第5話 『真夜中の女子会』
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「でねでね、姫と野獣はだいたいイメージが固まったんだけど……やっぱり魔女の立ち位置がね、まだ迷ってるのよ」
「その、詩郎くん?は、なんて言ってるの?」
「魔女はただの舞台装置だから、深く考えなくていいなんて言って、教えてくれないのー」
むー、と凜は拗ねたように唸る。
通話中のスマホ画面の向こうで苦笑しているのは、同じ手芸部に所属する親友の、佐藤菫だ。
「なるほどねー。でも凜は、納得できないんだね」
「そうなの!だって絶対、ちゃんと深い意味があるよ。そんなにおいがする!私、絶対に読み解きたい!」
闘志を燃やす凜に、菫は思案顔を浮かべる。
「姫は自己否定型で、野獣は自己中心的……で、その魔女は、この二人に呪いをかけたんだよね?」
「そう!」
「うーん……なんで、呪いなんてかけたんだろう?」
「そこなんだよねぇ……なんとなくだけど、魔女は何かに怒ってる、みたいな感じがするんだよね」
「怒ってる」
考え考え喋る凜の言葉を、菫はゆったりと繰り返した。その言葉に導かれるように、凜は脚本に描かれた魔女の姿を思い返す。
「そう。呪いたくなるくらい、怒ってる」
「普通に考えたら、呪いをかけた二人に対して、ってなるよね」
「でしょう?でも、二人の何がそんなに気に入らないのか、わかんないの。だって姫も野獣も、こんなに魅力的なのに!私、何かを間違えてるのかなぁ……」
うーん、と頭を抱える凜の顔を見ながら、菫はポツリとつぶやいた。
「魅力的だから、かも」
「……え?」
「つまり、コンプレックスってこと。魔女は自分にない魅力を持ってる二人が羨ましくて、でも二人がそれを正しく評価してないことに、怒ってる……とか」
言葉を選ぶように言った菫の顔を、凜はぽかんと見返す。次いでスマホの画面にかぶりつくようにして、叫んだ。
「それだ!えー、そうか、そんな見方があったか!それだよ菫!天才!」
「ふふ、おおげさだよ。凜はいつも、私が『自分なんて』って言うと、怒ってくれるでしょう?だから、魔女もそうなのかなって思っただけだよ」
「わかった!今わかった!完璧に理解した!魔女は、そんな気持ちかぁ。えー、魔女かわいい。そして、ちょっとだけ親近感」
目からウロコが落ちたような顔で頷いている凜に、菫は淡い微笑みを浮かべた。そこに、凜が畳み掛ける。
「でも私、魔女とは違って菫を呪ったりなんてしないからね!菫が千年も眠ったら、さみしくて私も寝る!」
「ふふふ。私も、凜に会いたくて、すぐに目が覚めちゃう気がする」
「菫の場合は、私だけじゃないでしょ」
「んー、まぁ、そうかな……」
曖昧に笑う親友に、凜はそれ以上踏み込むのをやめる。かわりに、明るい笑顔で話題を変えた。
「そう言えば、小物班は、どう?今年は念願の後輩が入ったから、二人でチャームを量産してるんでしょ?」
「うん。楽しいよ。香菜実ちゃんが毎日本当に楽しそうだから、私も嬉しくって」
文化祭に向けて、演劇部用の衣装作りに全力を捧げる布もの班に対し、菫たち小物班はレジンアートに取り組んでいる。入部したてで初心者の後輩に、丁寧に技術を教えながら、菫自身もレイヤーアートという新しい技法に挑んでいる様子を、連日被服室で見かけている。
「ふふふ。後輩が楽しそうで嬉しくなるの、わかるなぁ。布もの班も、中学生たちに針の扱いを一から仕込むの、ホント楽しい」
画面越しにくすくすと微笑みをかわす二人の手元には、菫が作ったレジンのスマホリングが煌めいている。菫はその名の通りの紫色の可憐な花モチーフで、凜は黄色い大きな目が可愛らしい黒猫だ。
「さて、それじゃあ、そろそろ寝ますか」
凜が小さくあくびを漏らしたのを見逃さず、菫がそう提案する。
「だね。明日は詩郎くんに、魔女の解釈を聞いてもらう!菫、ありがとう」
「全然だよ。頑張ってね」
「うん!おやすみ!」
「おやすみなさい。また明日ね」
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