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二度も断罪されましたが死に戻りましたので、今度は愛する人を守ってみせます  作者: 今尾曜
第二章 二度目の人生

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9 Side リリアナ②

 〝豊穣の手〟を持つリリアナに貴族たちの領地をまわらせても、作物の成長を早めるだけで、収穫量を増やせるわけではない。早く育てば、同じ土地でもう一度作物を作ることができるが、次に植えたものが順調に育つとは限らないから、単純に生産量が二倍になるということはない。


 それでも前の年に不作で苦しんだ地域の領主たちは、リリアナに希望を託した。

 少なくとも〝豊穣の手〟を使ってもらえば、作物は必ず実るからだ。


 だが、リリアナが救世主ともてはやされたのはわずかな期間でしかなかった。


 〝豊穣の手〟によって実りを得た領地には、翌年、通常よりも高い税金が課されたからだ。


 民を救済する政策だと思っていたのが、実は税収を増やすためだったのだと領主たちは嘆き、二度とリリアナを呼ぼうとはしなかった。


 税を増やすことを決めたのは王妃だったが、思うような結果を得られなかったことに激怒した。


 それをなだめたのは宰相だった。


 神殿と手を組み、リリアナの能力を使って()(せい)(そう)の生長を早め、聖水の生産量を増やすことで売り上げを伸ばし、収益の一部を密かに王妃に渡すよう話をつけたのだ。


 だが、最近ではそちらにも支障が出てきた。


 輝星草は神殿の奥にある森の中で栽培されているのだが、特別に作られたその農園で輝星草が次々と枯れていき、新しく種を蒔いても芽が出ないのだ。


 仕方なく新しく開墾した土地で育てているが、そこでも何度かリリアナが〝豊穣の手〟を使うと、同じように枯れていく。


 神官たちはリリアナの能力を疑うようになり、調査の為と称してリリアナの出入りを禁止した。


 報告を受けた王妃は表立っては何も言わなかったが、リリアナを見る目がさらに冷たくなった。


 初めて顔を合わせたときからずっとご機嫌を取っていたお陰で、王太子はリリアナを気に入っており、そちらは問題がないが、彼の思いがどうであろうと最終的には王妃の意向が重要だ。


 カミラはリリアナの立場が悪くなっていることを知っていたのだろう。


 リリアナにしてみればあのような取引とも言えない、完全に上から目線の要求を突き付けられたことがひどく屈辱だった。


(だいたいお姉様がルーファス様の婚約者にならなければ、カミラに目をつけられることなんかなかったのに)


 存在すら忘れていた姉が、急に目障りな存在に思えてくる。


     *


 幼い頃、父と母はほとんど口をきかず、家の中は冷たい空気が漂っていた。


 だが、祖父母のもとへ行った姉が帰ってこなくなってからは、父の顔が明るくなり、少しずつ家族の会話も増えていった。


 リリアナが姉のことを尋ねると、父は聞かなかったふりをし、母は表情を消して口をつぐんだ。


(お姉さまは悪い子だから、家から追い出されたんだわ)


 いつしかリリアナはそう思うようになった。


 その頃、父から姉が実子ではないと聞かされ、母を軽蔑したものの嫌いにはなれなかった。


 母はリリアナを可愛がってくれたし、姉のことさえ言わなければ優しかったからだ。


 ただ、姉がいないほうがうまくいくという思いはこの時からいっそう強くなった。


     *


(何も気にしてないような顔をしてたけど、ずっと領地に閉じ込められていたんだから、お姉様はわたしたち家族のことを恨んでるかもしれないわ。カミラの思い通りに動く気なんかないけど、わたしの邪魔をされても困る。今のうちにお姉様の弱みをつかんでおいたほうがよさそうね)


 リリアナは結婚前から母についている侍女のケリーを呼んで話を聞いた。


 彼女はリリアナを崇拝し、クリスティアを嫌っているので、涙ながらに噂に苦しめられていて真実を知りたいと頼むと、口外しないことを条件に知っていることを教えてくれた。


 父は三人兄弟の次男で、アルバートというひとつ年下の弟がいた。

 そのアルバートと母のヴェルマが恋仲だと噂されたことがあるのだという。


 ふたりが不貞をしたという証拠はないが、少なくともアルバートの方は明らかにヴェルマに恋心を抱いていたようだ。


「旦那様と婚約されていたのに、あんな風に恋焦がれるような目でみつめられては奥様も迷惑だったと思いますよ。お陰で旦那様にも疑われたんですから」


「お母様はその人のこと、好きではなかったのね」


「奥様は貞淑な方です。婚約者がいらっしゃるのに、他の殿方に目を向けるはずがありませんよ」


 ケリーは断言した。


「お姉様はその人に似ていたの?」


「いいえ。アルバート様は旦那様とそっくりで、髪と目の色も同じでした」


「今はどうしているの?」


「商人の家に婿入りすることになったので、貴族籍から抜けて平民になったそうです。五年ほど前に病で亡くなったと聞きました」


「そう……」


 リリアナはがっかりした。

 亡くなってしまったのでは当時の話を聞くこともできない。


「だいたいクリスティア様があのような容姿でお生まれになったのがいけないんですよ。ずっと奥様に疑いをお持ちだった旦那様は、弟ではなくて別の男と不貞をしていたのかとお怒りになって、奥様がどんなに否定しても信じてくださらなかったんです。奥様が不貞なんかなさるわけないのに」


 妻を信じられない夫ではなく、親に似ていないというだけで何の罪もない子どもを責める。


 おかしな話だが、この家では皆が当たり前のように、クリスティアが悪いと言うのだ。


 誰もが母の不貞などありえないと思っているが、父がそう言い張る以上、表立って逆らうことはできない。それで、クリスティアが悪者にされたのだ。


 だが、屋敷の外でそんな理屈は通用しない。


 両親に似ていない子どもを当主が領地に追いやったとなれば、妻の不貞が疑われるのは当たり前だ。夫である侯爵が否定しなかったから噂は消えず、さらに過去のアルバートの話まで持ち出された結果、平民と浮気したなどという尾ひれがつくことになったのだろう。


(疑って騒いでいたのはお父様だけだったのね。その当人がお姉様を娘だと認めてしまったのだから、出生のことは弱みにならないわね。ルーファス様も問題ないと判断したから婚約したのだろうし……)


「そういえば、お姉様の婚約はずいぶんと急だったけど、どなたかの紹介だったのかしら?」


「さあ? そのようなお話は聞いておりませんが」


(領地に籠っていたはずのお姉様が王都に来ていきなり辺境伯の子息と婚約した。考えてみればおかしな話だわ。ふたりはどこで知り合ったの? うちとはまったくつきあいのない家だったのに……)


 辺境伯家に関してはカミラだけでなく王妃も関心を寄せていると聞いたことがある。


 リリアナは人を使って、姉とルーファスのことを調べさせることにした。





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