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二度も断罪されましたが死に戻りましたので、今度は愛する人を守ってみせます  作者: 今尾曜
第二章 二度目の人生

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 王太子の姿を見るのは社交界デビューの夜会以来だ。


(できれば二度と会いたくなかったわ)


 前世の記憶と相まって、嫌悪感は増すばかりだ。


 動揺する心を必死に静めながら、立ち上がって挨拶をする。


 なぜ王太子をこの場につれてきたのかとリリアナに非難の目を向けたが、まったく悪いとも思っていないようで、甘えるようにアーロンの腕を取り、二人並んで侯爵夫妻の隣に座る。


(……今日はもう話をするのは無理ね)


 リリアナの意図はわからないが、もしかしたらクリスティアの話を聞く気はないという意思表示なのかもしれない。


「リリアナ、王太子殿下がいらっしゃるのであれば、お邪魔をするわけにはいかないわ。わたしたちはこれで失礼するわね」


「えっ、どうして? 殿下もお姉様のお話を聞きたいって。家族になるんですもの、構わないでしょう?」


(は? 家族って、相手は王族なのよ?)


 クリスティアは焦ったが、父はたしなめるどころか嬉しそうにうなずき、母は相変わらずの無表情で、我関せずといった様子だ。


 アーロンもにやにやと王族らしからぬ下品な笑みを浮かべるだけで何も言わない。


(そこまでリリアナに夢中だとは思えないけれど……)


 違和感があったが、機嫌を損ねていないならそれでいいと思い直した。それよりも彼がいてはできない話だとリリアナにわかってもらわなければならない。


「デイル家の問題に王太子殿下を巻き込むなんて恐れ多いわ」


 だが、アーロンが嫌な笑みを浮かべたまま、口を出してきた。


「デイル家の長女が辺境伯の嫡男と侯爵家に来て、私に聞かせられない話をすると? 不穏だな」


「誤解ですわ。ルーファス様はわたしの婚約者ですから、一緒に来てもらっただけです」


「へぇ? だったら私も聞きたいな。リリアナの婚約者なのだから、家族だろう?」


(そんなこと思ってもいないくせに)


 腹立たしいが、ここまで言われては何の話もせず帰るわけにはいかない。とはいえ、わざわざ家族全員を集めておいて当たり障りのない会話をしただけではかえって怪しまれてしまうだろう。


(何を疑っているのかしら?)


 前世でルーファスが反逆者に仕立て上げられた時のことが頭をよぎる。


 思わず隣のルーファスを見ると、彼は微笑み、ちらりとモリスに視線を流した。


(そうね、モリスが記録してくれているから大丈夫よ。ちゃんと証拠が残るもの、あの時とは違うわ)


「わかりました」


 クリスティアはうなずき、再び腰を下ろした。


 皆が揃ったところで改めてお茶が用意された。色が濃く、香りも強い紅茶だ。


 出された物に手もつけず、クリスティアは前置きなしでいきなり本題に入った。


「リリアナ、あなた、〝豊穣の手〟を使っても植物が育たなくて困っているんじゃない?」


「なっ!?」


 リリアナの顔からは笑みが消え、鋭い目つきでクリスティアをにらみつける。


「同じ場所で〝豊穣の手〟を使い続けていたら、土が砂のようになってしまい、そこにはどんな植物を植えても育たない。そうでしょう?」


「なぜ、それを知って……」


 言いかけて、リリアナは慌てて両手で口を押さえた。


 怒りよりも驚きと恐れが勝っているようで、顔から血の気が引いている。


「力の使い方を間違っているからよ」


 クリスティアは〝豊穣の手〟を植物に直接使うのでなく、大地に対して力を与えるような使い方をするべきだと説明した。土地が豊かになることで、結果的に農作物の生長を助けることになる、その為の能力なのだと。


 今の状況を言い当てられた衝撃からか、リリアナは青ざめた顔のまま反論をすることなく聞いていたが、父親は激怒し、クリスティアを怒鳴りつけた。


「偉そうに言うな!! 能力を持たないおまえに何がわかる!?」


 元より真実を告白するつもりだったが、アーロンの前で話せば王妃にも伝わってしまう。


 ためらうクリスティアの手を、そっとルーファスが握った。


「本当のことを言ってもいいよ、俺が必ず守るから。誰にも利用なんてさせない」


(そうよ、わたしはもうひとりじゃないんだわ)


 勇気を奮い起こし、もはや父親とも思えない男と正面から向き合う。


「わたしも〝豊穣の手〟を持っています。七歳の時、能力に目覚めました」


「なんだと?」


 オスカーは目を見開いて絶句し、ヴェルマもさすがに驚いたようで心配そうにリリアナをみつめている。


「そんな……」


 リリアナは呆然としていたが、不意に立ち上がって大声で叫んだ。


「お姉様も〝豊穣の手〟を持っているというの? 嘘よね? 嘘なんでしょう!?」


 両手でドレスのスカートを握りしめ、わなわなと全身を震わせている妹を見ていると、ひどく哀れに思えた。


 〝豊穣の手〟を持つ者として王太子の婚約者となり、ずっと自分だけが選ばれた存在だと思ってきたのだろう。


 いつも自分だけが特別でないと我慢できない子だった。だから、前世で同じ能力を持つ姉が邪魔だったのだ。


 この妹にさんざん辱められ、しまいには罠に嵌められたあげく命を落とした。


 今でも許せないと思っているし、肉親の情など欠片も残っていない。それなのに、ずっと抱いていたはずの憎しみはずいぶんと薄れてしまった。


 ただ王家に利用されているだけなのに選ばれたと自慢げに振る舞っている妹が、二度目の人生を生きているクリスティアにはひどく愚かで、滑稽だと思えたからかもしれない。


「疑うなら、お祖父様とお祖母様に聞いてみればいいわ。わたしはずっと領地で自分の能力について研究していたから、おふたりはわたしが実際に〝豊穣の手〟を使ったところを見ているもの」


「だったら、どうして今まで黙っていたのよ!?」


「もしあなたが知ったら、どんな手を使ってでもわたしを排除しようとするからよ。自分と同じ能力を持つ者がいるなんて我慢できないものね。しかも、わたしのことを父親が貴族じゃないと思い込み、蔑みの目で見ていたから余計に許せなかったでしょう」


「何よ、あんたがお父様の娘じゃないのは事実でしょう?」


 リリアナは嘲笑を浮かべ、クリスティアを指差しながら勝ち誇ったように告げる。


(まだそんなことを言っているの?)


 呆れつつも、反論しなくてはと口を開こうとした時、場違いな笑い声が響いた。


「あははっ。なんだ、そうかあ」


 アーロンだ。


 その場にいる者は皆、あっけに取られて彼を見つめるが、気にする風もなく楽しげに笑い続けている。


「アーロン様?」


 異様な雰囲気を感じ取ったのか、リリアナは立ち上がったままアーロンに呼びかけた。


 見下ろされる形になったのが気に入らなかったらしく、アーロンは片手でリリアナに座るよう促すと、今度は自分が立ち上がり、一人掛けの肘掛け椅子に移動した。


「母親の不貞で生まれた子どもだってこと、うまく隠してるんだなと思ってたら、ほんとに知らなかっただけか。馬鹿だなあ」


「え?」


 あからさまに嘲りの表情で見られ、リリアナはようやく侮蔑の言葉が自分に向けられたものだと気付いたようだ。


「あの、それはどういう……」


「だから、父親が侯爵じゃないのは自分のほうだってこと、リリアナは知らなかったんだなって」




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