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「ロベルトには王都のタウンハウスを任せているんだが、あいつも貴族だから社交界に出入りしている。聖騎士で夜会なんぞに出なかった俺よりも、はるかに王都での人脈があるはずだ。それで情報を集めさせようと思ったんだが、当たり障りのない世間話ばかり並べたような手紙が来るだけで、使いものにならなかった。その時点でおかしいと気付くべきだったよ」
「何か知っていたのにわざと報告しなかったのかしら?」
「だろうな。仕方ないから別に人を雇ったんだが、ロベルトも調査対象に入れておこう」
身内を疑わなければならないというのは、ひどくつらいことだろう。
クリスティアはルーファスの隣に座り、そっと手を握った。
「つくづく俺には何も見えていなかったと痛感するよ」
ルーファスは悲しげに微笑んだ。
「頼りなくてすまない」
「そんなことありません。いつもわたしを守ってくださっていますもの」
クリスティアは大きく首を振って、彼の言葉を打ち消した。
「聖騎士として神殿にいらしたのですから、目の届かない所があるのは当然です。わたしこそ前世の記憶があるのに、王家に対する警戒心が薄すぎましたわ。でも、まだ間に合います。どうかひとりで抱え込まないでください。わたしもモリスもお傍にいますから」
「モリスはいい。あなたにいてほしい」
駄々っ子のように言うと、ルーファスはクリスティアを引き寄せ、ぎゅっと抱きしめた。
前世で起こった悲劇を繰り返さないためにも、敵が仕掛けてきたものをひとつひとつ潰していかなければならない。
果たしてすべてを防ぎ切ることができるだろうか。
そんな心にある不安が、ルーファスの胸に抱かれている今だけは薄れていくのを感じる。
この温もりをけっして失いたくないと改めて思った。
***
魔獣討伐に向かった辺境伯を追ってルーファスが出発してから、クリスティアにとって眠れぬ夜が続いた。
ただ祈ることしかできなかったが、五日後、全員無事に帰還したと聞いた時は涙があふれて止まらなかった。
すぐにでもルーファスに会いたかったが、まだ後始末が残っているから待っていてほしいとの伝言がモリスによって届けられた。
「僕もまだ詳しいことは聞いていませんが、やはりゲオルグ様の命が狙われたようです。ウィルバートを始め数人の騎士が捕まったとのことで、今頃は犯人を尋問しているところでしょう。前世で亡くなられた時に気づかなかったのが悔やまれますが、今回は防げたことが何より嬉しいですね」
「ええ、そうね」
モリスの言葉にうなずきながらも、クリスティアは体の震えを止めることができないでいた。
可能性は十分にあると頭ではわかっていたのに、心のどこかにまだ甘い考えが残っていた。まさか辺境伯の暗殺などするわけがないと。
それが当たり前のように覆されたのだ。
「どうしました? 顔色が悪いですよ」
心配そうなモリスに少し気分が悪いから休むと伝え、部屋に戻ると頽れるようにソファに座り込む。
(前世とは違うかもしれないと、まだ期待していた? いいえ、違う。本当はわたしを虐げた人たちに逆らうのが今でも怖いんだわ。だから、彼らと戦わずにすむ方法を無意識に探していたのかもしれない……)
弱い自分があまりにも情けなくて嫌いになりそうだ。
モリスが侍女に薬湯を届けさせてくれたが、飲む気にはなれず、ぼんやりしていると、再びノックの音がした。
「どうぞ」
何も考えずに返事をすると、そっと扉を開けて入ってきたのはルーファスだった。
「具合が悪いと聞いたが、休んでいなかったのか?」
「わたしは大丈夫です。それより、ゲオルグ様を襲撃した犯人が捕まったとか」
ルーファスはうなずき、クリスティアの隣に座った。
「ウィルが密かに魔法師を雇って討伐隊の先回りをさせ、彼らにワイバーンに襲われたという幻覚を見せたんだ。その上でさらに催眠魔法をかけて眠らせ、あらかじめ用意しておいたワイバーンの爪で父を殺すつもりだったらしい」
「それをルーファス様が止められたのですね」
「俺は離れたところにいたから、魔法にはかからなかったんだ。何もいないのに騎士たちがワイバーンが来たと騒ぎはじめたから、急いでこちらの魔法師に結界を張らせて幻覚魔法を解除させた。一連の流れの中でまったく動じることなく父に近づこうとする奴らがいたので拘束したら、ウィルの仲間だったというわけだ」
「きっと黒幕がいるのですよね?」
クリスティアが尋ねると、ルーファスは顔をしかめた。
「それが捕まった奴らはそろってウィルが主犯だと言うし、本人も自分が計画したことだと言い張っている」
「そんな、じゃあ、どうしてそんなことをしたというのですか?」
「騎士たちは大金欲しさに話に乗ったそうだ。ウィルと魔法師だけは父がナサール卿と息子たちを排除しようとしたからだと言うんだが、そんな事実はない。誰に吹き込まれたのかと尋ねたら途端に口を閉ざしてしまう。今も尋問は続けさせているが、証言を得るのは難しいだろうな」
「そうですか……」
ルーファスは床に片膝をつくと、うつむいたクリスティアの顔を覗き込むようにして見つめた。
「あなたが情報をくれたお陰で父を助けることができたし、俺もこうして無事に帰ってこられた。喜んでくれると思ったのに、どうしてそんなに悲しそうな顔をしてるんだ?」




