第75神 おかしい
「…蓮置いてってよかったのか…」
「いやー、鷺沼、お前うちのあの父さんに逆らえる?俺は無理。普段はもぉ、仕方ないな〜みたいなこと言ってんのにあーいう時圧あるんだぞ勝てるわけない」
「…まぁ、俺も無理だけど」
置いて行った蓮のことを思い、鷺沼と色は少しだけ考える余裕ができる。
「父さんの話したいことってなんだろうな」
「…感情と人格の融合って言ってたよな」
父はそこを特に危惧しているような言い方だった。
俺や鷺沼も完璧に思い出しているとは言えない、前世の記憶。
父は前世どころかもっと前の記憶まで思い出している。
「────全部思い出したら、俺たちもあんな風に言われるのかな」
「いや、でもあの人守護者制度が始まるより前の記憶を思い出してんだぞおかしいだろ」
「えっ確かに」
「やっぱ異次元なだけ?」
「…幻治郎さん、何かあの人自体にあるんじゃないのか?」
「ちょっとうちの父さんをこれ以上バケモンにすんなよな」
「それはそうだ」
──ドームの前まで来て、入り口に着く。
扉の奥では人々の悲鳴が聞こえ、やがて押し寄せてくるように人が出てくる。
「やばいって!神様、助けて!」
「あれが悪魔の力なの!?」
そんな声が聞こえてくる。
神無の人間も神居の人間も関係なく慌ただしく出ていく。
「うぉ、人ごみ…」
押し寄せてくる流れの中に見知った顔がいたので捕まえた。
「うわ、って鷺沼!赤歳!」
「梟谷、ドームの中で何があったか教えろ」
少し離れたところに連れ出して、ドームの人混みを横目に梟谷と話す。
「いやー、最初はさ、龍の手を悪魔が掴んだのが始まり」
「龍の手を!?」
「そう、流石にヤベェじゃん?おいおい大丈夫か?って見てたら悪魔が願ったんだよ『神の世界から悪魔の世界に』って。
本格的にまずい空気になったのは空がほら黒くなったじゃん?その後だな」
「大量の悪魔が空から降ってきたんだよ、今も降ってきてる。
超能力が効かねえんだよー!」
「……超能力が効かない?」
「そう!みんなで打ったり切ったりしたけど歯が立たねえの!もうダメ!島崎君も戦ってたけどね…あれ、そういやあの子の攻撃は入ってたな」
梟谷の言葉にぴんっとくる。
つまり、守護者の力は悪魔に効く。
大地は守護者だ。戦えてる理由に納得がいく。
「わかった、ありがとう」
「おい、お前ら行くのか?危ないぞ」
「いや、これ多分守護者案件だから。守護者なら刃が通るんだと思う」
「はぁー、なるほどな!じゃあ、お前らに任せたからな!」
「おう」
ドームの中に入ると、そこは地獄絵図だった。
黒く淀んだ空から次々と出てくる、大小様様な形の黒い悪魔たち。
人型もいれば、形を保ってないものまでいた。
その下では大地だけじゃなく何人かの守護者が戦っていた。
「…おいおい、なんだこれ」
「とにかくいくぞ」
座席の横の階段を降りて跳躍し、大地の前に立つ。
「大地!状況は!」
「20分くらい経ちましたけど、戦況変わらずこっちが少し不利です。
悪魔の数が多すぎて、何人か負傷してます!」
悪魔を切りながら近寄ってきた桃梛が鷺沼に報告をする。
「代表!あの悪魔から手を奪わないことには、戦況を変えることは難しいかと」
実況席を指さした桃梛の先を見ると優雅に座って龍の手を弄んでいる悪魔がこちらを見下ろしていた。
その周りには大きな巨体の悪魔が二体、手前に5体ほどの強化された悪魔がいる。
『広大、悪魔は恐怖で力が増幅します。ドームにいた人々の恐怖を餌に今もなお強くなっているんじゃないでしょうか?』
鷺沼の守護神──ソフィアがそう告げてくる。
「…一体ずつ必ず討伐、俺と島崎と色、それから下崎で倒す。桃梛や朝梨、春雨たちは周辺の奴らを。
他の守護者も同様に、避難誘導、ドームの外から悪魔を出さないように警戒を怠るな!」
鷺沼の掛け声に全員が頷き返事を返す。
「はい!代表!」
「色、道切り開けるか」
「もち〜」
色が両足を軽く開き、大小様々な悪魔たちの前に立ちはだかる。
一枚の札を手にして笑う。
「我、色の名の下に告げる」
「俺の札に乗り移れ、狐の力で幻を生み出せ、俺に力を魅せろ」
札がゆらりと揺らめき、20枚ほどが色の周りを囲うように浮いた。
「幻影」
「狐の瞬き」
悪魔の身体を貫くように札から弓矢が出てくる。
小さな悪魔は浄化されたのか弓矢が刺さると同時に消えていく。
「そーら、道が開いたぞー」
「助かる、いくぞ!」
