第6話 『接触事故』
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「だからね、オーロラ姫がみなみのつやつやストレートを活かすとしたら、魔女は金髪ウェーブのウィッグだよね。色味も姫の補色メインで、要所に姫と野獣と共通モチーフ!どう?合ってる?」
「……ええと、いい、と、思う……」
ふんす、と鼻息も荒く畳み掛ける凜に、詩郎は相変わらずたじたじだ。
そんな二人のやりとりを、少し離れたところで書き物をしている夏希先輩が、ときどき顔を上げて微笑ましく見守っている。
さらに部屋の反対側では、役を持っている演劇部員たちが車座になって台本読みをしていた。
「魔女のイメージはこれでいい?じゃあ私、キクタン先輩に伝えてくるね!」
「なんで……」
椅子から立ちあがり、身を翻そうとした凜の耳が、詩郎の口からこぼれ出たかすかなつぶやきを拾い、急制動をかける。
「ん?何?気になるところある?何でも言って?」
押せ押せのプレゼンモードから、掌を返したように全力で聴く姿勢に切り替わる凜を、詩郎は長めの前髪の下から窺うように見つめた。
「駒野さんは、なんでそんなに、全力なの?」
「え?私の話?だってこの台本、本当に魅力的だもん。こんなの読んだら、こっちも全力でやらなきゃ、失礼でしょ」
なぜそんなことを聞かれるのかわからない。そうありありと言いたげな顔で、凜はあっけらかんと答える。
(やっぱり本当に、どこまでも、理解不能……)
けれどその全力の肯定も、悪い気はしない。そう思い始めている自分に、詩郎は戸惑う。
「姫も野獣も魔女もさ、本当に奥が深くて、かわいいよね。これを舞台で上演したら、観客みんなが、好きになっちゃうよ」
「……そんなわけない」
「どうして?」
「だって姫は、根暗で自己評価低くて鬱陶しいし。野獣なんて自分のことしか考えてなくて、内心では他人を見下してるんだよ。意地悪な魔女はそんな二人に苛々して、呪いまでかける。こんなのどこが魅力的なのか、さっぱりわかんないんだけど」
どこか苦しそうに、詩郎は吐き捨てた。
彼の気まずそうに逸らされた視線が、まるで叱られている子どものようだと、凜は感じた。
その瞬間、凜は胸が詰まるような気持ちになり、思わず詩郎の顔を両手ですくい上げた。
「ねぇ、詩郎くん。私は、そんな人間くさい三人が、大好きだよ?姫は謙虚で奥ゆかしいし、最後には自分で自分を認める強さがある。野獣だって、ちょっと臆病で強がってるけど、本当はすごく優しいし勇気がある。二人がお互いをかばい合って竜と戦う場面なんて、最高に格好いいよ!魔女だって、意地悪なんかじゃなくて、不器用で寂しがりなだけでしょ。二人に試練を与えて、それぞれの良さを引き出してるんだよ。めちゃめちゃお人好しじゃん!」
真剣な顔の凜に間近で見つめられ、詩郎は凜の手を振り払うことも忘れて、呆然とする。そして、一拍遅れて状況に気が付き、椅子ごとガタンと遠ざかる。
「……あ、ごめんなさい、突然触って。嫌だったよね……ごめん、もうしない。ように、気をつける」
真っ赤になった顔を右手で覆って、はくはくと声にならない言葉を探す詩郎の様子に、凜はしょんぼりと反省した。
「私、ちょっと頭を冷やしてくるね……」
いつかの逆のように、凜はとぼとぼと部屋を出ていった。
「あ……」
それを、追いかけた詩郎のつぶやきは、今度は凜の耳には届かなかった。
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