第15話 『探索』
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――春。
私立青葉学園男子高等部に入学した詩郎は、放課後の広い校内を、一人彷徨い歩いていた。
(どこに行っても、人がいる)
青葉学園は、首都圏でも有数のマンモス校で、男女中高合わせると、五千人規模の生徒数を誇る。一人でゆっくりできるような、隠れ家スペースを探して校内を探索するのが、ここ最近の詩郎の日課だった。
小さな山をまるまるひとつ切り開いた、巨大な学園。
これだけ大きな学校なのだから、詩郎が求める憩いの場など、たくさん見つかると思っていた。
しかし、そう簡単な話でもないらしい。
体育館裏のベンチにも、食堂脇の中庭にも、非常口から続く外階段の裏側にも、だいたい誰かしら先客がいる。
(マンモス校、舐めてた……。まぁでも、まだまだ探してないところは、たくさんあるし)
人は多いが敷地も広い。そして詩郎はまだ入学したばかりだ。少しずつ探索エリアを広げていくのも、それはそれで楽しみだ。
今日の探索は切り上げて、詩郎は共用エリアにある大図書館に向かうことにした。
新年度が始まり、試験期間まで間がある今の時期は、図書館の中なら人はあまり多くない。
専任の司書が常駐するカウンターの前を通り、吹き抜けの階段を上がって、窓際の角席。
――そこが、ここ最近の詩郎の居場所だ。
よく磨かれて木目が鮮やかな木のテーブルにスクールバッグを置き、お気に入りの席に腰を落ち着けると、高校生にしては少し贅沢な気分になれる。
(ハリボテじゃないところが、さすが学費の高い私立だよね……)
こういうときは、お金をかけることがイコール愛情であると信じているような両親に、感謝をしてもいい気がしてくる。
そんなことを思いながら、スクールバッグからルーズリーフとペンケースを取り出す。
そして、一度ふーっと大きく息を吐くと、詩郎は自分だけの物語の世界に、ゆっくりと漕ぎ出した。
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「もうすぐ閉館だけど、大丈夫かい?」
突然そう声をかけられ、詩郎は飛び上がるくらいに驚いた。反射的に頭を上げた拍子に、ずっと丸めていた背中がバキバキと不満の声を上げる。しかし、心臓のほうが、その比ではないくらいの抗議を表明している。
口から飛び出そうな心臓を右手で押さえつけつつ、詩郎は後ろから声をかけてきた女子生徒を、勢いよく振り返った。
「だいぶ集中しているようだったから、驚かせてしまったならすまない。もうすぐ閉館の時間なんだ」
穏やかにそう告げた生徒は、恐らく当番の図書委員と思われる。
咄嗟に傍らの窓に目をやると、すでに夕方を過ぎて、黄昏時と言っても良い空の暗さだった。
「ごめんなさい、すぐに出ます」
詩郎は大慌てで立ち上がり、机の上のものをスクールバッグに突っ込むべく、かき集め始めた。
その時――
「待って」
突然、彼女に腕を取られた。
「え……」
事態を理解できない詩郎をよそに、彼女の視線が素早く机の上を駆け回る。
「君、時間ある?」
「へ……」
「5分でいい。私の話を聞いてほしい」
(今、もうすぐ閉館って言わなかったっけ?この人)
頭を疑問符でいっぱいにした詩郎は、否やを言う暇もなく、にこやかなのにやたらと圧が強いその生徒によって、強引に椅子に逆戻りさせられたのだった。
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