第7話 『理解不能モンスター』
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(……いない)
詩郎は上がった息を鎮めるために、顔を上げて大きく深呼吸をした。
ユリノキの木陰にも、体育館裏のベンチにも、自販機が並ぶ食堂にも。共用棟付近で、自分だったら行きそうな場所をすべて探しても、凜の姿は見当たらなかった。
そもそも、あの明るすぎる少女がこういうときにどこに行くかなんて、詩郎には難題過ぎて皆目見当もつかない。
いつもにこにこと明るい凜が、あんなにしょんぼりとした顔をすること自体が意外で、衝撃だったのだ。
たとえ彼女を見つけ出せたとしても、それを慰めるなんて、自分には到底できそうにない。
(…………戻るか)
できないことをしようとしたって、意味がない。元々理系脳の詩郎にとっては、こうやって探しに出たこと自体が、すでにイレギュラーだ。彼女と一緒にいると、何かと調子が狂う。そんな自分に自嘲しながら、詩郎は演劇部の部室に向けて、歩き出した。
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ガラリ
部室のドアを開けた途端、詩郎は眩しい太陽光に突き刺された。
「詩郎くん、おかえりなさい!さっきはごめん!」
凜は、戻ってきた詩郎を見て嬉しそうな笑顔を浮かべたあとで、いつかのようにがばりと勢いよく頭をさげる。
「言い訳になっちゃうけど、私、年の離れた兄姉にいつもあんな感じで接されてるから、ついつい距離感バグっちゃうことがあるの……でも、男の子にあれは、失礼だったよね。本当にごめんなさい」
詩郎は、凜のふわふわで柔らかそうな髪の毛に隠れた、つむじを見つめる。
(本当にこの人は、いつでも全力だ)
「……びっくりしたけど、別に不快ってほどではなかったし、いいよもう。でも、心臓には優しくないから、次は勘弁してほしい」
ぶっきらぼうに応えた詩郎に、凜は心底ほっとした顔で、頭を上げる。
「ありがとう。本当に、気をつける……それでね、お詫びと言ってはなんだけど、姫の衣装替えの仕掛け、ちょっと考えてみたんだ。聞いてくれる?」
(……全力なだけじゃなくて、異常に前向き……)
眩しいような、羨ましいような、そんな不思議な心地だ。でもなぜか、やっぱり不快ではない。
「いいよ。聞くよ」
しっかりと応えた詩郎に対して、凜はまたにっこりと明るい笑顔を見せてから、一歩横に体をひいた。
「こちら、男子工芸部の、佐々木修くんです!手芸部とは毎年、文化祭当日に共同でクラフトワークショップを運営してるの。今回の仕掛け、声をかけたら協力してくれることになりました!」
「工芸部の佐々木です!高一の男子8組です!よろしくー」
(……マジか。勘弁して……)
理解不能モンスター、再び。
思ってもみなかった展開に、詩郎はめまいを覚えながら、差し出された手を見つめて、しばし固まっていた。
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