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文化祭の君  作者: 獅童最
side 駒野凜 『凜と花咲き、君思ふ』
31/37

第6話 『接触事故』

 *****


「だからね、オーロラ姫がみなみのつやつやストレートを活かすとしたら、魔女は金髪ウェーブのウィッグだよね。色味も姫の補色メインで、要所に姫と野獣と共通モチーフ!どう?合ってる?」

「……ええと、いい、と、思う……」


 ふんす、と鼻息も荒く畳み掛ける凜に、詩郎は相変わらずたじたじだ。

 そんな二人のやりとりを、少し離れたところで書き物をしている夏希先輩が、ときどき顔を上げて微笑ましく見守っている。

 さらに部屋の反対側では、役を持っている演劇部員たちが車座になって台本ほん読みをしていた。


「魔女のイメージはこれでいい?じゃあ私、キクタン先輩に伝えてくるね!」


「なんで……」


 椅子から立ちあがり、身を翻そうとした凜の耳が、詩郎の口からこぼれ出たかすかなつぶやきを拾い、急制動をかける。


「ん?何?気になるところある?何でも言って?」


 押せ押せのプレゼンモードから、掌を返したように全力で聴く姿勢に切り替わる凜を、詩郎は長めの前髪の下から窺うように見つめた。


「駒野さんは、なんでそんなに、全力なの?」

「え?私の話?だってこの台本、本当に魅力的だもん。こんなの読んだら、こっちも全力でやらなきゃ、失礼でしょ」


 なぜそんなことを聞かれるのかわからない。そうありありと言いたげな顔で、凜はあっけらかんと答える。


(やっぱり本当に、どこまでも、理解不能……)


 けれどその全力の肯定も、悪い気はしない。そう思い始めている自分に、詩郎は戸惑う。


「姫も野獣も魔女もさ、本当に奥が深くて、かわいいよね。これを舞台で上演したら、観客みんなが、好きになっちゃうよ」

「……そんなわけない」

「どうして?」

「だって姫は、根暗で自己評価低くて鬱陶しいし。野獣なんて自分のことしか考えてなくて、内心では他人を見下してるんだよ。意地悪な魔女はそんな二人に苛々して、呪いまでかける。こんなのどこが魅力的なのか、さっぱりわかんないんだけど」


 どこか苦しそうに、詩郎は吐き捨てた。

 彼の気まずそうに逸らされた視線が、まるで叱られている子どものようだと、凜は感じた。


 その瞬間、凜は胸が詰まるような気持ちになり、思わず詩郎の顔を両手ですくい上げた。


「ねぇ、詩郎くん。私は、そんな人間くさい三人が、大好きだよ?姫は謙虚で奥ゆかしいし、最後には自分で自分を認める強さがある。野獣だって、ちょっと臆病で強がってるけど、本当はすごく優しいし勇気がある。二人がお互いをかばい合って竜と戦う場面なんて、最高に格好いいよ!魔女だって、意地悪なんかじゃなくて、不器用で寂しがりなだけでしょ。二人に試練を与えて、それぞれの良さを引き出してるんだよ。めちゃめちゃお人好しじゃん!」


 真剣な顔の凜に間近で見つめられ、詩郎は凜の手を振り払うことも忘れて、呆然とする。そして、一拍遅れて状況に気が付き、椅子ごとガタンと遠ざかる。


「……あ、ごめんなさい、突然触って。嫌だったよね……ごめん、もうしない。ように、気をつける」


 真っ赤になった顔を右手で覆って、はくはくと声にならない言葉を探す詩郎の様子に、凜はしょんぼりと反省した。


「私、ちょっと頭を冷やしてくるね……」


 いつかの逆のように、凜はとぼとぼと部屋を出ていった。


「あ……」


 それを、追いかけた詩郎のつぶやきは、今度は凜の耳には届かなかった。


 *****

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