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第4話 『りんご飴の誘惑』
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「七時頃に、橋の袂ね!くま先輩、菫をよろしく!」
「おう」
そう明るく告げて、賑やかに去っていく凜たちを見送る。
誠也は一つ息を吐いて、そのごつごつと骨張った大きな手を、菫に差し出した。
「行くか」
「……はい」
数カ月ぶりに会った二つ年下の彼女は、数瞬目線を迷わせてから、少し冷えた指先をそっと乗せてくれる。
誠也はそれを捕まえ、自分の熱を分け与えるように、ぐっと握り込む。
「久しぶり」
「はい。先輩は、その……お元気でしたか」
思った以上に緊張しているのか、菫は普段ビデオチャットで話すときよりも、一段と口調が固い。それは、出会ったばかりの、まだ中学生だった菫を思い出させる。
そんな様子すら可愛くて、誠也はつないだ手の親指で、彼女の手の甲をするりと撫ぜた。
途端、手のなかのぬくもりがびくりと跳ねる。
その反応に満足した誠也は、口元をふっと綻ばせて、見る間に赤く染まっていく菫の顔を見下ろした。
「元気だよ。受験生の菫サンは、毎日勉強三昧で、疲れてない?」
「だ、大丈夫です!今日のために、ちょっと詰め込んじゃっただけです」
りんご飴のようになりながらも、ふんす、と力強く答えた彼女の手を引いて、誠也はお祭りの人混みのなかに、ゆっくりと踏み出していった。
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