表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
文化祭の君  作者: 獅童最
side 駒野凜 『凜と花咲き、君思ふ』
28/35

第3話 『木陰の避難所』

 *****


「……逃げられた」


 ぽかんとした顔でつぶやいた後で、凜は慌てて他のメンバーを振り返る。


「私、なんかまずいこと言いました?!」


 顔中に『不可解』と書いてある凜の様子に、菊田先輩がくつくつと笑う。


「いや、驚いたな。ザッキーがあんな大きな声を出すのは、初めて聞いた」

「何かが、刺さったんでしょうねぇ……でも、なんとなく、悪い感じではないような気がするわ」


 頬に手を当てながらほうっと息を吐いて、夏希先輩が続く。


「でも、監督がいなくなっちゃいましたけど、どうします?」


 ほっそりとした指を唇に当てて、みなみが小首をかしげる。


「まぁ、しばらくそっとしておいてあげよう。先に、メイン三人の採寸をやってしまえばいいんじゃないかい?衣装がどうなるにしろ、必要だしね」

「そうね。そうしましょう」


 相変わらずの爽やかな笑みを浮かべながら、柏木先輩が告げるのに合わせ、夏希先輩が持参した巻き尺を取り出す。

 凜は、ファイルに挟んだ採寸表とシャープペンを用意しながら、眉根を寄せて考え込んでいた。


 *****


「かんっぜんに失敗した……」


 共用棟の裏にある小さな内庭で、詩郎は頭を抱えてしゃがみ込んでいた。

 そこにポツリと一本だけ立つユリノキが、まだ残暑厳しい九月の太陽から詩郎を守るように、影を落としている。


 ――皆が知っている物語を組み合わせた、舞台映えするドタバタラブコメ。


 詩郎が書いた脚本の演劇部内での評価は、そんなシンプルなものだった。姫がちょっと根暗なのも、野獣の傲慢さも、キャラを彩るためのスパイスでしかない。そのはずだ。


(なのに、まさか、あんな深い解釈をいきなりしてくるなんて、思わないじゃないか)


 しかも、彼女が語る解釈には、聞かされてみれば皆が納得するような説得力があり、何ひとつ違和感がない。

 ――それは、詩郎自身を含めて。それが、かえって衝撃だった。


「どうしよう……」


 さらに、彼女は詩郎の脚本を好きだと言い切った。奥深くて面白いと。あんな解釈をしているのに、なぜ。

 詩郎にとって、駒野凜という存在は理解不能だ。思わず逃げ出してしまったほどに。


 戻り方がわからない。戻って何を言えば良いのかがわからない。あんな目をしていた彼女に、何と返せば良いのか。


 ぐるぐると考え続ける詩郎が、どれくらいそうしていただろうか。

 ふいに、かさりと草を踏む音とともに、あの、暴力的なまでに明るい声が、静かな内庭にそっと響いた。


「みつけた」


 詩郎は、弾かれたように立ち上がり、警戒する猫のように身を引いて、やってきた凜を見つめ返した。


 *****

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