36話_5歳児と領主反乱
■リーブル宮殿 皇帝執務室
「陛下。昨日遅くにラインハルトより報告があり、例の帝国密偵との書状受け渡し場所に男が現れたとのことでした。そのまま、泳がせておりますので、素性が判明次第改めて報告するとのことです。」
「うむ。わかった。」
密偵どもの動きが掴めれば・・・
帝国にどこまで情報が伝わっっているかだな。
まだ、エイバッハ達の捕縛が伝わっていなければ良いが、午後にはトットナム達も捕らえられてくる。
そうなれば、噂の広がりも早いだろう。
「昨日のクリス・シュターナーの件じゃが、ラインハルトの下で使ってやるようにせよ。」
「承知しました。ですが、本当によろしいのですか? 口では色々申しておりましたが、陛下へ二心が無いとは言い切れないのではないでしょうか?」
「問題ない。余は信頼しておる。」
ハンスには白玉は見えんから仕方無い。
だが、俺は数少ない白玉を逃すつもりは無い。
■リーブル宮殿 お仕置き部屋
ハーマンは早朝にトットナムの長男カールを捕縛し、昼過ぎには皇都へ戻ってきた。
ハーマンのやつも眠いであろう、労ってやらねばな。
今回も抵抗が全然無かったそうだ。
こいつらは、本気で反乱を起こす気があったのだろうか?
反乱は露見すれば確実に死罪だ、半端な覚悟でやるものではないだろうに。
椅子には、目つきの良くない小柄な男が黒玉を浮かべて座っている。
前回お預けを食らったリッチーは、この男には期待しているようだ。
「カールよ。余に何か申すことはあるか?」
「恐れながら申し上げます。なぜ、このような仕打ちをなさるのでしょうか?」
「このような仕打ちとは?」
「罪なき者を無理やり捕縛するようなことでございます。」
-そう来たか。ちょっと予想外だったな。
「そなたたちを捕縛するときに、近衛騎兵は罪を伝えなんだのか?」
「・・・反逆罪と。ですが、私は陛下に背くようなことは決して・・・」
「もう良い。そこまでにしておけ。余はお仕置き続きで、食傷気味じゃ。リッチーよ、後は任せた。だが、決して殺すなよ。」
「どのような計画で、誰とどんな話をしたかをしっかりと聞いておけ、帝国の行商人との連絡方法は、わかり次第余のところに報告するのじゃ。」
「仰せのままに。」
ヘイカ!と叫んでおるようじゃが、もうお仕置きは充分見た。
決して楽しいものではないのだ。
白虎よ、お茶を飲みに戻ろうぞ。
■リーブル宮殿 皇帝執務室
さすがにお仕置きは当分見たくない。
ここには癒しのマリーがいる。少しは心が晴れるであろう。
今日はアリスとマリーナを連れてきてくれた。
この二人も随分落ち着いたようだ。以前ほど、顔がこわばって無い。
最初は、こちらが傷つくぐらい、嫌がっているのが伝わったが。
「アリス、マリーナよ。少しは宮殿暮らしに慣れたのか?」
「はい、陛下。皆様良くしてくださっています。」
「そうか、それは良い。宮殿の食事は口に合うか?」
「はい、陛下。実家よりも美味しくいただいております。」
-食材や味付けは、間違いなく、わが国一番だから当然だな。
「即位式が終れば、夕食を一緒にとろうぞ。そろそろ慣例やしきたりも見直さねばならんからな。」
-のう、ハンスよ。宮殿もカイカクが必要だぞ。
■リーブル宮殿 皇帝執務室
カールの尋問内容を記録官が届けに来た。
細かい部分のニュアンスは微妙だが、要約するとこういうことなのだろう。
皇帝(俺のこと)は、子供で判断能力が無いから、父が惨殺された。
トットナム家は由緒ある家柄であり、理不尽な仕打ちは納得できなかった。
カールの元に北の帝国から行商人が来て密書を渡された。
領地で騒ぎを起こせば、帝国が侵攻して皇帝(俺のこと)の首を取ると確約された。
エイバッハとのつなぎもその行商人が行った。
行商人とのつなぎは、フラン共和国公館近くの敷石を外して書状を交換している。
このままなら、一族が抹殺されると言うやつが多くいる。
だったら、帝国の話に乗って・・・
おおむね、エイバッハ側の言うことと一致している。
どちらかが主導したのではなく、帝国の密偵が両者を煽ったように思える。
しかし、帝国の本気度が感じられない。
兵を持たぬ領主が反乱を起こしたとしても、陽動策としては弱いだろう。
「ハンスよ。書状の受け渡し場所をラインハルトに見張らせろ。」
「かしこまりました。」
帝国の意図は何だったのか?
ラインハルトの監視に期待するしかないな。
いずれにせよ、反乱を企てたものは処断せねばならないが、帝国の密偵を捕らえるまでは生かしておいた方が良さそうだ。
「ハンスよ。今回の反乱者は即位式のあとに全員処断する。」
「かしこまりました。」
-即位式で褒める方も必要だな。
「ハンスよ、即位式での爵位の授与も決めねばならんな? そなたに案はあるのか?」
「はい、エドガーとラインハルトは領地を持たぬ男爵に。ハーマンには騎士爵位を授与されるのが良いかと。」
「その3名はそれで良い。そなたの爵位はどうするのじゃ?」
「私ですか? 私は今のままで何の不満もございません。」
「そうはいかぬ。そうじゃな・・・伯爵にしておこう。領地の加増は行わぬが、近衛侍従としての報酬は今の3倍に引き上げようぞ。」
「陛下、それは・・・」
「いや、この件はこれで決定じゃ。異論は認めぬ。」
俺が与えられるのは、爵位、領地、金ぐらいのものよ。
ハンス、お前がおらねば、俺はすでに死んでおるかもしれん。
本当に感謝しておるのだぞ。
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