第17話 『羨望』
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「こちら、お納めください」
工芸部の佐々木が、真面目くさった顔でそう言って、白い緩衝材に包まれた二本の棒を差し出した。
「拝見します」
凜が調子を合わせて恭しく受け取ると、佐々木は途端にぱっと手を引っ込めて、照れくさそうに笑う。そして、凜が緩衝材を解く様子を、わくわくした目で見守る。
(……褒められ待ちの犬みたいだな)
そんな若干失礼なことをぼんやりと考えながら、詩郎も、佐々木の隣から一緒になって、凜の手元を覗き込む。向かい側では、菊田先輩と柏木先輩も、期待を隠しきれないきらきらとした目で見守っている。
今日は夏希先輩とみなみは、それぞれ委員会があると言って不在だ。四人が固唾を呑んで見守る中、凜は緩衝材を丁寧に剥がし、中のものを取り出す。
「おお、魔女の杖!野獣の剣も!すごいすごい!!ちゃんと菫が作ったアメジストが、嵌め込んである!」
凜が思わずはしゃいだ声を上げる。
「良いじゃないか。この中二感。たまらないね」
「キクタン、この素晴らしい作品にその言い方は、失礼じゃないかな?」
「とか言って、早く振ってみたくて仕方ないのはカッシーの方だろう?……私はこの杖だね。いや、本当に素晴らしい。これは、舞台の上で、とんでもなく映えるよ」
杖と剣、それぞれの持ち主たちも、満足げに頷きあっている。
そんな会話を聞きながら、詩郎は魔女の杖を手に取ってみる。
詩郎の前腕よりも少し短いその杖の先端には、ピンポン玉よりもひと回り大きい紫色の透明な球が、取り付けられていた。角度を変えると、青っぽくも赤っぽくも見える不思議な色合いで、中には細かな金粉も封入されている。窓から差し込む陽光を受けて、床に柔らかなグラデーションを映し出す様子が、なんとも美しい。
持ち手の部分も、古びた大樹の枝から作り出されたような、荘厳な雰囲気を纏いながらも、思ったよりも軽く、しっくりと手になじむ。
軽音部から譲り受けた使い古しのドラムスティックをベースに、加工と飾り付けを施したと聞いていたが、言われなければまったくわからない。
「すごい……高校生でも、こんなものが作れるんだ……」
思わずこぼれ出た詩郎の呟きに、佐々木がにかっと笑顔を向ける。
「高校生とか、中学生とか、関係ねぇよ。皆で考えて、皆で力を合わせれば、これくらいどうってことない」
明るく言う佐々木の言葉に、凜もうんうんと頷いている。
「ね、詩郎くん、見てみて。この杖はね、演劇部の小道具チームと一緒に、デザインを考えたんだよ。魔法の石を作ったのは、私の手芸部の親友。最後に形にしてくれたのは、工芸部の佐々木くんたち。すごいでしょ。こっちの剣の柄頭にも、同じ石が嵌め込んであるし、おそろいのモチーフで、姫のブローチも作る予定なんだ。ねぇ、本当に、すごいよね」
我がことのように自慢げな凜に、詩郎は言葉もなく大きく頷く。
(これが、駒野さんが言っていた本物の、『創る人』たち)
羨ましい。
何がとも、誰がともつかない、そんな思いが詩郎の中に湧き上がった、その時――
ガタン!
大きな音ともに扉が開き、一人の女子生徒が部屋に入ってきた。
「ちょっとあんたたち!どういうつもりなの?!」
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