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「魔塔から催促が来ちゃってね。こちらも早いほうがいいから、これから行ってもらうことにしたよ」
クリスティアにそう言うと、ユリウスは淡々とリリアナに今後の処遇について告げた。
「いやあああっ」
聞くなり、リリアナは絶叫した。
「魔塔なんて化け物みたいな魔法師しかいないって聞いたわ。そんな所に行ったら何されるかわからないじゃないっ!!」
「心配いらないよ。大切な実験材料だもの、きっと丁重に扱ってもらえるさ」
ユリウスの合図で屈強な兵士たちが牢に入り、両腕を取って連れ出そうとするが、リリアナがあまりにも暴れるので、ついには荷物のように担ぎ上げられた。
「いやよっ、連れて行かないで。許して、お願いだから」
初めて聞くリリアナの哀願の声にも、今さらと思ってしまい、心が動かされることはなかった。
「尋問の様子を見ていてもまったく悔い改めてないみたいだったから、図太い神経の持ち主なんだなと思っていたけれど、さすがに魔塔は怖いらしい」
ユリウスがちらりとモリスを見る。
「反論はしませんよ、かなり危ないのもいますから。ただ念の為に言っておきますが、魔法師だからって一緒にしないでくださいね」
「もちろん、よくわかっているよ。クリスティア嬢、これで気は済んだかな」
「お心遣いに感謝いたします。ええ、すっきりとはいきませんが、これでようやく終われる気がします」
*
ユリウスと別れ、馬車寄せまで並んで歩きながら、クリスティアはモリスに心に引っかかっていたことを話してみた。
「もし、前世の記憶をリリアナに教えていたら、あの子を止められたかしら」
「いや、無理でしょう。むしろもっとうまくやろうとしたでしょうね。そうしたら被害者が増えていたかもしれませんよ」
「ああ、そうね。あの子の性格ならそちらのほうが正しいでしょうね」
「リリアナ嬢に対して罪悪感でもあるのですか?」
「そういうわけではないわ。前世のことがある限り、たとえ今世で何もなかったとしても、あの子を許せなかったと思う。でも、幼い頃に前世の記憶があったのはわたしだけだから、もしかしたらもっと何かできたのではないかと思ってしまうの」
「そうでしょうか? あなたが記憶を取り戻す前にリリアナ嬢は生まれていたのですから、すでに公爵夫人は罪を犯していたのです。原因は侯爵にあったのでしょうが、それでも夫人は自ら復讐の方法を選びました。断罪された方々が皆、今回このような始末になったのは、すべて彼ら自身の選択の結果にすぎません」
「違うやり方を選ぶ機会はいくらでもあった。でも、あの人たちはそんなこと考えもしなかったのね」
モリスの言葉はクリスティアの胸に浮かんだ微かな罪悪感や不安をきれいに拭い去ってくれた。
「ええ。ですから、気に病むことはありませんよ。今回は辺境伯様を助けることができましたし、何よりルーファス様とあなたが無事でいてくれたことが嬉しいです。僕はそれだけで十分、時を戻した甲斐があったと思っていますよ。今度こそルーファス様と幸せになってください」
「ありがとう」
なんだか、最近は涙腺が緩くなったような気がする。
冷たさや悪意をぶつけられても簡単には泣かないほど強くなったつもりだが、優しい言葉をかけてもらうと心の柔らかい部分が震えてすぐに泣けてしまう。
「わあ、泣き止んでください。僕がルーファス様に怒られますっ」
慌てるモリスがおかしくて、泣きながら笑った。
***
リリアナが魔塔に送られて十日も経たぬうちに、結婚準備のため大公領へ向かったカミラ王女が、道中で盗賊に襲われて命を落としたとの報せが王都にもたらされた。
それをモリスから聞いたのはちょうどお茶の時間で、クリスティアは驚きのあまり思わずカップを取り落としそうになった。
「本当なの? モリス」
「ギース伯爵の領内で襲われたそうですが、王女だけが遺体で見つかって、後は全員行方不明だそうですよ」
「王女だけが殺されたの? どうして?」
「王女なら他国でも顔が知られているだろうから、奴隷として売ったりしたら足がつくと思ったんだろう」
ルーファスがどうでもいいことのように言う。
「でも、護衛の騎士もいたのでしょう? 彼らも殺されたというならともかく連れ去られたなんて、盗賊たちはそんなに強かったのかしら?」
「……鋭いな」
ルーファスがつぶやく。
「え?」
「いや、そんなにタチの悪い盗賊がいるのに、ろくに取り締まりもしなかったのかと思って。ギース伯爵は当然、処罰されるだろうな」
「その伯爵様ですけど、仲介役を務める振りをして、王妃から貴族たちへ流れる金の一部をこっそり自分の懐に入れていたらしいですよ。その金で家族揃って贅沢な暮らしをしていたくせに、隣領の大公様には資金不足で盗賊対策ができないなんて言ってたそうですからね。まあ、自業自得でしょう」
「やっぱり天罰が下ったな」
「まったくその通りですね」
ルーファスは涼しい顔で言い、モリスも笑みを浮かべて相槌を打つ。
(ふたりとも、ぜんぜん驚いていないわ。まるであらかじめ知っていたみたい。まさか、誰かにやらせたとかじゃないわよね?)
ルーファスが自ら手を下したとは思ってもみないクリスティアだったが、落ち着き払った彼らの様子に、冷たいものが背筋を走るのを感じた。
(うん、聞くのはやめよう。ルーファス様が何も仰らないのだから、わたしが知らなくても良いことなのよ)
自らに言い聞かせ、にこやかに微笑みながらふたりにうなずいてみせた。




