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二度も断罪されましたが死に戻りましたので、今度は愛する人を守ってみせます  作者: 今尾曜
第二章 二度目の人生

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13

 辺境伯夫人はシャーロットが生まれて一年後に病で亡くなっている。


 執事と侍女長は先代の頃からレーヴェ家に仕えており、不在がちの辺境伯に代わり、母を亡くした兄妹を慈しみ、かいがいしく世話をしたと聞く。


 執事は白髪で穏やかな物腰の人物だったが、こちらも黒髪に白いものが混ざり始めている侍女長のほうは、いっさい表情を緩めることなく鋭いまなざしでクリスティアを見つめている。


「呼び出したりしてごめんなさい。実は王都の誰かが辺境伯家について探っているようなの。たぶん使用人たちに接触していると思うのだけど、外出が多かったり、お金の出入りが気になるような者はいない?」


「そうですね……」


 執事は考え込んだが、侍女長はおよそ感情の籠らない声でクリスティアに尋ねた。


「使用人たちをお調べになるのですか?」


「ええ。不愉快だろうけれど、非常事態だと思って耐えてちょうだい。敵の狙いがわからないうちは、どんな些細な情報であってもあちらに渡したくないの」


 あえて〝敵〟という強い言葉を使ったせいか、侍女長の表情がさらに厳しくなった。


「クリスティア様、どうかこの件は私どもに任せていただけませんか」


「そうね、こちらに来たばかりのわたしに聞かれても答えてはくれないでしょうから」


 何の気なしに口から出た言葉に、執事が反応した。


「申し訳ございません。そのような意味ではないのです。もし家の中の誰かが情報を漏らしていたなら、それは我々の責任ですから始末をつけさせていただきたいのです」


「わかったわ。では、あなた方にお任せするわね」


 ふたりは深々と頭を下げてから部屋を出て行ったが、その後の仕事は恐ろしく早かった。


 わずか二日で報告が上がってきたことに、クリスティアは目を丸くした。


「もうわかったの?」


「使用人たちの行動はおおよそ把握できておりましたが、特に怪しいと思ったことはなかったのです。ですが、視点を変えてみると、おかしいところに気付きました」


 クリスティアの部屋を訪れたのは侍女長だったが、その口調からは申し訳なさが感じられた。


「シャーロットお嬢様付きの侍女が、騎士のひとりと頻繁に会っておりました。ふたりは歳も近く、恋仲なのだろうと見守っていたのですが、彼女と親しい者にそれとなく聞いてみると、お金を受け取っているのを見たことがあると言うのです。それで、密かに呼んで問いただしてみると、旦那様とルーファス様のご予定や、シャーロットお嬢様の病状など、レーヴェ家の皆様のことをわかるかぎり全て男に話していたと白状いたしました。お金に目がくらんだそうです」


「いつから情報を流していたのかしら?」


「二年も前からだそうです。私の管理不足でした。申し訳ございません」


 クリスティアは床に(ひざまず)こうとする侍女長をあわてて押しとどめた。


「あなたがそこまで責任を感じることはないわ。こんなに早くわかったのは、あなたが日頃から使用人たちに気を配ってくれている証拠だもの。それで、その()は今、どうしているの?」


「クリスティア様のご指示をいただくまではと、見張りをつけて部屋に閉じ込めております」


「そう。ルーファス様に相談したいけれど、魔獣討伐が終わるまで待ちましょう。体調が優れないことにして、そのまま部屋から出さないで。見張りはつけなくていいけれど、看病のためとでも言って、常に誰かがそばにいるようにしてほしいわ」


「承知いたしました」


「そうだわ、大事なことを聞き忘れていたわね。その侍女と騎士の名前は?」


「アンナとウィルバートです。男のほうはマーカス卿の部隊の騎士です」


「マーカス卿?」


「騎士団長、ナサール卿の御嫡男です」


「ナサール卿の? わかったわ、ありがとう。ルーファス様にも伝えておきます。下がっていいわよ」


 部屋を出て行こうとした侍女長がふと振り向いて、扉の前で居住まいを正した。


「シャーロットお嬢様は近頃ずいぶんとお加減が良いそうです。クリスティア様のお陰だと聞いております。心より感謝申し上げます。私でお役に立てることがあれば何でも仰ってくださいませ」


 初対面の時から表情を緩めることのなかった侍女長が、口元に微かな笑みを浮かべている。


「あ、ありがとう」


 あまりにも意外で、お礼をいうのがやっとだった。


 侍女長が退室して少し経ってからようやく、じわじわと喜びがこみ上げてきた。


 まだこの地に来たばかりでよそ者扱いされても仕方がないと思っていたのに、心から受け入れてもらえたようで嬉しかった。


     *


 香草茶を用意し、執務室を訪れると、ルーファスが書類を前に難しい顔で考え込んでいた。


「ルーファス様、そろそろ休憩なさいませんか?」


「そうだな」


 クリスティアに笑顔を見せたものの、ルーファスはどこか疲れたようなけだるさを全身に漂わせている。


「良い香りだ」


 目を細め、お茶を口にしてから、ルーファスは深々とため息をついた。


「あれからいろいろ考えてみたんだが、どうにも父上が狙われる理由が思いつかなくてね」


「ですが、やはり不審な動きはありましたわ。侍女長が調べて報告してくれたのですが、ウィルバートという騎士が、侍女のアンナからレーヴェ家の皆様の情報を得ていました。二年も前からだそうです」


「ウィルが?」


「はい。マーカス卿の部隊に所属していると聞きました。マーカス卿はナサール卿のご子息だそうですね」


「ああ。ウィルはナサール家と縁が深い。裏切るとは思えないが、マーカスも父親そっくりで裏表のない、権謀術数というものが恐ろしく苦手な男なんだ。あいつがウィルにそんなことをさせるとも考えにくいが……」


「では、他に誰かレーヴェ家の内情を知りたがっている人に心当たりはありませんか?」


「まあ、しいて言えば、王家かな。内々にカミラ王女との婚約を打診されたのが一年ほど前だから、もしかしたらそれで情報が欲しかったのかもしれない。だが、その話は流れたはずなのに、未だに探っているというのは解せないな」


 考え込んでしまったルーファスだったが、不意に小さく声をあげてこめかみを押さえた。


「嫌なことに気づいてしまったぞ。ナサール卿にはもうひとり、ロベルトという息子がいる。兄と違って剣の腕はないが、頭の切れる男でね。奴ならウィルに言うことを聞かせられる」




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