鷺沼が跳躍して悪魔の首を刈り取る。
島崎もまた、悪魔に刀を刺して、一体一体確実に刺していく。
「下崎」
「仕方ないなぁー!もう〜!」
下崎が、空に向かって叫ぶ。
「八代ぉー!」
ドンっと地響きと共にどこからともなく上から人が降って、悪魔が吹き飛ぶ。
『呼ぶのが遅い!!』
「来て早々怒るなよぉ…」
『大体あなたはいつも』
「ウェー…説教…」
嫌そうに耳を塞ぎながら、八代と呼ばれた大男──鬼神だ。
持っている金棒で悪魔を蹴散らしながら下崎に説教している。
「俺が命令しなくても勝手に戦ってくれるから八代って楽だよなぁ」
『余計な口を縫うことだって私できるんですよ?空人』
「やめよっかこの話」
鷺沼が悪魔の身体を半分に切ってから八代の元に来る。
「助かります八代さん」
『ああ、いえ状況は聞いてましたよ。
なかなか酷いものらしいじゃないですか…』
チラリと守護者たちの戦いを見て八代はため息をつく。
『と言っても、見ればなんとなくわかりますけどね』
「じゃ、八代」
下崎は八代を見上げる。
八代は下崎を見下ろし、言葉を待つ。
なんだかんだと主従ではあるのだ。
「頼んだよ、この辺の奴ら蹴散らしてくれ」
『チッ、労働するからには報酬を後で必ず渡すように』
「えぇっと、じゃあうちの猫をもふもふさせる権利でどう?」
『交渉は成立です!いいでしょう!』
ブォンと遠心力で金棒を振り悪魔が野球ボールのように、黒い空に向かって飛んでいく。
「ホームラーン…」
島崎は実況席に近づきながら、悪魔を刺して、切って、走る。
(俺が気づいていれば、こんなことにはならなかったんだ)
悪魔の手が目の前にくる、切り付けるよりも早く、掴むように吹き飛ばされる。
「がっ…!」
ぶつかったドームの壁に身体がめり込み、持っていた手から刀が落ちる。
いたい、痛い痛い!
「ゔっ、はぁ…!」
「大地!前に出すぎるな!」
遠くから鷺沼さんの声が聞こえてくる。
頭を強く打ち付けたのか、額から血が流れる。
「…こんなの、消耗戦だ」
何体倒しても、上から悪魔が降ってくる数は変わらない。
『…少しおかしくはないか?』
「……なにが?」
『これだけ殺しているのに、悪魔の数は減るどころか増える一方。
魔界と繋がっているとしたら、アルバートに対して反発している悪魔の量は異常ということになってしまう』
「…そうじゃないの?」
『俺が知ってる限り、魔王であるアルバートと魔界の関係は平和だったな。
そもそも、魔界にいる悪魔の人数がこのままだと不足する。耐久戦の方が合ってるかもしれないな』
「…魔界からの供給じゃない可能性がある…ってことか」
『そうなるな。
次に考えられる、可能性だが──あの悪魔の願いがねじ曲がってる可能性だ。
龍の手にあいつはこう願った。【神の世界から悪魔の世界へ】
であれば、悪魔の世界とは俺たちの知ってる魔界からではない可能性は?』
「……例えば、別世界の悪魔たちがここに召喚されている、とか、ってこと…?!」
その言葉に終がニヤリと笑う。
うちの神様はこの状況を危機として見るのではなく楽しんで見ている。
『あくまで可能性の話だがな』
立ち上がり、身体に残る埃や石を払う。
「終さん、怪我は?大丈夫?」
『…ふ、舐めるな。これでも俺は元戦士だ。慣れたもんよ』
怪我の様子は見えないし本人の声も至って元気だが、本当に大丈夫か…いや、心配するだけ無駄かもしれないな。
「よし、行くぞ」
携えた刀を持ち跳躍と共に刀で悪魔を斬るが、上手く刃が通らない。
刀を強く押し込むが、最後まで切れない。
「くっ…」
なんなら刀が抜けなくなってしまった。
「終さん呪いを刀に付与!!」
『ふ、任せよ』
じゅわりと刀から黒い煙が出て悪魔の身体が溶ける。
【◆◆■■○○★◇!】
絶叫を上げる悪魔をそのままに身体を半分斬る。
「よし!!」
最初に比べると少しずつ戦闘能力が上がっている気がする。
俺もこれで、終さんたちを支えられる!
切った悪魔が起き上がり身体が復活した。
そのことに気づかなかった俺は、自分の腹を貫く指に気づかなかった。
「、は、」
…こぽっ。口から血が出る。
まずい、まずいまずい。
「げぽ、ぉ、ま、さ」
鉄の味が口の中に広がり、落ちていく血が床に広がった。
終さんの叫び声が聞こえた気がした。
次回は文化祭の断片を少しだけお見せしますね。
短編二本(7時と17時)投稿します!
本編は22時です。
お暇があれば覗いてみてください。




