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二度も断罪されましたが死に戻りましたので、今度は愛する人を守ってみせます  作者: 今尾曜
第二章 二度目の人生

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3

 屋敷に帰ると、ちょうど王宮から戻ったばかりのリリアナに出くわした。


「あら、お姉様、お久しぶりですわ。ごあいさつが遅れてごめんなさいね。いろいろと忙しかったものだから」


 あまりにもわかりやすく、勝ち誇ったような笑みを浮かべる妹を見て、クリスティアは吹き出しそうになるのをこらえた。


 領地で祖父母に愛され、妹と顔を合わせることなく過ごすことができたせいか、今ではこのような自信満々な態度に圧倒されることもない。


「元気そうで何よりだわ。お妃教育が始まってたいへんなのでしょう?」


 わざとらしく聞いてやると、心持ちあごが上がり、ますます誇らしげな態度になる。


「ええ、学ぶことが多くて。でも、王妃様がいつも気に掛けてくださるの。今日もいっしょにお茶をいただいたのよ」


(そういえば、王妃はリリアナがお気に入りだったわね)


 心の内ではもはや敬称などつける気にもならない。


 王妃は王太子を溺愛しており、息子のためにならないものは、容赦なく切り捨てる。


 前世では、クリスティアもそうやって排除されたのだ。


(ああ、今思い出しても腹が立つわ)


 王妃も王太子も大嫌いだし、いくらでもリリアナと仲良くしてもらって構わないが、嫌になるほど性格の悪い親子から、そろって酷い扱いをされたことが腹立たしい。


(それにしても、本当にあんな男と結婚したいの?)


 クリスティアにしてみれば、王太子は傲慢で思いやりがなく、考えの足りない愚か者で、良いところなどひとつもみつからない。


 確かに王太子妃に内定したことで、リリアナは将来、この国で最も身分の高い女性となる。


 それほどリリアナにとって王太子妃、いや、未来の王妃の地位は魅力的だということなのか。


 あまりにも性格や考え方が違いすぎるのか、前世でも妹のことはよくわからなかった。


 どうして、あそこまでクリスティアを追いつめ、苦しめなければならなかったのか?


 理解できないからこそ、今世では数えるほどしか会ったことはない妹を、恐れる気持ちが今も消えない。


 策略をめぐらせてルーファスまで死に追いやったことは許せない。


 報いを受けさせたいという思いは、当然のようにある。


 だが、それ以上に、今回は何もしないでほしいと願う気持ちのほうが強い。


 ルーファスが幸せならば、自分の恨みなど忘れてもいいとさえ思っている。


 彼を守るためにも、クリスティアは二度と妹に陥れられるわけにはいかないのだ。


 だからこそ、心に決めている。


(今回は絶対に〝豊穣の手〟の真実をあなたに告げたりしないわ)


 おそらく、それがクリスティアを排除しようとした理由のひとつだろうから。



     ***



 約束通り、三日後、神殿の庭園に行くと、すでにルーファスが雪月草の前に立っていた。


「あなたのことを調べさせてもらった」


「はい」


 当然のことだろう。むしろ、こちらの状況を理解してもらうにはそのほうがいい。


「妹君は〝豊穣の手〟の持ち主で、王太子殿下の婚約者だ。そうなると、侯爵家の跡取りはあなただろう。当家に嫁ぐというのは無理なのでは?」


「お調べになったのでしょう? 父はわたしを娘とは認めておりません。妹がふたり以上子供を産めば、その子に継がせるでしょうし、そうでなければ親戚筋から養子を迎えたいと思っているはずです。わたしが祖父母を説得してお許しをもらえば、父は喜んで家から出すでしょう」


「なるほど、よくわかった。では、雪月草の花を咲かせることができたら、私はあなたの申し出を受けよう」


「ありがとうございます」


(良かった……)


 ほっとしたが、まだ言わねばならないことがある。


「ただ、その……」


「何か問題でも?」


「それが、その、父のことなのですが……」


「はっきり言ってくれて構わないよ。私はせっかちだから、回りくどいのは好まないし、何を聞いても無礼だなどととがめたりしないので、遠慮はいらない」


(ああ、ルーファス様だ)


 久しぶりに彼らしい発言を聞いて、心が温かくなる。


 言い過ぎたかなと思っても、彼はいつも怒ることなく受け止めてくれた。


「クリスティア嬢は率直でいいな。裏表がなくて、なんだか安心するよ」


 うれしかった。そう言ってくれた時のルーファスの表情を、今でもはっきりと思い出せる。


「では、お言葉に甘えて申し上げます。もし結婚を許してくれても、父はたいして持参金を持たせてくれないと思います。そして、そのことを恥ずかしげも無くあなたに告げ、書面に残そうとするでしょう。それでも……」


「雪月草の花が咲くかどうかよりも、持参金のほうが心配なのか?」


 ルーファスが笑いをこらえるような顔になる。


「もし咲かなければ、わたしがレーヴェ領に行って雪月草のお世話をします。必ず花を咲かせてみせます」


 拳を握りしめて宣言すると、ルーファスはじっとクリスティアをみつめながら考え込んだ。


「ルーファス様?」


「ああ、ごめん。あなたがそこまで言ってくれるなら、花が咲くまで待つ必要は無いね。すぐにでも話を進めよう」


「えっ? いいのですか?」


「ああ。それと、持参金のことは問題ないよ。侯爵家であなたが不当な扱いを受けていることは知っているし、その元凶であるお父上の人柄についても、ある程度はわかっているつもりだ。持参金などなくてもかまわないし、そのことであなたに肩身の狭い思いをさせたりしないと約束する」


「本当に申し訳ありません」


 恥ずかしいのと情けないので、うつむくことしかできない。


「謝らないで。あなたは何も悪くないのだから」


 ルーファスはクリスティアの両手を包み込むように握った。


「ああ、そうだ。侯爵には、私があなたに一目惚れしたのだと言おう。どうしてもあなたを妻に迎えたいと、誠心誠意お願いするよ」


「ええ!?」


「大丈夫、あながち嘘でもないから。相手を口説き落とそうとする熱意には心を打たれたよ。私は情熱的な人が好きなんだ。大胆なだけじゃなく、事前準備を怠らない周到さがあるのもいい」


(いや、それはいろいろ必死だったからで……)


 頬が熱い。きっと真っ赤になっているに違いない。


 握られたままの両手を引くと、あっさりと放してもらえた。


 だが、ふたりの間の距離は近いままだ。


「吸い込まれそうに深い緑の瞳だね」


 顔をのぞき込むようにして言われ、ますますうつむいてしまう。


「柔らかくて、きれいな赤い髪だから、ふれてみたくなる」


 ルーファスはクリスティアの髪を一房すくい取り、そっと口づけた。


(ちょっと待って。ルーファス様って、こんな台詞、言えちゃう人だった?)


 もはや、クリスティアは失神寸前だ。


「すまない。なんだかあなたを見ていると、めちゃくちゃに甘やかしたくなるんだよな。ちゃんとつかまえて、絶対に離しちゃいけないような、そんな気になってしまうんだ」


 固まって、口もきけなくなったクリスティアを見て、ルーファスは名残惜しそうにもてあそんでいた髪を手放した。


「でも、忘れないで。今いったことは全部本気だから。なるべく早く求婚しに行くから待っていて欲しい」



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