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文化祭の君  作者: 獅童最
side 駒野凜 『凜と花咲き、君思ふ』
29/35

第4話 『未知との遭遇』

 *****


「……どうして」

「え?なんとなく。河原崎くんならここかなって」


 あっけらかんと言う凜を、詩郎は信じられないものを見るような顔で見つめた。


「そうじゃなくて……ていうか、なんで来たの」


 毛を逆立てた猫のような詩郎の様子に、凜はしょんぼりと目を伏せた。


「ごめんね、私あの脚本が好きすぎて、暴走しちゃったみたい。作者の意思が第一なのに、勝手なこと言い過ぎちゃった。謝りたくって……ごめんなさい」


 言いながら、ガバリと頭を下げる凜に、詩郎は言葉を失う。


「え……」


 呆気にとられる詩郎の様子を、強い視線でまっすぐに見返してから、凜はにこりと微笑んだ。


「衣装デザイン、白紙に戻していいよ。今度はちゃんと聞くから、河原崎くんの考えてること、教えて?」

「……白紙?」

「うん。作者の想いは、尊重するよ。ちゃんと考えるから、話し、させて?」


 ――理解不能。


 あんなにびっしりと書き込んだデザイン案を、白紙に戻すのだと言う。あの場にいた先輩たち皆が、高く評価していた案を、あっさりと手放せる。何より、何も言わずに逃げ出した自分を、わざわざ追いかけてきて、ただ謝罪をする。

 本当に、この駒野凜という存在は、何から何まで、詩郎の理解の範疇を超えている。


 詩郎は、拳をぐっと握りしめた。


「いいよ」

「許してくれる?ありがとう!」

「そうじゃなくて。や、そうじゃなくないけど……許すも許さないも、ない。あの案で良い。皆が納得してるなら、あの案で構わない。白紙に戻さなくて、いい」


 どこか決意を込めた詩郎の様子に、凜は瞬きをひとつ挟んでから、ふわりと花開くように笑った。


「わかった。でも、その『皆』の中に河原崎くんも入らなきゃダメだから……あれをベースに、もう少し細かいところ、詰めよう。河原崎くんの意見、ちゃんと聞くから、たくさん言ってね」

「……。本当に、あんなのを実現できるの?」

「任せて!作者の想いを、できる限りカタチにするのが、私たちの役割だよ!だから一緒に、がんばろうね!」


 あくまでも明るい凜の様子に、詩郎は毒気を抜かれた心持ちで、ふーっと大きく息を吐いた。


「……わかった」


 詩郎の返答ににっこりと笑みを深めてから、凜がぴっと人差し指を立てる。


「あ、そうだ!私からもう一個、お願いしていい?」

「……なに?」

「なまえ!河原崎くんって、苗字も素敵だけど、ちょっと長いから、詩郎くんって呼んでいい?」

「……は?」

「だって河原崎くん、先輩たちにザッキーって呼ばれるの、ほんとはちょっと好きじゃないでしょ?」

「なんで……」

「違った?ザッキーのほうがいい?」


 小首をかしげる凜の瞳は、相変わらず明るく透き通っている。


「…………好きにすれば」

「やたっ!ありがとう!これからよろしくね、詩郎くん」


 絞り出すように応えた詩郎に、凜は喜色満面で返した。


 その顔に、菊田先輩が言うところの『浄化』の意味がわかった気がして、詩郎は眩しげに目を細めた。


 *****

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