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第20話 高一 十一月 『かける』
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菫は、走っていた。
教師が見たら、きっと目を剥くに違いない勢いで。
階段を駆け上がり、喧騒をすり抜けて。
すれ違った同級生が、驚いて振り向くのにも気付かない。気にしない。
そうしてたどり着いた、鵲橋のたもと。
すー……。ふう。
一瞬だけ立ち止まり、大きく息を吸い込んで、吐き出す。
そしてまた、迷いなく駆け出した。
足音が、やけに響く。
気持ちが急く。
鼓動が、耳の奥で騒がしい。
十一月だというのに、鵲橋にはじっとりとした熱気が籠もっている。空気が、菫の身体にまとわりついてくるように感じる。
でも、そんなの、関係ない。
――そう思った瞬間。
狭まっていた菫の視界のなかで、急に一箇所だけが、鮮やかな色彩を帯びたように浮かび上がった。
だって、目が、心が、勝手にみつけてしまったのだから。
「せんぱい!」
今度こそ、菫の声は届いて、蜂須賀先輩が真っ直ぐに菫を見た。
そして、はっきりと、破顔したのだ。
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次回、菫編最終話『灯す』です。
すれ違い、ねじれ、俯いて――けれど反転し、かけた菫の想いが、どのようなかたちになるのか、ぜひ見届けてください。




