぶ船から打ち上がる花火を、菫たちは浜辺の公園から眺めていた。
祭りの喧騒から離れたここは人もまばらで、なるほど凜の言う通り穴場のようだ。
「綺麗……」
「でっしょー!海と川と、両方に囲まれてるから、花火が反射して何倍も楽しめるの!お得だよね」
思わず溢れた菫のつぶやきに、にっしし、と歯を見せて笑う凜は、心の底から楽しそうだ。
帯に挿した根付には、菫が作った黒猫に、いつの間にかもう一匹、無愛想なチャトラが寄り添っている。
「誠也さん、お手拭きありますよ」
「お、すまん。助かる」
たこ焼きをつまんでいた誠也に、菫がそっとお手拭きを差し出す。
浴衣の魔法でか、いつの間にやら呼び名が変わっている二人をちらりと横目で眺めながら、凜はやはり満足げだ。
「リチウム……」
「いや、あの色はたぶんどちらかというとストロンチウムじゃないか?」
「ああ、なるほど。そうですね」
理系男子二人の情緒に欠けるやりとりも、女子二人にとっては微笑ましさしかない。
「ねぇ!」
突然、凜が花火にも負けない明るい声を上げる。
「今度はなに?」
詩郎が警戒も顕に聞き返す。
「来年も、こうして皆で集まりたいね!」
満開の笑顔が眩しくて、詩郎は目を眇めた。
「そのためには、無事に受験、受かんないとね」
詩郎は、照れを隠すように、指先でメガネのフレームに触れる。
「誠也さん、また今度、教えてくださいね」
寛いだ菫の表情も、花火に照らされて随分と甘い。
「あぁ、物理と数学と……あと、色々な」
どーーーーん
ひときわ大きな音ともに、夏の夜空に大輪の花が咲く。
最後の光が消えるまで、四人は夏の思い出をかみしめていた。
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浴衣の君 Fin.
デザート短編はいかがでしたでしょうか?
この物語はいったんここで完結致しますが、またそのうちに続きを書きたくなると思います。
その時は、どうぞまた覗いてみてください。




