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文化祭の君  作者: 獅堂最
side 駒野凜 『凜と花咲き、君思ふ』
41/51

第16話 『捕獲と救済』

 *****


「そういうわけだから、どうか君の力を貸してくれないか」


 両手をそろえて、直角に近いくらい深く頭を下げた先輩の頭を、詩郎は困惑顔で見下ろした。


 高校女子部二年の、菊田きくた麻美あさみと名乗ったその先輩は、図書委員であると同時に、演劇部の女子部長だと言う。そして、彼女は最初に宣言した通りの5分間を目一杯に使い、演劇部の窮状を詩郎に切々と訴えた。


 曰く、演劇部は毎年十一月の文化祭公演に、その活動の大部分を注力していること。

 曰く、昨年までは毎年、部員の一人が書いたオリジナル脚本を元に公演をしていたこと。

 曰く、今年はその生徒が引退してしまい、脚本を書ける者がいなくなってしまったこと。

 曰く、文芸部に脚本を書いてほしいと依頼したが、男女ともにすげなく断られてしまったこと。

 曰く、そんなときに図書館でひとり、物語を書いていた詩郎と出会えたのは、天恵に違いない、と。


(勝手なことを、言わないで欲しいんだけど……)


 詩郎が書いている文章など、技術の欠片もない、趣味の産物だ。ド素人が手慰みに書き散らかしてるものに、天の意思なんて働くはずがない。


 そもそも詩郎は根っからの理系で、自分でもお世辞にも文章がうまいとは思っていない。ただ、家庭環境的に家に帰っても居場所がないため、放課後に学校で時間を潰す手段として、物語を選んだに過ぎない。


「俺、脚本の書き方なんて、知らないです……」

「大丈夫!小説とは違って脚本はあくまでも素材だから、文章の巧拙こうせつは関係ないんだ。むしろ、私たち演者が好き勝手にアレンジしてしまうから、文芸部に嫌がられているという面もある」

「俺には、無理ですよ」

「そこをなんとか!私たちを助けると思って!サポートは惜しまないし、テーマなんかも好きにしてくれていい」


 詩郎がうんと言うまで、梃子でも頭を上げるつもりがないことがありありとわかる様子で、先輩は頭を下げ続けている。


 幼い頃から、家族を含めた周囲と距離があった詩郎には、こういうときにどうすれば良いのか、皆目見当もつかない。


「あの……図書館、閉まるんじゃないですか」

「その通りだよ。だから、早く良い返事をくれないだろうか」


 頭は低いのに、神経は図太いらしい。


「その、俺は、自信ないです……」

「それでも構わない。まずは試しに書いてみてほしい。それを皆で読んで、無理だと思ったらちゃんとそう言う。でも、さっき読ませてもらった君の物語の感じなら、きっとうまくいくと思う」

「あんなちょっと見でそんなことわかるわけ……」

「速読は私の数ある特技のひとつなんだ」


 そんなことを言われても、詩郎からすればほんの5分前に初めて出会った先輩が、自分の何をそんなに気に入ったのか、さっぱりわからない。


(それだけ、藁にも縋る思いってことかな……)


 先輩の勢いにほだされかけている、お人好しな自分に呆れながらも、結局詩郎はその強引な先輩の要求を、受け入れてしまったのだった。


 *****

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