国王奪還大作戦4
――鬱陶しい、ベアトリーチェ。
――聖枢機院にいる限り、魔王の申し出を受けられない。
そう悟った聖女は、大胆なことを考える。
王都からの脱出。
聖女の立場を捨て、逃げる。
逃げた先で、魔王と結託する。
それしか国王と結ばれる方法はない。
脱出を決意した聖女は、すぐに聖枢機院を抜け出した。
それに真っ先に気付いたのも、ベアトリーチェであった。
ベアトリーチェは聖女を追いかけ、引き留めようとする。
だが聖女は聞かない。
結局、ふたりは一緒に国土のあちこちをさまようことになった。
そしてついに、魔王が聖女の元へやってくる。
聖女は喜んでその身を差し出した。
それを、命がけで制止するベアトリーチェ。
だが、ただの巫女が魔王やその側近にかなうわけがない。
ベアトリーチェは致命傷を負いながら、聖女が魔王に取り込まれていくのを見届けた。
聖女はもう、救えない。
そんな絶望の中、ベアトリーチェはピィと合成されてしまった。
*
「聖女様と魔王は、利害が一致していたのです。国王陛下と愛し合う。そのために二人は協力関係になりました」
「……チッ。胸糞わりぃ」
魔王も聖女も自分勝手すぎるだろ。
愛し合う?
どこがだよ。
一方的な愛の押し付けじゃねえか。
「おい、ベアトリーチェ。俺は聖女を救う気はねえからな。魔王もろとも、聖女もぶっ殺す」
救ってやる義理なんかねえ。
聖女。自業自得だ。
ベアトリーチェは不意に顔を上げたが、またうつむき、小さな声で「やむを得ない、と、思います」と絞り出した。
ベアトリーチェの顔が青ざめている。聖女のせいか、怪我のせいなのか。
「そういやオマエ、怪我は大丈夫なのか?」
聖女の姿をした魔王に攻撃され、ベアトリーチェは腹に穴が開くほどのダメージを受けた。
治したのは俺だ。
秘宝の力を使い、皮膚を修復するイメージでエネルギーを注ぎ込んだ。
だが、あれで良かったのだろうか。
俺は医者ではないし、医療の知識もない。治せている保証はない。俺だって不安にもなる。
「大丈夫……だと思います。痛みはありません」
ベアトリーチェが胸から腹にかけてゆっくり撫で、やつれた顔ではにかむ。
「ありがとうございます、レノさん。まさか、助かるとは思いませんでした。傷も消えるなんて。どのように治してくださったのですか」
「ベアトリーチェ、これが視えるか?」
俺は人差し指を立てて見せた。
「指……ですか?」
俺は首を横に振る。
「そうじゃない。指の周り、何か視えないか?」
ベアトリーチェは目を凝らして、首をひねった。
俺はフッと鼻で笑う。
「実は今、俺の指先にはエネルギーのモヤが渦巻いてる。真っ赤なモヤだ。生命力とか、エネルギーとか、そういった類だと考えてくれ。これを別のところから持ってきて、この力でオマエの肉体を再生した」
「モヤ……」
ベアトリーチェが不思議そうに俺の手を覗き込む。
「俺だけじゃねえぞ。アンタの身体だってモヤに覆われてるし、秘宝にも濃いモヤがかかってる。生きている限り、力を持っている限り、みんなモヤを持っている」
「まるで魔王の姿……みたいですね」
ベアトリーチェが昔を思い出すように言った。
黒いモヤの魔王。
モヤこそが魔王の正体であり、黒いモヤが集まったことこそ、魔王が生まれた原因である。
モヤの集合体――。
「――そうか。それを逆手に取れば!」
俺はピィの居る家を飛び出した。「レノさん?!」と呼ぶ声を振り切る。
建物の前で、その巨体のせいで中に入れなかったメロへ話しかけた。
「おい、メロ! オマエ、エネルギーのモヤを操れるか?」
『なんじゃ、急に。……まあ、少しなら操れるが、アレキサンドリア殿には及ばぬだろう』
「チッ。やっぱアレキサンドリアか。まあ良い。メロ、テメエも協力しろ。エネルギーを操れば、魔王を弱らせられるかもしれない」
『何? どういうことだ』
魔王はエネルギーの集合体だ。
今でこそ聖女の肉体を持っているが、本来はモヤの塊。
多くの魔物の負の感情エネルギーが集まりすぎて、自我を持った。
じゃあ、魔王をぶっ殺すにはどうするか。
エネルギーを分散させて、自我を保てなくなるまで散らしてしまえば良い。
ピィを治療したとき、秘宝に宿るエネルギーをピィに与えることができた。
ということは、逆に魔王を構成するエネルギーを奪って、他の場所へ移動させることもできるんじゃないか?
――そんな俺の仮説を、メロが頷きながら聞いている。
『なるほど。一理ある。が、そう上手くいくかな? 相手は魔王様ぞ。じっとしている秘宝とは違う。エネルギーを奪うなんて、できるわけなかろう』
「そりゃあ簡単じゃねえだろうけど、できねえことでもねえだろ」
『それに、だ。奪ったエネルギーはどうするつもりだ? 放置するわけにもいくまい。結局また魔王様の元に集まって、魔王様の一部になるのがオチだ』
もっともな意見に、俺はフンと鼻を鳴らして腕を組んだ。
たしかにそうだ。
負の感情。黒いエネルギー。
それを、消す。
どうやって?
「……ああ、全員に負担してもらえばいいのか」
『何?』
「フン。処理はどうとでもなる。とりあえずモヤを分解して奪い取ることが大事だ。いくぞ、メロ」
『行くって、どこへ』
「魔王んとこだよ」




