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食事の間は今の王都の流行や学院時代の思い出などが話題となり、楽しく時が過ぎた。
だが、食後に酒でも飲みながら話そうと案内された談話室で、和やかな雰囲気は一変した。
ブランデーと紅茶の用意がされると、エドアルドは人払いをし、部屋には四人だけになった。
「どうやら私も高みの見物をしていられなくなったようでね。今まで中立の立場を取ってきたが、第二王子殿下の為に動こうと思う」
クリスティアは驚いたが、ルーファスはある程度予想がついていたのか、わずかに眉を寄せただけだった。
「だからといっておまえに決断を迫るわけではないが、いくつか耳に入れておきたいことがある。さっき聖水の生産量が落ちていると言っただろう? 神殿はリリアナ嬢の能力を使って、原料の輝星草を早く成長させ、何度も収穫するということを繰り返していたんだが、それがうまくいかなくなったようだ」
「どういうことだ?」
「さすがに神殿内部のことでくわしくはわからないが、どうやらこれまで栽培されていた場所で輝星草が育たなくなったらしい。密かに専門家が呼ばれて調査が行われているが、まだ解決していないと聞く。新しく農地を開拓しなければならなくなって、神官たちは慌てているそうだ」
(〝豊穣の手〟の使い方を間違ったから、土地の力が枯れてしまったのだわ)
クリスティアにはすぐに原因がわかった。
(でも、こんなに駄目になってしまうなんて、どれだけ力を使ったのかしら)
「なるほど。確かに、その有様では他に目を向けている余裕はないな。騒ぎに乗じてこちらから探りを入れることもできそうだ」
「いや、今はまだ動かないほうがいい。久しぶりに王都に出てきたおまえを皆が注目しているからな」
エドアルドが別人のように厳しい顔になり、ルーファスを止めた。
「それに、もうひとつ情報がある。ヘイズ侯爵家の令嬢が婚約者を亡くしたことは知っているか?」
「シナー伯爵令息だろう? 落馬事故で亡くなったと聞いているが」
「それがひと月前の話なのだが、葬儀から十日も経たぬうちに、王家から内々に王宮で王子妃教育を受けて欲しいという申し出があったそうだ。つまり、婚約の打診だよ」
「非常識だな。よほど他家に取られたくなかったのだろう。ヘイズ侯爵家は王族も降嫁されたことのある名門貴族だ」
「そう、領地も豊かで、王太子の後ろ盾としては申し分のない家だ」
「王太子? 第二王子ではないのか?」
「そこが問題なんだ。輝星草の件で、リリアナ嬢の立場が悪くなったのは間違いない。それで……」
エドアルドが言いづらそうに口を噤み、ちらりとクリスティアを見たので、軽く首を振って気にしないよう伝える。
「わたしもここに呼ばれたということは、デイル家にも関わりのあるお話なのでしょう? お気遣いは不要ですわ」
「それは違いますよ。あなたをお呼びしたのは、ルーファスが望んだからです。婚約者は賢明でとても頼りになる人だから、自分に聞かせたい話があるなら彼女も同席させてほしいと」
思わず隣に座っているルーファスを見たが、彼は素知らぬ振りでそっぽを向いている。
「ルーファスがそこまで信頼できる相手に出会えたことは、親友として誠に喜ばしい限りですが、私も負けず劣らず妻を愛しているので、彼女もここに居てもらっています」
聞いているこちらが赤くなってしまったが、夫人は慣れているのか、にっこりと余裕の笑みを浮かべている。
「おっと、話が逸れてしまったな。先を続けよう」
エドアルドは再び表情を引き締めた。
「おそらく王妃はリリアナ嬢の代わりにヘイズ侯爵令嬢を王太子の婚約者にするつもりだろう」
クリスティアに驚きはなかった。ルーファスも同じだろう。
王妃は溺愛する王太子に、常に最善のものを用意しようとする。
前世でリリアナより能力が劣ると判断され、あっという間に切り捨てられた。〝豊穣の手〟がどれだけ王太子の利益になるか、王妃の頭にあるのはそれだけで、一度捨てたものを顧みることなどない。そのことは誰より身に染みてわかっている。
ただ意外だったのは、王妃や王太子と良い関係を築いていると思っていたリリアナがこんなにも早く見切りをつけられたことだ。
前世と違い、クリスティアという比較の対象がいなかったことが、リリアナの価値を下げたのかもしれない。
周囲が同じ能力を持っていたクリスティアを貶めたことで、リリアナが得難い存在だともてはやされていたのだとしたら、今世で極力関わりを持たないようにしたのは、やはり正しい選択だったのだと確信した。
「王宮内で王太子の評判はすこぶる悪い」
エドアルドが苦々しげに言い放つ。
「黙っていれば気品あふれる見目麗しい王子だが、勉強嫌いのくせに自己評価が高くて、自分を優秀だと思っている。おまけに気に入らない者には暴言を吐いた挙句、殴る蹴るの暴力を振るう」
「最悪じゃないか」
それに比べて第二王子ユリウスの評価は高いという。頭脳明晰な努力家であり、武芸は兄に劣るものの、穏やかな人柄が使用人たちから愛されているという。
「今、中立派と言われている貴族たちは実のところ、ほとんどが第二王子派だ。彼らはヘイズ侯爵令嬢を王太子ではなく第二王子殿下の婚約者にしたいのだが、当然、王妃はそれに気づいている。近いうち殿下に西の辺境への視察が命じられるそうだ」
「なんだ、それは? 俺は聞いていないぞ」
「日程を決め、出発ぎりぎりに伝えれば断れないだろう? 妻のフローラはグリン伯爵家の出で、末の弟がユリウス殿下の側近候補として王宮に出入りしている。そこでわかったのだが、王妃から辺境に行く準備をしておくようにと指示があったそうだ」
「はあ、やっぱりシャーロットを狙ってるのか」
「おまえからシャーロット様は雪月薬のお陰でずいぶん良くなられたと聞いていたが、王妃もそれを知っていたんだな。おまえがいるのだから、妹君と結婚させたところで何の得もないだろうに。レーヴェ家と王家の縁を深めるついでに臣籍降下させて殿下を追い払おうということか」
(それだけじゃないんですが……)
まさか王妃が辺境伯と嫡男を亡き者にしようと企んでいるなんて口が裂けても言えない。




