第8話 『ライバル?』
*****
――若干お調子者ではあるが、特段陽キャでもなく、詩郎と同じように、女の子慣れしていない、ごく普通の理系男子。
凜に紹介された、工芸部の佐々木修の第一印象は、そんな感じだった。
(そして、なにやら俺に対抗心を抱いている……?)
男子だけで、ひと学年に800人近い人数がいる青葉学園高等部では、同じ学年でも知らない人のほうが圧倒的に多い。まして、詩郎は高校からの外部進学組であり、もともと交友関係もごくごく狭い。間違いなく、初対面だと言い切れる。
にもかかわらず、悪意でもなく、敵意でもないと思うが、なんとなく詩郎の警戒心を刺激するような雰囲気が伝わってくる。
「そういうことなら、ネオジム磁石で前を貼り合わせておいて、左右から引っ張ってカーテンみたいに開いて、中の衣装が見えるスタイルにすればどう?」
「良いと思う!前半シーンではボタン留めしておいて、直前のシーン切り替え時に、ボタンだけ外すようにすれば、間違って開いちゃうことも防げるよね」
佐々木の出した提案に、凜は嬉しそうに手を叩く。
「……逆に、開こうとしてもたつく心配はない?あと、磁石の重さで生地が歪むとか」
「確かに。詩郎くん、鋭い!」
「それは、何回か実験してみて適切な個数を割り出せばいいだろ。最小個数でやれば、重さもそんなに気になるほどじゃねぇし」
そっと意見を差し挟む詩郎と、軽やかに合いの手を打つ凜に対する口調が、明らかに異なる。そんな佐々木の様子に、詩郎はそこはかとない居心地の悪さを覚える。
「じゃあ、基本構造はやっぱりカーテン式かな。それならすぐにパターン引いて仮縫いしちゃうね。もともと前半の姫の衣装はさっぱりとしたフォルムにするつもりだったから、ちょっとコシが強い厚めの布を選べばいけるかな」
「上のスカートを引っ張る仕掛けは、背景パネルの裏に仕込む感じでいいかな。パネルのサイズ感教えてもらえれば、こっちもすぐに試作してみるよ」
「ほんと?助かる!ありがとー」
にこにこと無邪気に笑う凜。対する佐々木も楽しそうだ。なんとなく、疎外感を感じた詩郎は、そっと席を外そうとする。
「ちょっと詩郎くん、どこ行くの!まだ姫の上半身はこれからだし、野獣の衣装の質感も相談してない!あとあと、魔女の使い魔についても、相談に乗ってほしいんだから、逃げちゃダメだよ!……あ、トイレとかだったら、ごめんね?」
距離を取ろうとした詩郎を目ざとく見咎めて呼び止めたあとで、へにゃりと眉を八の字にして言う凜の、強気と気遣いのジェットコースターのように激しい高低差には、まだまだ慣れそうもない。
「……別に、逃げないよ。飲み物買ってくるだけだから」
「なら良かった!あ、ねぇ佐々木くん、私たちも休憩しよ。詩郎くん、私も一緒に自販機連れて行って?」
「あ、なら俺も……」
「いいよいいよ。佐々木くんは休んでて!今日は私のおごり。急に相談して来てもらったんだから、それくらい、させて?何がいい?お茶?コーヒー?コーラ?」
「え、じゃ、じゃあ、コーラで……」
「わかった、まかせて!詩郎くん、いこ」
にっこりと笑いかけてくる凜と、その凜によって立ち上がりかけた椅子に逆戻りさせられた佐々木の、眉間に寄った皺の温度差に、詩郎はやはり何とも言えない居心地の悪さを感じたのだった。
*****




