第1話 『姫と野獣と裏方と』
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私立青葉学園。
全国でも珍しい、男女並学制を採用する中高一貫のマンモス校だ。
男子部と女子部は市道を挟んで向かい合っており、中空二階に架かった橋でのみ繋がっている。
しかし、この橋は必要時以外での行き来は禁じられている。
さらに、勉学の妨げになるとして公式には男女の恋愛も禁止。
すなわち、日頃から男女の交流が一切ない特殊な学校である。
例外があるとすれば、その性質から、日常的に男女共同で活動する唯一の部活。
――演劇部である。
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九月三日、水曜日の放課後。
駒野凜は、男子部と女子部、それぞれの校舎を繋ぐ橋――通称、鵲橋を渡って、共用エリアにある演劇部の部室に来ていた。
床のあちこちにテープで目印がされている稽古場には、今はパイプ椅子が並べられ、6名の生徒たちが輪になって座っている。
「それじゃ、順に自己紹介をしよう。俺は男子部長の柏木拓人。高校二年。今回の主演の一人、野獣役を務める。よろしく」
胡散臭いほど爽やかな笑顔と、芝居がかった口調でそう切り出したのは、背が高く端正な男子生徒だ。
(今年の部長兼主役はナルシスト柏木か……まぁ、順当だよね)
続いて口を開いたのは彼の左隣、艶のある長い髪が印象的な正統派美人。
「同じく、オーロラ姫役を務めます。高校一年の守口みなみです」
(みなみ姫ってば相っ変わらずのつやつやストレートー。ちょっと羨ましいな……)
凜は無意識に、自身の天然パーマがかかったふわふわの髪の毛を、一房くるりと指に絡めた。
「手芸部部長の川端夏希、高二です。今回は主に事務方を担当します」
凜の右隣の夏希先輩がそう告げた途端、凜の真正面の柏木先輩が、丁寧に整えたその眉を跳ね上げる。
「今年の衣装製作のリーダーは、川端さんじゃないの?」
「ふふふ。そうよー。今年の布もの班リーダーは、うちのエースに任せたの。大船に乗ったつもりでいてね」
茶目っ気溢れるウィンクで渡されたバトンをしかと受け取り、凜は渾身の笑みを浮かべた。
「高校一年の駒野凜です。今年は布もの班リーダーの大役を仰せつかりました。期待に応えられるように頑張ります」
「なるほど。駒野さんか。今年もよろしく」
白い歯を見せて笑う柏木先輩に、微笑みと会釈を返しながら、凜は自身の左隣に座る、ひょろりと背が高い眼鏡の男子生徒を、ちらりと見る。
(初めて見る顔だな……高校からの外部進学かな?もしかして、彼が?)
「……演出と舞台監督を務めます。河原崎詩郎です」
演劇部には珍しく、俯きがちにぼそぼそと喋る男子生徒に、凜はその小柄な体ごとガバリと向き直った。
「はじめまして!高一?外進生?」
「え……そうだけど」
前のめりで尋ねる凜に、彼は軽く身を引きながら、浅く頷く。
「この脚本!あなたが書いたの?」
「そうだったら、なに……?」
「すごく、面白かった!私、この脚本好き!姫も野獣もすごく奥深い!衣装、良いもの作るから、一緒に頑張ろうね!」
「ど、どうも……」
目を輝かせながら畳み掛ける凜の勢いに、詩郎は完全に気圧されている。そこに、二人の様子を観察していた最後の一人が、くつくつと喉奥で笑いながら口を開く。
「コマリン、それくらいにしてやってくれ。君の陽のオーラでザッキーが浄化されてしまう」
「菊田先輩」
「手芸部の二人は、去年ぶりだね。今年の演劇部女子部長であり、魔女役も務める二年の菊田麻美だ。去年も言ったが、気軽にキクタンと呼んで欲しい。よろしく頼む」
独特の口調でそう言って笑う菊田先輩に、詩郎を除く一同は苦笑を浮かべた。そして、柏木先輩がパンパンと両手を叩き、皆の注目を集める。
「それじゃあ、自己紹介も済んだところで、さっそく衣装についての意見出しをしようか」
柏木先輩の言葉に、凜が待っていましたとばかりに、持参したスケッチブックを開く。
そこに描かれていたのは、見開きで並ぶ姫と野獣。その周りには、凜の丸っこい字で、びっしりとメモが書き込まれている。
「はい!私、デザインラフ考えてきました!
――コンセプトは、自己否定姫と自己中野獣の狂騒曲です!」
その言葉に、居並ぶメンバーは、それぞれ興味深そうに凜を見やる。けれど、凜の隣に座る詩郎だけは、はっきりと顔を顰めたのだった。
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