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モリスは微笑みを浮かべ、クリスティアが落ち着くのを待ってくれた。
「私の魔法がうまくいったようで良かったです。何年戻ったのでしょうか?」
「わたしが七歳の時、能力が目覚める直前まで戻りましたわ」
「今世では〝豊穣の手〟の持ち主はリリアナ嬢だけだと聞いていましたが、やはりあなたもお持ちだったのですね」
クリスティアは両手を広げ、雪月草が植えられた大地にぴったりと手のひらをつけた。
(この土地がより力を増し、雪月草がたくさん育ちますように)
両手から光があふれだし、大地に吸い込まれていく。
すると、すでに植えられていた雪月草の間から、新しい芽が顔を出し、ぐんぐんと伸びていく。
さらに、ひと株にひとつしかないはずの蕾が、二つ、三つと複数ついている。
「満月の夜にしか開かないというのは変えられませんが、収穫量を増やすことができます。わたしの力にも限りがあるのでたびたびは使えませんが、これぐらいの範囲で月に一度ならば大丈夫だと思います」
「でも、その力を使えば、雪月草の花の薬効が落ちるのですよね?」
「いいえ。このやり方なら大丈夫だと思いますから、一度、試してみてください」
いぶかしげに自分をみつめるモリスに、クリスティアはうなずいてみせた。
「わたしもリリアナも、能力の使い方を間違えていたんです。植物ではなく、大地に力を与える。これが〝豊穣の手〟の本来の使い方だったのだと思います」
今世のデイル領での暮らしが、クリスティアにさまざまなことを気づかせてくれた。
祖父の助けを借りて多くの実験を試み、前世で抱いていたいくつかの疑問について、自分なりの答えを見つけ出すこともできた。
「以前、あなたが開発途中だった蒸留法、あれを完成させましょう。花の精油ができれば、もっとたくさんの瘴気病の治療薬を作れるはずです。その過程でできる芳香蒸留水にも、精油ほどではありませんが、浄化と疲労回復の薬効がありますから、強壮剤を作って王都で売ることができますよ。最終的には、雪月草の強壮薬が聖水にとって代わることが目標です」
「うーん。浄化に関して言えば、雪月草の薬は聖水よりも優れていると思いますが、疲労回復という面では聖水のほうが上かと。それに、神官たちの祈りによって神のご加護があるというふれこみですから、聖水に取って代わるのは難しいのではないでしょうか」
「もちろん、すぐには無理でしょう。けれど、わたしは聖水に麻薬のような依存性があるのではないかと疑っています。前回、シャーロット様を治療した際に、雪月草の薬を飲むようになってからも、聖水が欲しくてたまらなくなるとおっしゃっていたでしょう?」
「ええ。ですが、十日ほどでその症状は消えましたから、特に問題はないと思っていたのですが……」
「なんとなく気になっていたので自分でも試してみたのですが、聖水を毎日飲み続けてひと月ほど経つと、二、三日飲まずにいただけで無性に欲しくなるのです。我慢できないほどではありませんが、とてもイライラするので、依存に近い中毒症状が起こっているのではないかと思います」
「だから、王都の貴族たちが飲み続けていると?」
「裕福な人たちは我慢などしないでしょうし、聖水に神のご加護が宿っていると信じているのであれば、なおさらやめようとはしないはずです」
「なるほど」
「聖水に依存性があることを証明し、雪月草の薬がじゅうぶん聖水の代わりになると広めれば、ほとんどの人が聖水を買わなくなるでしょう。神殿の権威は失墜し、収入源も絶たれます。彼らと手を結んでいる王家にもダメージを与えることができると思うのです。そのためにも、まずは原料の輝星草を調べたいのですが、手に入れる方法はありませんか?」
ようやくこの地に来ることができたのだから、ずっと考えていたことをすべてやってみるつもりだ。
クリスティアの強い決意が伝わったのか、モリスは大きくうなずいた。
「何とかしてみましょう。今も変わらず、僕はあなたの最大の協力者でありたい」
「ありがとう、心強いわ」
前世の記憶があるモリスは、今世ではより心強い味方となってくれるに違いない。
「じつは〝豊穣の手〟のことをルーファス様にはまだ話していないの。わたしに前世の記憶があることも」
「それなら今からふたりで話に行きましょう」
「ええ……」
うなずきながらも、クリスティアは不安を隠せなかった。
初めに前世のことを話さなかったことを、ルーファスは不誠実だと思うかもしれない。
「大丈夫ですよ。僕もいるんですから、ルーファス様は信じてくれますよ」
「いえ、あの、そうじゃなくて、最初からほんとのことを言わなかったから、ルーファス様は怒ってしまわれるんじゃないかと思って……」
「ルーファス様があなたに対して怒るなんてありえませんよ」
なぜかモリスが自信満々に言い切る。
「前世からおふたりを見てきましたからね」
「前世は関係ないでしょう? ルーファス様は何も覚えていらっしゃらないのよ?」
「それでも、あの方はあなたに甘いです。今だって、あなたの話をする時のルーファス様の顔といったら……」
そこまで言って、モリスはわざとらしく咳払いをした。
「まあ、話してみればわかりますよ」
*
ルーファスが視察から戻るのを待って、モリスとふたりで執務室を訪れた。
「ふたりそろってどうした?」
書類から目を上げて、ルーファスが驚いたように言う。
「お忙しいところ大変申し訳ありません。じつは大事なお話がありますので、お時間をいただければと」
「なんだ? 改まって。いいぞ、話してくれ」
「それが、長くなりますので」
ルーファスは不審そうな顔をしたが、ふたりに椅子をすすめてから、自分も書類を置いて移動し、向き合って座った。
「僕が一生に一度だけ、〝時戻し〟の魔法を使えるのを知っていらっしゃいますよね」
「ああ」
うなずいた後、ルーファスはすぐにはっとしたような表情になった。勘の良い彼はモリスの言わんとするところをすでに理解したらしい。
「まさか、今はそれを使った後なのか」
「はい、そうです」
ありがたいことに思い出すのもつらいクリスティアの気持ちを察してか、モリスが前世で起きたことをルーファスに説明してくれた。




