第14話 『作戦その三、甘噛み』
*****
「いいね、重ね着なのに動きやすい。それでいて、シルエットが確かに鎧みたいで、格好いい。これは、舞台映えするよ」
「うん。むしろボリュームが出て、目を惹くね。カッシー……おっと。野獣の肥大した自尊心が、よく表れてるじゃないか」
「キクタン、今のはわざとだろう?」
「はて?何のことだか?」
「肩口と首元は、スナップボタンで留めてありますから、意図せずに上モノが脱げる心配はないと思います。魔法が解けるシーンの直前に、舞台袖でボタンを外すのを忘れないでくださいね。黒子役の誰かに責任者を置くと良いかなと思いますけど、その辺は演劇部側の判断で」
主役のなかでも最初に出来上がった野獣の衣装をお披露目する凜は、自信に溢れた職人の顔をしている。
「そうだな……中学生メンバーの役回りとして、適切かもな」
「うん。黒子チームのリーダーと、相談しよう」
部長二人が頷きあっているのを、詩郎がぼんやり眺めていると、突然真横から声がかけられる。
「詩郎くん、どう?」
「ぅわ、びっくりした……どう、って?」
心臓が口から飛び出そうになるほど驚いた詩郎は、バクバクと暴れる胸を右手で押さえながら、なんとか聞き返した。
(ぜんっぜん、気が付かなかった……今気配、しなかったよね?)
いつの間にかするりと横に来ていた凜は、久しぶりに見るあのいたずらめいた笑みを浮かべている。
「もちろん、野獣の衣装だよ。詩郎くんのイメージ通りに、格好よくできたかな?」
意外とひょろっと背が高い詩郎に対して、小柄な凜は、真横に来ると頭ひとつ半小さい。そんな、近いようで遠い距離から見上げてくる彼女の目は、光の加減か、ほんの少し不安定に揺れている気がした。
「格好いいよ。格好いいし、よく出来てる。俺なんかじゃ思いつかないくらい、よく出来てるよ」
「もう。まぁたそれ?菫も時々言うけど、『自分なんか』って、言わなくていいよ。あの格好いい野獣を生み出したのは、詩郎くんなんだから」
心からの賛辞を贈ったつもりだった詩郎は、凜の苦情に驚いて首をすくめる。
「でも、駒野さんがいなけりゃ、野獣はただの傲慢王子のままだったよ」
「そう言ってもらえるのは、素直に嬉しいよ。私がちゃんとホントの詩郎くんを、見つけられたってことだもん」
「……?ホントの、野獣でしょ?」
「うん。だから、野獣は、詩郎くんでしょ?」
「……は?」
ぽかんと口を開けてフリーズした詩郎に、凜はにこりと眩い笑顔を向ける。そして、何も言えない詩郎を置いて、さっさと先輩たちの元へと戻っていった。
「…………は?」
一人残された詩郎は、『開いた口が塞がらない』状態を体現したまま、しばらく動くことができなかった。
*****




