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文化祭の君  作者: 獅童最
side 駒野凜 『凜と花咲き、君思ふ』
26/34

第1話 『姫と野獣と裏方と』

 *****


 私立青葉学園。


 全国でも珍しい、男女並学制を採用する中高一貫のマンモス校だ。


 男子部と女子部は市道を挟んで向かい合っており、中空二階に架かった橋でのみ繋がっている。

 しかし、この橋は必要時以外での行き来は禁じられている。

 さらに、勉学の妨げになるとして公式には男女の恋愛も禁止。

 すなわち、日頃から男女の交流が一切ない特殊な学校である。


 例外があるとすれば、その性質から、日常的に男女共同で活動する唯一の部活。


 ――演劇部である。


 *****


 九月三日、水曜日の放課後。


 駒野こまのりんは、男子部と女子部、それぞれの校舎を繋ぐ橋――通称、鵲橋かささぎばしを渡って、共用エリアにある演劇部の部室に来ていた。

 床のあちこちにテープで目印がされている稽古場には、今はパイプ椅子が並べられ、6名の生徒たちが輪になって座っている。


「それじゃ、順に自己紹介をしよう。俺は男子部長の柏木かしわぎ拓人たくと。高校二年。今回の主演の一人、野獣役を務める。よろしく」


 胡散臭いほど爽やかな笑顔と、芝居がかった口調でそう切り出したのは、背が高く端正な男子生徒だ。


(今年の部長兼主役はナルシスト柏木か……まぁ、順当だよね)


 続いて口を開いたのは彼の左隣、艶のある長い髪が印象的な正統派美人。


「同じく、オーロラ姫役を務めます。高校一年の守口もりぐちみなみです」


(みなみ姫ってば相っ変わらずのつやつやストレートー。ちょっと羨ましいな……)


 凜は無意識に、自身の天然パーマがかかったふわふわの髪の毛を、一房くるりと指に絡めた。


「手芸部部長の川端かわばた夏希なつき、高二です。今回は主に事務方を担当します」


 凜の右隣の夏希先輩がそう告げた途端、凜の真正面の柏木先輩が、丁寧に整えたその眉を跳ね上げる。


「今年の衣装製作のリーダーは、川端さんじゃないの?」

「ふふふ。そうよー。今年の布もの班リーダーは、うちのエースに任せたの。大船に乗ったつもりでいてね」


 茶目っ気(あふ)れるウィンクで渡されたバトンをしかと受け取り、凜は渾身の笑みを浮かべた。


「高校一年の駒野凜です。今年は布もの班リーダーの大役を仰せつかりました。期待に応えられるように頑張ります」

「なるほど。駒野さんか。今年もよろしく」


 白い歯を見せて笑う柏木先輩に、微笑みと会釈を返しながら、凜は自身の左隣に座る、ひょろりと背が高い眼鏡の男子生徒を、ちらりと見る。


(初めて見る顔だな……高校からの外部進学かな?もしかして、彼が?)


「……演出と舞台監督を務めます。河原崎かわらざき詩郎しろうです」


 演劇部には珍しく、俯きがちにぼそぼそと喋る男子生徒に、凜はその小柄な体ごとガバリと向き直った。


「はじめまして!高一?外進生?」

「え……そうだけど」


 前のめりで尋ねる凜に、彼は軽く身を引きながら、浅く頷く。


「この脚本!あなたが書いたの?」

「そうだったら、なに……?」

「すごく、面白かった!私、この脚本好き!姫も野獣もすごく奥深い!衣装、良いもの作るから、一緒に頑張ろうね!」

「ど、どうも……」


 目を輝かせながら畳み掛ける凜の勢いに、詩郎は完全に気圧されている。そこに、二人の様子を観察していた最後の一人が、くつくつと喉奥で笑いながら口を開く。


「コマリン、それくらいにしてやってくれ。君の陽のオーラでザッキーが浄化されてしまう」

「菊田先輩」

「手芸部の二人は、去年ぶりだね。今年の演劇部女子部長であり、魔女役も務める二年の菊田きくた麻美あさみだ。去年も言ったが、気軽にキクタンと呼んで欲しい。よろしく頼む」


 独特の口調でそう言って笑う菊田先輩に、詩郎を除く一同は苦笑を浮かべた。そして、柏木先輩がパンパンと両手を叩き、皆の注目を集める。


「それじゃあ、自己紹介も済んだところで、さっそく衣装についての意見出しをしようか」


 柏木先輩の言葉に、凜が待っていましたとばかりに、持参したスケッチブックを開く。

 そこに描かれていたのは、見開きで並ぶ姫と野獣。その周りには、凜の丸っこい字で、びっしりとメモが書き込まれている。


「はい!私、デザインラフ考えてきました!

 ――コンセプトは、自己否定姫と自己中野獣の狂騒曲です!」


 その言葉に、居並ぶメンバーは、それぞれ興味深そうに凜を見やる。けれど、凜の隣に座る詩郎だけは、はっきりと顔を顰めたのだった。


 *****

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